第1回:問題意識の起点は目の見えない一人暮らしの患者さんの退院
薬学・看護学教育から在宅現場まで実践踏まえ長崎の連携体制推進(全3回)
- 手嶋 無限 氏
- 株式会社ONEDERS アイビー薬局(長崎県長崎市)/取締役副社長
第1回:問題意識の起点は目の見えない一人暮らしの患者さんの退院
手嶋氏は、長崎大学大学院修了後、2006年に同大病院薬剤部に入職しました。当時、いくつかの病棟を担当する中で、病棟専従の薬剤師としては眼科と神経内科を担当しました。そのなかで、一人の糖尿病性網膜症で目が見えない患者さんがおり、「この人は家に帰って、本当に暮らせるのだろうか。家に帰っても病院とつながらないと難しいと強く思いました」と述べ、施設間を含め多職種連携の必要性を強烈に意識する経験になったと振り返ります。また、同じ頃、長崎市医師会を中心に同大病院も関わった「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」や緩和ケアのためのオープンカンファレンス導入など、多職種連携への認識が高い周辺環境のなかで、手嶋氏は院内外での他職種とのチャンネルを広げていきました。第1回は手嶋氏の略歴と多職種連携に関わるきっかけや経緯などについて伺います。
再入院を減らすには退院後も病院とのつながりが必要と強く認識

私は福岡大学薬学部に進み、厚生省の薬剤師実務一年研修を経て、長崎大学大学院修士・博士課程を終えて、2006年に同大病院薬剤部に入職し、抗がん剤の中央管理や外来化学療法の推進にも関わるなか、病棟専従としても勤務していました。当時、病棟業務を通じて感じていたことは、入院中はしっかりケアされていた方でも、退院後、なぜ再入院してくるのだろうかということでした。
当時、私は入局後に消化器内科、消化器外科、呼吸器内科、呼吸器外科などの病棟の担当経験を経て、入局4年目に眼科と神経内科の病棟専従薬剤師として担当しました。眼科では糖尿病性網膜症で目の見えない患者さんがおられ、家に帰ると一人暮らし、しかもインスリンをはじめ様々な薬が必要でした。そのため、この方は家に帰って一人で過ごせるのだろうかと、その時に強烈に心に引っかかったことを今でも覚えています。入院患者さんの多くは、家に帰っても病院とのつながりが無く一人で生活することは難しいのではないかと思い始めました。
当時、厚労省のOPTIMプロジェクト「緩和ケア普及のための地域プロジェクト」がありました。私は直接関わってはいませんでしたが、2008年から2年間、長崎市が全国4地域の一つとして選ばれました。それを機に、長崎大学病院、長崎市民病院(現:長崎みなとメディカルセンター)、長崎原爆病院などのがん診療連携拠点病院で、地域の開業医や薬剤師、看護師らが参加する、緩和ケアのためのオープンカンファレンスが始まりました。
病院薬剤師時代の院内、地域在宅医とのつながりが今に生きる
そのような環境のなかで、私は病院薬剤師の立場でしたが、地域医療に積極的に参加した方が良いと思うようになり、いくつかのプロジェクトなどを介し、院外では開業医や在宅医の先生方とも顔見知りになっていきました。院内では緩和ケアチームの医師とのつながりが増え、担当外ですがNSTや褥瘡のチーム医療などで行われていたカンファレンスの傍聴もさせていただきました。今思うと、院内外で見聞きしたことや、他職種の方とつながったことが、今の地域での他職種の方々とのつながりに結びついてきたのだろうと思います。
2010年からは薬局に勤め始めたのですが、ちょうどその頃に、長崎大学薬学部が代表校として地域の3大学4学科(長崎大学薬学部・医学部保健学科、長崎県立大学看護栄養学部、長崎国際大学薬学部)、1自治体(長崎県)、4職能団体(県薬剤師会並びに病院薬剤師会、県医師会、県看護協会)により「長崎薬学・看護学連合コンソーシアム」が組織化され、薬看連携の共同プロジェクトが実施されました。そのプロジェクトでは専任准教授の立場で2年間、教育にも携わりました。
その次のプロジェクトでは、医療・介護・福祉に関わる大学学科および職能団体を加えた3大学8学科・4自治体・12職能団体・1法人による「在宅医療・福祉コンソーシアム長崎」が組織化され、特任准教授として関りました。現在も長崎大学医学部・薬学部、長崎県立大学看護栄養学部などの非常勤講師として授業の一部を担当しています。
- 多職種連携のキーパーソン~地域医療を支える薬剤師~ Vol.4
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- 第1回:問題意識の起点は目の見えない一人暮らしの患者さんの退院
- 第2回:口腔ケアや皮膚トラブルへの対応を通じ薬剤師職能を周知
- 第3回:回診同行とともに看護師や介護職員に向け薬の知識を啓発