ヒルドイドソフト軟膏0.3%の臨床試験結果
炎症が鎮静化し乾燥症状が主体のアトピー性皮膚炎の寛解維持に対する保湿剤の有用性の検討1)
試験概要
- 目的
- 炎症が鎮静化し乾燥症状が主体のアトピー性皮膚炎(以下、AD)の寛解維持に対する保湿剤の有用性を確認することを目的とした。
- 対象
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以下の選択基準を満たしたAD患者65例を対象とした。
頭/頸部、体幹、上肢、下肢のいずれかにADに起因した炎症が鎮静化し、皮疹の重症度が軽微(炎症症状に乏しい乾燥症状が主体)で、乾燥および落屑のスコア(下表)がいずれも1以下となった部位(100cm²を目安)を有する20歳以上65歳未満のAD患者。
乾燥および落屑のスコア スコア 乾燥 落屑 0 なし 皮膚乾燥は認められない 落屑は認められない 1 軽微 皮膚がごくわずかに乾燥し、細かい鱗屑が付着している ごくわずかに落屑が認められる 2 軽度 皮膚がわずかに乾燥し、鱗屑が付着している わずかに落屑が認められる 3 中等度 皮膚が明らかに乾燥し、やや大型の鱗屑が付着している 明らかな落屑が認められる 4 高度 皮膚が高度に乾燥し、大型の鱗屑が付着している 大量の落屑が認められる - 方法
- 前観察期間に対象部位へヒルドイドソフト軟膏0.3%(以下、HIS)を1日2回塗布※した。
前観察期間中に炎症の再燃が認められず、寛解が維持された症例をHIS継続塗布群と無処置群に無作為に割り付け、最大6週間観察した。両群とも炎症の再燃が認められた場合は、直ちに試験を中止し適切な治療を施した。
ステロイドおよび免疫抑制薬の全身投与、対象部位への他の外用薬および他の保湿剤の使用、PUVA(UVA+ソラレン)療法は禁止した。試験デザイン:多施設無作為化比較試験(RCT) 記事/インライン画像※ヒルドイドソフト軟膏の用法・用量:通常、1日1~数回適量を患部に塗擦又はガーゼ等にのばして貼付する。
- 評価項目
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[主要評価項目]
観察期間中における対象部位の炎症の再燃(炎症症状が軽症以上)の有無を記録し、再燃日を記録した。[副次評価項目]
各観察日(あるいは中止日)に皮膚所見(乾燥・落屑)、痒みの程度(右表)を、5段階で評価した。試験期間を通じて発現した有害事象(自覚症状および他覚所見)についても記録した。痒みのスコア スコア 痒み 0 ほとんど痒みを感じない 1 時にむずむずするが、かく程ではない 2 時に手がゆき、軽くかく 3 かなり痒くて、人前でもかく 4 いてもたってもいられない痒み - 解析方法
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結果は、平均値および標準偏差で表示した。検定はすべて両側検定とし、有意水準は5%とした。
(1)炎症の再燃までの期間
炎症の再燃までの期間の分布は、Kaplan-Meier 法により記述し、log rank 検定により群間比較した。
(2)炎症の再燃の有無
群別に頻度集計を行い、χ2 検定により群間比較した。
(3)皮膚所見(乾燥および落屑)スコアおよび痒みスコア
開始日と最終評価日(6週後あるいは中止時)のスコア変化量を、Wilcoxon 順位和検定により群間比較した。
患者背景
項目 | HIS継続塗布群 | 無処置群 | |
---|---|---|---|
安全性・有効性 解析対象 | 32例 | 33例 | |
性別 | 男 | 7例 | 10例 |
女 | 25例 | 23例 | |
年齢(歳) | Mean ± SD | 30.1 ± 8.3 | 29.9 ± 7.9 |
最年少~最年長 | 20~53 | 21~57 | |
重症度 | 軽症 | 15例 | 16例 |
中等症 | 17例 | 16例 | |
重症 | 0 | 1例 | |
抗ヒスタミン薬・ 抗アレルギー薬の併用 |
なし | 26例 | 28例 |
あり | 6例 | 5例 |
すべての項目で群間の偏りは認められなかった。
結果
- 非再燃率の比較[主要評価項目]
HIS継続塗布群では12日後から、無処置群では7日後から炎症の再燃が認められ、HIS継続塗布群において有意な寛解維持効果が認められた。(log rank検定 p=0.0117 名目上のp値)

- 炎症の再燃の有無[主要評価項目]
観察期間中、炎症の再燃「あり」は、HIS継続塗布群で4例(12.5%)、無処置群では13例(39.4%)であり、HIS継続塗布群において有意に再燃が抑えられた。(χ2 検定 p=0.0136 名目上のp値)
項目 | HIS継続塗布群 | 無処置群 |
---|---|---|
炎症再燃なし | 28例 (87.5%) |
20例 (60.6%) |
炎症再燃あり | 4例 (12.5%) |
13例 (39.4%) |
- 乾燥、落屑、痒みスコアの推移および各スコアの変化量[副次評価項目]

*最終観察日までの変化量をWilcoxon順位和検定により検討、名目上のp値
- 有害事象
HIS継続塗布群で3例3件(「痔核」、「胃腸炎」、「ざ瘡」各1件)、無処置群で3例3件(「頭痛」、「咽喉頭疼痛」「膿疱性ざ瘡」各1件)発現したが、いずれも試験薬との因果関係は否定され、副作用は認められなかった。
ヒルドイドソフト軟膏0.3%の副作用:総投与症例119例中、本剤による副作用は認められなかった。(承認時)
同一成分薬のヒルドイドクリーム0.3%における副作用は、総投与症例2471例中23例(0.93%)に認められ、主なものは皮膚炎9件(0.36%)、そう痒8件(0.32%)、発赤5件(0.20%)、発疹4件(0.16%)、潮紅3件(0.12%)等であった。(効能追加時)
同一成分薬のヒルドイドローション0.3%では、総投与症例121例中、本剤による副作用は認められなかった。(承認時)
- 川島 眞ほか:日皮会誌, 117(7), 1139-1145, 2007より一部改変 ©日本皮膚科学会 2007