巻き爪のキホン~病態・治療・評価法~
巻き爪の病態と治療
爪の解剖と生理
- 監修:
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- 慶應義塾大学病院 皮膚科 齋藤 昌孝 先生
<爪の生え方>
爪は爪母で作られ、爪床と密着した状態を保ちながら遠位側に伸びていきます。成人の手の爪は1日に約0.1mm伸び、足の爪は手の爪よりも遅く、1日に約0.05mm伸びます。

巻き爪とは
- 監修・写真提供:
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- 慶應義塾大学病院 皮膚科 齋藤 昌孝 先生
爪が過度に彎曲した状態を指して「巻き爪」と呼びます。彎曲の程度によって、軽度、中等度、重度と識別されることがあります。



巻き爪の原因
- 末節骨の変形
- 窮屈な靴やハイヒール
- 圧迫の強いストッキングや靴下
- 歩行量の不足
- 外反母趾
- 乾癬や爪白癬等の皮膚疾患
など、巻き爪の原因は多岐にわたります。
矯正具を用いた巻き爪の治療
- 監修:
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- 慶應義塾大学病院 皮膚科 齋藤 昌孝 先生
巻き爪に対する治療としては矯正治療が主流であり、巻き爪マイスターをはじめ、様々な矯正具が販売されています。いずれも、爪の過度の彎曲を徐々に改善させるものです。

コイルばねに内蔵された超弾性合金ワイヤの弾性力を利用し、爪の彎曲を矯正します。コイルばねの伸縮性によって、比較的短時間で爪側縁部に装着が可能です。超弾性合金ワイヤはコイルで抱合されているため、安全性にも考慮された設計になっております。




上記のほかにも様々な矯正具が販売されています。
巻き爪の評価法
- 監修:
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- 北赤羽さきやま皮膚科崎山 とも 先生
【はじめに】
巻き爪の治療において、重症度や治療効果判定のために客観的な記録を残すことは、非常に重要です。
本記事では、巻き爪の爪甲の彎曲の程度を客観的に示す評価法とその検証結果について、北赤羽さきやま皮膚科 崎山 とも 先生に解説いただきました。
【巻き爪の客観的な評価法:爪幅狭小化率】1)
爪幅狭小化率は、爪甲表面に沿って計測した横幅(爪甲両側縁の実寸幅)に比べて、彎曲によって実際の横幅(爪甲両側縁の幅)がどの程度狭小化しているかを表す評価法です(図1)。
図1に示すように、A:実寸幅、B:爪甲遠位での両側縁幅、C:爪甲近位での見かけ上の幅を計測し、
遠位爪幅狭小化率=B/A×100(%)
近位爪幅狭小化率=C/A×100(%)
をそれぞれ計算します。※小数点以下四捨五入

算出される爪幅狭小化率は、数値が小さいほど爪甲の彎曲が強いこと、すなわち重症の巻き爪であることを示唆します。
【検証方法】1)
臨床的に爪の疾患やトラブルをかかえていない健常人(26歳~48歳、平均年齢33.8歳)の母趾24趾の爪甲(以下、健常爪)と、臨床的に巻き爪と診断された患者(45歳~84歳、平均年齢67.3歳)の母趾24趾の爪甲(以下、巻き爪)で、それぞれ遠位および近位爪幅狭小化率を算出し、比較検討を行いました。
【結果】1)
- 1)遠位爪幅狭小化率
- 健常爪の最小は73%、最大は89%であり、平均は80.5(±4.7)%(以下括弧内は標準偏差を示す)でした。一方、巻き爪の最小は0%、最大は50%で、平均は32.4(±13.5)%であり、健常爪と巻き爪の遠位爪幅狭小化率は、p=2.93×10-9と有意差を認めました(Mann-Whitney U 検定)。
- 2)近位爪幅狭小化率
- 健常爪の最小は69%、最大は85%であり、平均は76.5(±4.8)%でした。一方、巻き爪の最小は50%、最大は78%で、平均は65.9(±7.1)%であり、健常爪と巻き爪の近位爪幅狭小化率もp=2.65×10-6と有意差を認めました(Mann-Whitney U 検定)。
健常爪と巻き爪の代表的な臨床写真を、それぞれの爪幅狭小化率とともに図2に示します。

【まとめ】1)
健常爪と巻き爪それぞれの遠位爪幅狭小化率の平均値には顕著な差があることが示され、臨床写真(図2)から伝わる爪甲の彎曲度、すなわち巻き爪の重症度に対して、算出される爪幅狭小化率は相応していました。一方で、近位爪幅狭小化率の平均値では、健常爪と巻き爪を比べて遠位ほどの差は認めず、これは巻き爪では近位から遠位に向かって爪甲の彎曲度が増している場合が多いことを反映しているものと考えられます。
どの程度爪甲が彎曲していれば巻き爪とするかは、あくまで診察した医師の主観的な診断になるため、数値によって健常爪と巻き爪を区切ることに意義は少ないと考えられますが、この評価方法を用いることで、遠位と近位をともに評価して爪の全体的な形状を把握でき、また疼痛に関与することの最も多い爪甲遠位両側縁の位置もしっかりと反映させて評価することができます。
この評価法が最も有用な場面は、巻き爪に対して何らかの治療を行う場合と考えられます。重症度や矯正治療の効果判定を数値の増減をみることで客観的に行うことが可能であることから、忙しい外来診療の場においても有用であると考えられます。
- 崎山とも, 他:日皮会誌 2016;126(12):2275-2280. ©日本皮膚科学会