メインコンテンツに移動

maruho square 保険薬局マネジメント:臨床判断と実践的品揃え、一元的継続的服薬管理で、セルフメディケーションを支援


酒や米、塩、タバコなどの専売品しか扱わず、その販売免許があれば食いぱっぐれがないと言われていたかつての業種店は、快適な生活のサポートをコンセプトにした品揃えを展開するコンビニエンスストアなどの業態店に取って代わられほぼ姿を消した。その歴史を酒屋の3代目でもあり、保険薬局経営薬剤師として目の当たりにしてきた佐々木先生。はたして保険薬局(調剤専業店)はドラッグストアという業態店に飲み込まれ、かつての業種店同様の運命を辿るのか-。
「保険薬局生き残りの鍵はセルフメディケーションの支援にあり、そのためには調剤情報を活かした臨床判断(トリアージ)とそれを具現化するための合理的なOTC(一般用医薬品)の品揃えおよび医療用医薬品・OTCの一元的継続的服薬管理が必要です」と話す佐々木先生にその詳細を伺った。

記事/インライン画像
一般社団法人宮城県薬剤師会 顧問 佐々木 孝雄 先生
  • 一般社団法人宮城県薬剤師会 顧問 佐々木 孝雄 先生

ドラッグストアの今後の動向予想と保険薬局への影響

新型コロナウイルス感染症が蔓延しだした2020年3月以降、患者の受診控えや処方日数の延長などの影響を受け、調剤報酬は毎月ほぼ前年割れで推移している。市場が縮小しているにもかかわらず、ドラッグストアにおける調剤業務は急伸しており、調剤報酬は右肩上がりだ。なぜなら、何らかの症状があって病院を受診した後にしか行くことがない非日常的な保険薬局に対して、ドラッグストアはトイレタリー用品や食料品を買うなどの日常的な需要で訪れる。ドラッグストアには薬と同じ消費サイクル(毎日使う)の日用品などが多く取り揃えられていることが挙げられる。日々の買い物ついでに薬を、薬を受け取るついでに日用品を買うといった具合に利便性が高い。
また、昨今ドラッグストアの調剤業界に対する参入障壁が低くなり、調剤部門がますます拡充されてきている。さらにドラッグストアが零売市場にも参入するのは明らかだ。一方、保険薬局、特に門前薬局の場合は、処方医との関係性からOTC販売も零売も容易ではなく、保険薬局への逆風は強くなるばかりだ。

OTC販売前に必要な臨床判断では保険薬局にアドバンテージあり

「調剤でも、OTC販売でも、患者さんから情報を収集し、全体像をつかまないと患者さんの変化は解釈できないと思います。“いま患者さんに何が起きているのか/薬により何が起きる可能性があるのか”を臨床的に判断し、その判断に基づいた対応策の策定および患者さんへの情報提供・指導を行い、次に患者さんが来られた時に結果(効果や副作用など)を検証するという薬学管理を実践していますが、この基本サイクルは患者さんには見えづらく、特にセルフメディケーションを薬剤師に支援してもらう文化が根付いていないと考えています」と佐々木先生。
OTC販売時の臨床判断は、薬局で対応可能な軽症疾患か、緊急性・重篤性が高い高度な医療が必要な疾患であるかの2つに分けることから始まる(トリアージ)。

図1. 調剤情報のトリアージへの活用
記事/インライン画像
図1. 調剤情報のトリアージへの活用

その具体的手順の第一段階は、全身状態の安定性をみること。ポイントはガス交換機能が維持されているか否かで、「長い文章を話せない/表情がうつろ/アイコンタクトができない」なら酸素飽和度が低下している(全身状態が不安定)と考え全身状態が不安定であれば、直ちに受診を勧める。全身状態の安定が確認できれば、第二段階として現病歴、既往歴、アレルギー歴、治療薬などの患者背景を探る。頭痛なら、片頭痛や緊張性頭痛に代表される一次性頭痛か、高血圧や緑内障などの疾患による二次性頭痛かを判断する。第三段階として、緊急・重篤疾患を疑わせる警告兆候の有無を判断し、それが認められれば受診勧奨を行う。以上の過程をクリアしてセルフメディケーションの適応と判断する。
次にOTC薬の選定にあたっては、基礎疾患に対して悪影響を及ぼさない薬か(例:緑内障に対する抗コリン薬)、治療薬と相互作用を有さないかなど、「制限事項」に該当するか否かを考慮する(図1)。
ただし、OTC販売の難しさは、患者さんのお金で全額購入しているため「いちいち面倒なことを言わずにすぐに売ってほしい」という心理が調剤以上に強く働くことである。精密なトリアージをいかに短時間で行うかが求められる。佐々木先生は「保険薬局は既に患者背景が分かるデータを有している点で、ドラッグストアに比べ大きなアドバンテージがあります」と述べ、保険薬局がOTC販売に取り組むメリットを強調する。

OTCと零売を含めた医療用医薬品の一元的継続的服薬管理が重要に

なにより保険薬局の薬学管理では患者の体調変化を継続的にフォローしていく必要があり、その前提条件となるのが一元的継続的な服薬管理である。その点からも、「保険薬局はOTC販売の取り組みを強化・拡充する必要があります。さらに昨今の零売市場の拡大を考慮すれば、今後は零売にも参入する必要がでてくるでしょう」と佐々木先生は話す。
保険薬局、ドラッグストア、零売薬局など販売チャネルの分断・増加により、患者さんの利便性は向上したが、一元的継続的服薬管理は低下している。一元的管理が担保されない中では、緑内障患者が「胃の調子が悪い」とロートエキス含有のOTCを購入する、あるいは「OTCでは咳が止まらない」と訴える患者さんが高血圧のためACE阻害薬を服用していたなど問題が生じるリスクが少なからずある。
保険薬局が調剤だけでなく、OTC販売、零売にも取り組み、それらを含めた一元的継続的服薬管理を行うことは患者のメリットに繋がるという。

対人的専門性による臨床判断とそれを具現化する対物的専門性が必要

保険薬局がOTC販売に取り組んだところで、陳列スペースが限られていることから、ドラッグストアのようにフルラインでの品揃えはできない。保険薬局からは「OTCで何を取り揃えておけばよいのか分からない」との声も聞く。

図2. セルフメディケーションを支える2つの専門性
記事/インライン画像
図2. セルフメディケーションを支える2つの専門性
表. 需要者のニーズの構成要素と考慮すべき成分
記事/インライン画像
表. 需要者のニーズの構成要素と考慮すべき成分

OTCは単味製剤が少なく、ほとんどが多剤配合製剤だ。例えば解熱鎮痛薬の主な配合成分は、解熱鎮痛成分、制酸成分、催眠鎮静成分とカフェインの4つ。風邪薬ともなれば、それら4成分に加えて気管支拡張成分、咳止め成分のほか、抗ヒスタミン薬や抗コリン薬などを含有するものもある。バリエーションが多く、品揃えに迷うのは当然である。
佐々木先生は「対人的専門性に基づいた臨床判断を具現化できる品揃え(対物的専門性)が基本です(図2)」という。患者の年齢、妊娠、主訴・随伴症状、合併症・併用薬、生活上の制約(自動車の運転など)や嗜好などさまざまな状況を想定し、それぞれの状況について必要な成分、使用不可成分を特定し、必要な品揃え(採用製剤)を明らかにしていく()。可能であれば、「車を運転する/学生で、眠くならない鎮痛剤が欲しい/出産を間近に控えているが解熱剤が欲しい」と複合する状況にも対応できる品揃えが望ましい。
しかし、単味製剤が少ない現状において、「売れ筋・指名買いのOTCは揃えておき、それが何らかの理由で提供できない場合の二の矢、三の矢までは最低限揃えておくのが合理的です」と佐々木先生。このようにして保険薬局の限られたスペースの中でもOTCをうまく取り揃え、零売にも参入し、臨床判断を具現化することにより、患者さんのセルフメディケーションの支援機能を高めていけば、患者さんに薬剤師の職能、薬学管理の基本サイクルを見せることができる。佐々木先生は、「このような視点をもって、今後、保険薬局はOTC販売にも注力していき、薬剤師の職能を患者さんに分かってもらえる舞台としてのOTCを、もう一度見直してほしいと思います」と結んだ。

お問い合わせ

お問い合わせの内容ごとに
専用の窓口を設けております。

各種お問い合わせ

Dermado デルマド 皮膚科学領域のお役立ち会員サイト

医学賞 マルホ研究賞 | Master of Dermatology(Maruho)

マルホLink

Web会員サービス

ページトップへ