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maruho square チーム医療と薬剤師:後期高齢者医療の中で薬剤師や多職種と「繋がる」を考える~慢性期病院薬剤師の立場から~


医療法人愛生会くまもと温石病院(一般病床51床、医療機関併設型介護医療院52床、療養型医療病床52床:熊本県下益城郡)は、後期高齢化率(75歳以上)26.7%、高齢化率(65歳以上)44.1%の地区にある慢性期二次病院である。入院患者の平均年齢は83.7歳。高齢者では、複数の慢性疾患を有し、認知症などのために服薬に対する理解力低下、麻痺による手指機能不全、視力・聴力などの低下により服薬アドヒアランスが低下しやすい。森先生は「高齢入院患者に対して薬剤管理指導を行うには、薬剤師のみならず多職種や家族との連携が必要になる」と指摘する。その実際と今後の展望を伺った。

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医療法人愛生会くまもと温石病院薬局長 森 直樹 先生
  • 医療法人愛生会 くまもと温石病院 薬局長 森 直樹 先生

リハビリスタッフや看護師と連携し、薬を「飲む」までを支援

高齢入院患者に薬剤管理指導を行うにあたり、多職種での介入を始められたきっかけを教えてください。
【森】15~16年前に私が当院に赴任した当時は、薬剤師の病棟活動は確立しておらず、何をすればよいのか右往左往する日々でした。そのような中、薬をきちんと飲めていない患者さんが少なからずおられ、看護師が自己判断で、薬剤を粉砕や溶解しているケースが散見され、「粉砕できる・できない薬剤の一覧表」を作成しました。
また、食事に作業療法士などのリハビリスタッフが介入していることに着目し、①片麻痺や運動障害によりPTPや分包紙から薬剤をうまく取り出せない患者さんに対しては、PTPや余った分包紙での開封訓練を、②インスリン自己注射ができない患者さんに対しては、インスリン練習キットやボールペンを使った注射訓練を、③嚥下障害で薬がうまく飲み込めない患者さんに対しては、とろみやゼリーを活用する、舌の真ん中より奥に薬を入れるなどの対策を、④吸入薬が必要な患者さん(図1)に対しては、デバイスの使用方法や吸入手技、吸入後の口腔ケアを作用療法士、言語療法士、看護師や歯科衛生士に依頼するなど、多職種と連携し、薬剤管理指導を行い、今に至っています。
図1:喘息の吸入ステロイド薬での連携
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図1:喘息の吸入ステロイド薬での連携
一人ひとりの患者さんに他の専門職と連携しながら、薬を実際に飲むまでの支援をされているわけですね。
【森】高齢者は個体差が大きいため、個々に最適なアプローチを実践し、患者さんがきちんと服薬できるように努めています。
その際、「どこに退院するのか」「誰の支援を受けられるのか」といった退院後の生活環境を把握した上で、目標を決めて介入しています。例えば、リハビリを実施しても患者さんの機能が向上せず服薬が困難な場合、家族や訪問看護師の来訪にあわせて1日1回などの服薬可能な処方設計を医師に提案しています。

くまもと温石病院(熊本県下益城郡美里町中小路835)

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くまもと温石病院(熊本県下益城郡美里町中小路835)
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くまもと温石病院(熊本県下益城郡美里町中小路835)

入院中の薬学的支援について院外の病院/保険薬局薬剤師と情報を共有

退院後の薬学的管理は他院や保険薬局の薬剤師が行うことになりますが、情報共有はどのようにされていますか。
【森】入院中の薬学的支援を院内のみに限局させないために、10年以上前から「施設間情報提供書」(以下、情報書)を作成し、患者さんが退院する際にお薬手帳の裏に貼り付けたビニール袋の中に入れて渡しています(図2)。情報書は、手指/嚥下/認知機能、服薬方法、介助者、といった情報に加え、保険薬局の要望を取り入れ、入院情報や病名などを追加していっています。
図2:お薬手帳の活用と情報書
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図2:お薬手帳の活用と情報書
現在、宇城地区にある他の病院でも「施設間情報提供書」を活用されているようですが。
【森】2009年に、宇城地区薬剤師会が医療安全のために薬局と病院薬剤師の連携推進事業(全国12地区)に参加することになりました。私はそのプロジェクトリーダーとして参加しました。2009年3月の1ヶ月間、宇城地区の4病院は患者退院時に保険薬局に、保険薬局は入院時に病院に、情報書(当時は当院のもの)を渡す薬薬連携に取り組みました。しかし、保険薬局は患者さんがいつ入院したか分からない、情報書を埋められるほどの情報がないなどもあり、病院薬剤師の8割は、保険薬局から有用な情報を得られないという評価でした。一方、保険薬局は100%、病院から有用な情報が得られたと、高い評価でした。
幸い、時代が薬薬連携推進の方向に進んだこともあり、2019年に同じアンケート調査を実施したところ、情報共有の満足度は病院が0%→42.2%、保険薬局が46.1%→67.2%と向上し、保険薬局が情報提供を受けた率も増えました(図3)。現在では、各施設が施設の患者特性に応じた情報書を作成し、薬薬連携を推進しています。
図3:保険薬局が情報書を受け取った率
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図3:保険薬局が情報書を受け取った率
薬剤師間の情報共有化ツールは「お薬手帳」が中心的役割を果たしているのですか。
【森】現時点で一番普及している「お薬手帳」を多職種間の情報ツールとして使うべきだと考えています。当院では、骨粗鬆症治療薬のように注射薬と内服薬の剤型がある薬剤の重複投与を避けるため、外来診療で注射した場合には看護師が、患者さんのお薬手帳に「注射薬実施シール」を貼付しています。
また、患者さんの腎機能情報を得た際、シール貼付基準に当てはまれば、お薬手帳の表紙に「eGFRチェックシール」を貼付(図2)しており、腎機能に応じた投与設計に繋げています。2020年1月6日時点の配布数は33,300枚です。これは、有志数名で立ち上げた「熊本PK-PD研究会」で、腎機能低下時に減量が必要な薬剤を入院時持参薬で調査した結果、必ずしも腎機能に応じた減量がなされていない現状が明らかになったことから始めた取り組みです。

共通言語で対話し、頼り・頼られる関係に多職種連携による薬学的支援を介護施設でも

症例検討会や連携セミナーなども開催されていると聞いています。
【森】顔の見える関係性を構築することも大切と考え、2010年からは年1~2回のペースで、病院2題、保険薬局2題の「宇城薬剤師会症例検討会」を開催しています。また、2018年から年1回、1時間の講演後に参加者がざっくばらんに意見交換する「宇城地区病診薬局連携セミナー」も始めました。
宇城地区では多職種連携が確実に浸透しつつありますが、そこで心がけておられることを教えてください。
【森】こちらから話しかければ、話してくれ、頼れば、頼られるようになります。まず、「頼る」ことも大事だと思います。例えば、リハビリスタッフに「呼吸訓練でどこまでできますか?」と聞けば、「なぜですか?」となり、「吸入を始めた患者さんが吸っても音が鳴らないので、音が鳴るようにしたいと思って」と言うと、呼吸訓練をしてくれ、「患者さんはうがいが可能ですか?」と相談すると、うがいの評価をしてくれます。うがいができない場合は、「食事前に吸入して食事で流しましょう」と提案できます(図1)。
また、お互いが理解できる共通言語で話すことも重要です。左側をリハビリスタッフは「さそく」と言います。共通言語を知る目的で勉強会を開催したり、多職種と話をすることで、お互いが分かり合える言葉を認識することも多職種連携には大切です。そして、一番大切なのは「すべては患者さんのために」ということだと思っています。
最後に今後の展望をお聞かせください。
【森】今後は、介護施設でも展開したいと考えています。介護施設は15~16年前の当院と同じで、自己判断で粉砕したり、トロミの水で服用する必要のある患者さんに水で服用させ、誤嚥性肺炎を発症したり、という状況にあるからです。まずはケアマネージャーと薬剤師が連携できるように、薬剤師の取扱説明書的な資料を渡すことから始めようと考えています。
ありがとうございました。

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