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maruho square チーム医療と薬剤師:地域医療連携を進めるために、多職種を繋ぐコミュニケーションツールとしてICTを活用


八尾市立病院では、ICTを活用した『病診薬連携システム』を稼働させている。これは同院と地域の医療機関(病院、診療所、歯科医院、保険薬局など)をネットワークで接続し、患者さんから公開の同意を取得した同院の電子カルテデータを、地域の医療機関でも閲覧を可能とするシステムだ(図1)。これにより、保険薬局薬剤師(以下、薬局薬剤師)も、同院の電子カルテデータの一部を閲覧できるとともに、同院への情報フィードバックも容易に行えるようになった。このシステムの開発と新機能の追加など、薬-薬連携の促進に努めている小枝先生に、これまでの経緯と現状、今後の展望を伺った。

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八尾市立病院 事務局参事 薬剤師 小枝 伸行 先生
  • 八尾市立病院 事務局参事 薬剤師 小枝 伸行 先生

システム稼働当初、オンライン環境の不備や患者同意の取得困難が薬局薬剤師の壁に

『病診薬連携システム』を稼働させたきっかけを教えてください。
【小枝】2004年、当院が新築移転に伴い、医師会から「地域医療機関をネットワークで繋いで欲しい」という要望をいただいたことが、きっかけです。しかし、八尾市個人情報保護条例もあり、2012年12月からようやく八尾市内において当院を中心とした『病診薬連携システム』を稼働させるに至りました。また、各地でネットワーク構築が進み、北摂地域においても大阪大学医学部附属病院を核として市立豊中病院、市立池田病院、市立吹田市民病院などが連携を図り、大阪府医療情報コンソーシアムを進めています。当院も、大阪大学医学部附属病院と連携し(図1)、病院間で情報交換・共有を図っています。
図1:病診薬連携システム
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図1:病診薬連携システム
『病診薬連携システム』に保険薬局が参加することになった背景は。
【小枝】薬局薬剤師は、病名や検査値が分からず、入院期間中の治療内容も分からない状況で調剤しています。こうした問題の解決策として、病診薬連携システムへ保険薬局が参加するのが望ましいと考えられたため、八尾市薬剤師会に働きかけ、参加意向を示していただきました。当院と八尾市薬剤師会が協力して薬局薬剤師を対象に病診薬連携システムの使用方法や、病名、略語、検査値などの見方についての勉強会を何度か行い、参加保険薬局を募りました。
八尾市立病院(大阪府八尾市龍華町1丁目3番1号)
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八尾市立病院(大阪府八尾市龍華町1丁目3番1号)
保険薬局の『病診薬連携システム』への参加はメリットが多いと思いますが、稼働当初の参加薬局、共有患者数が少ないのはなぜですか。
【小枝】実は、2013年度は参加8薬局()のうち、実際に病診薬連携システムをしっかり活用していたのは当院から離れた地域にある2薬局で、共有患者の多くはその2薬局の患者さんでした。参加薬局が少なかったのは、当時、インターネット接続が可能な端末がない薬局がほとんどでした。また、参加してもシステムを活用しなかった理由として、①患者さんを待たせず投薬するのに精一杯で、システムを使う時間的余裕がないこと、②患者さんから同意を取れないこと、③当院の処方箋を応需していないことが考えられました。
表:共有患者数と連携施設数
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表:共有患者数と連携施設数

閲覧範囲を拡大、同意取得を容易にするなど保険薬局が参加したくなる工夫を

2年目以降、参加薬局や共有患者数は着実に増えていますね。
【小枝】当初は、保険薬局では病名、検査値、処方薬、注射薬、アレルギー歴や副作用歴などしか閲覧できず、閲覧期間は4日間(閲覧期間中は過去1年間の履歴も閲覧可能)でした。しかし、稼働後2年間、患者さんからのクレームもなく、八尾市薬剤師会が開催していた症例検討会では「患者さんの検査値が分かり、うまく説明ができた」などの成功事例が多数報告されていたことや、「医師の処方意図を知りたいため、診療記録を開示して欲しい」「副作用がでる可能性の時期にも閲覧したいため、公開期間を長くして欲しい」などの要望もあり、2015年4月から、薬局薬剤師も診療記録、退院サマリーなどを閲覧可能とし、閲覧期間も60日間としました。この改良により、事前情報が何もない薬局薬剤師は、患者さんに「今日は〇〇薬がでていますが、どうされましたか?」「鎮痛剤がでていますが、痛むのはどこですか?」と根掘り葉掘り聞き、患者さんから警戒されることがありましたが、事前に電子カルテを見ていれば、「今日は化学療法を受けられたのですね。体調はいかがですか」「××で整形外科を受診されて、足が痛むのですね」などと話を切り出し、病院の医師や看護師から受けた説明と同じ説明を行うことができるため、患者さんの安心感や、疾患や治療に対する理解も深まるというメリットも生まれたからだと思います。
「同意書が取れない」という問題については、薬局薬剤師、患者さん双方のハードルを下げるために処方箋に同意書をつけることにしました(図2)。ちょうど同時期、処方箋に検査値の印字を始めるため、用紙サイズを大きくしたことで実現できました。また、薬局薬剤師が同意を得た際に、患者さんに撤回書を渡し、「病院に撤回書を持っていけば(口頭でも可能)、保険薬局への電子カルテデータの公開を中止する」旨を伝えていただくことにしました。これらにより同意取得のハードルが低くなり、共有患者数が増えています()。最近では、当院の入退院支援センターが患者さんから「電子カルテデータを保険薬局に公開する」という同意を得て、保険薬局に対して「入院前お薬整理」などの依頼を行っています。
この他に、八尾市内に限定していた保険薬局を、当院の患者さんの約30%を占めている大阪市平野区も参加可能としました。
図2:同意書付き処方箋
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図2:同意書付き処方箋

薬-薬連携による切れ目のない治療をめざし保険薬局から病院へのフィードバック機能を活用

『病診薬連携システム』の情報共有ツールとして保険薬局から病院へのフィードバック機能があると聞いていますが、どのようなものですか。
【小枝】システムのもともとの機能として『新規メモ作成』というのがあり、数年前から、トレーシングレポートの提出、プロトコールに基づく薬物治療管理(PBPM)や後発品への変更などについても、『新規メモ作成』機能を用いた保険薬局からのフィードバックを受け付けています。経口抗がん剤などを服用している通院患者さんに対して、「(テレフォン)フォローアップ」が薬機法の改訂で義務づけられました。薬局薬剤師は、病診薬連携システムを介してトレーシングレポートで病院に報告できます。入退院時情報共有に関してもオンラインで可能とするなど、ほとんどが病診薬連携システム上でできるようにしています。

SNS機能など新たな機能を導入し、保険薬局を含め多職種連携を促進

最後に、今後の展望をお聞かせください。
【小枝】まだ開発段階ですが、病診薬連携システムの新たな機能として、登録された利用者同士が交流できるSNS機能を導入しました。SNS上では、癌チームや入退院支援チームなどさまざまなチームを作成でき、チームメンバーで情報共有できるようになっています。
例えば、家族よりヒアリングした内容や、患者訪問時の状況などをメンバーと共有し、意見交換するといった具合です。薬局薬剤師であれば、入退院支援チームなどに参加し、入院予定の患者さんの処方箋をカメラで撮影し、あるいはe-お薬手帳のQRコード(調剤情報)を用いて、病院側と情報を共有するという使い方が想定されます。
今後、SNS機能など新たなツールを病診薬連携システムに導入していくとともに、その普及に努め、コミュニケーションツールとしてICTを活用し、患者さんを中心とした多職種連携を促進していきたいと考えています。

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