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maruho square リスクマネジメント:保険薬局で薬剤師ができる抗がん剤治療患者のサポーティブケア


  • 株式会社オオノ ひかり薬局 大学病院前調剤センター 薬剤師 塚本 弘美 先生

はじめに

近年、がん化学療法が外来でも多く行われており、薬局薬剤師の介入する機会が増えています。化学療法による副作用は多岐にわたり、時には患者さんの治療を妨げることがあるため、早期から介入する必要があると考えられます。日常生活で困っていることや我慢をしていることがあっても、副作用なので仕方がないと諦められていることもあります。薬物治療だけではなく、副作用に対応したケア商品をプラスすることで生活の手助けができるのではないかと考え、実際に行っていることをご紹介いたします。

取り組み内容

患者さんが手に取りやすいようなケア商品のコーナーを薬局内に設置しました(図1)。過去に相談があった内容や起こりやすい副作用を元に商品を選定しました。

  • 皮膚障害

    予防のために低刺激性の日焼け止め・泡状石鹸

  • 爪 障 害

    爪へのダメージや刺激臭の少ないマニキュア・爪やすり・爪用美容液・粘着性伸縮包帯・自着性伸縮包帯・ハイドロコロイドテープ

  • 脱  毛

    泡状シャンプー・帽子

  • 流  涙

    防腐剤を含まない人工涙液

図1. 店内設置コーナー
記事/インライン画像
図1. 店内設置コーナー

【介入事例①】

相談内容 : 60代 女性
EGFR-TKI(epidermal growth factor receptortyrosine kinase inhibitor)服用中(肺がん)
「お薬を飲み始めてから指先が腫れて痛みがあるの。それで皮膚科を紹介してもらって塗り薬を使っているけれど、まだ痛みがあり家事をするときがつらいの。でも治療のためだから仕方ないよね」とご相談がありました。
爪囲炎の治療には、お薬による治療と、テーピングによる治療があります。相談患者さんは皮膚科のコンサルトが行われていましたが、痛みを感じていることを悩んでいます。そこで、テーピング法を行うことで、日常生活でのストレスの緩和ができるのではないかと考えました。

1)爪囲炎とは

がん細胞の増殖に関わっているEGFRは、皮膚や毛包、爪などの正常細胞の増殖・分化にも深く関与しており、EGFR-TKI投与により爪甲の菲薄化・易刺激性がみられ、爪囲炎や陥入爪が起こるとされています(図2)。EGFR-TKI投与による爪囲炎の発症頻度は、13.5~56.8%という報告があります1~2)

図2. EGFR-TKIによる爪囲炎
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図2. EGFR-TKIによる爪囲炎

2)テーピング法

爪からの周囲皮膚や肉芽に加わる刺激や加圧を緩和する目的で行われます(図3)。

図3. テーピングの巻き方
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図3. テーピングの巻き方

3)介入後

患者さんより「テーピングをしてから指先の痛みが軽減して、家事の苦痛もなくなったわ。安心してお薬を続けられます」とうかがうことができました。
粘着性伸縮包帯によるテーピングを行ったことで、痛みが軽減しただけではなく、爪囲炎の悪化を防ぐことができました。また、患者さんは服用初期から爪囲炎により薬物治療への不安がありましたが、テーピングにより指先の痛みが軽減したことで日常生活での悩みや制限が緩和され、薬物治療への意欲が高まりました。

【介入事例②】

相談内容 : 70代 男性
S-1(テガフール、ギメラシル、オテラシルカリウム配合剤)服用中(胃がん術後)
「最近涙が出て、よく拭いている。涙のせいで目がかすむことも多いから、毎日読んでいた新聞や本も見なくなったな」というご相談がありました。
流涙により治療前の習慣だった読書ができなくなっており、少し気持ちが落ち込んでいるように見えました。そこで自覚症状を改善できないかと考え、防腐剤を含まない人工涙液によるウォッシュアウトを勧めました。

1)流涙とは

S-1中のテガフールはフルオロウラシルのプロドラッグです。フルオロウラシルが涙液中に移行し、細胞分裂の活発な角膜上皮細胞や角膜上皮幹細胞を障害することにより、角膜障害が発症すると考えられています。それにより、涙液分泌亢進や涙道障害による涙液排出低下が起きることが流涙の原因の一つとされています。また、フルオロウラシルを含んだ涙液が涙道を通過することで、涙道粘膜の炎症、涙道扁平上皮の肥厚と間質の線維化をきたし、涙道狭窄・閉塞が生じるのではないかと考えられています。流涙が軽度の場合には、防腐剤を含まない人工涙液によるウォッシュアウトを行い、進行例では、涙道チューブ留置術、涙小管形成術、涙嚢鼻腔吻合術などが行われます。

2)ウォッシュアウト

防腐剤を含まない人工涙液を目から溢れる程度1回数滴、1日6~10回程度点眼します。自覚症状が軽減したあとも予防的に1日数回の点眼を続けます。なお、ヒアルロン酸などの点眼はその粘稠性の高さから、フルオロウラシルなど抗がん剤成分を含有する涙液の停滞を起こし、角膜上皮障害を増悪させるので使用を避けるようにとされています。

3)介入後

患者さんより、「かすみ目が軽減し以前のように新聞や雑誌を見ることができるようになった」とうかがうことができました。
服薬により、副作用である流涙が生じ、毎日の日課である新聞を避けるようになってしまい、QOLが低下していましたが、流涙が軽減したことで以前の生活を取り戻すことができました。また、服薬を中断する不安も感じていましたが、中断することなく薬物治療が続けられました。

介入を通して

今回ご紹介した2例ともに、副作用の重症度は低く、治療に大きな影響があるものではありませんが、患者さんの日常生活にとっては影響を及ぼしているものでした。少なからず、副作用により患者さんは治療への不安を抱えてました。小さなことを我慢することで治療に対して気持ちが後ろ向きになることもありますが、今回の事例を通して、ケア商品を生活にプラスすることで治療に前向きになれるということを実感できました。

おわりに

病院では主に重篤化しやすい副作用など、生命や治療に影響を及ぼす内容に関する話が中心となります。しかし、治療をしていく中で、日常生活での悩みもでてきます。私たち薬局薬剤師は、患者さんとじっくりと話をすることで、個々の生活スタイルに合わせたケアを提案し、手助けできるのではないでしょうか。
ケア商品で対応できる症状は基本的に軽症の場合であり、副作用のGradeなどを確認し、必要に応じて専門医へのコンサルトを考慮します。ケアの仕方を紹介して終了ではなく、テレフォンサポートなどにより常に患者さんの変化を確認する必要があります。外来で治療を行う場合、入院時と異なり自宅では医療者がそばにいるわけではありません。次の外来まで相談できずに我慢を続けてしまう患者さんもいます。保険薬局の薬剤師がテレフォンサポートなどを通し、患者さんの変化を早期に発見・介入することが今後必要とされています。
保険薬局は患者さんにとって身近で相談しやすい場であるからこそ、薬物治療のサポートだけではなく、日常生活のサポートを行える場所にしていきたいと考えます。

引用文献:
  • Mok TS et al:N Engl J Med 361(10). 947-957. 2009
  • Sequist LV et al:J Clin Oncol 31(27). 3327-3334. 2013

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