アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療
アトピー性皮膚炎の治療の基本は、薬物療法、スキンケア、悪化因子の検索・対策であり、病態に基づいて治療方針を検討します1)。
薬物療法
外用薬
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- ステロイド外用薬
- アトピー性皮膚炎の治療の基本となる薬剤です1)。
皮疹の重症度に応じて使用するステロイド外用薬の強さ(ランク)を選択し、病変の性状や部位により剤型を使い分けます1)。
ステロイド外用薬のランクは、ストロンゲスト、ベリーストロング、ストロング、ミディアム、ウィークに分類されます(表1)1)。軽微な皮疹ではステロイドを含まない外用薬を使用し、軽症ではミディアム以下のステロイド外用薬を、中等症ではストロングないしミディアムのステロイド外用薬を第一選択とします1)。重症では必要かつ十分な効果を有するベリーストロングのステロイド外用薬を第一選択としますが、十分な効果が得られない場合は、その部位に限定してストロンゲストを選択することもあります1)。必要十分量の外用が重要で、第2指先端から第1関節部まで口径5mmのチューブから押し出された量(約0.5g)を1FTU(Finger Tip Unit)としたときのステロイド外用量の目安が示されています(表2)1)。
アドヒアランスを上げるよう、患者への十分な説明、指導を行っていく必要があります1)。米国のガイドラインではステロイドを7つのランク(Ⅰ. very high potency、Ⅱ. high potency、Ⅲ-Ⅳ. medium potency、Ⅴ. lower-medium potency、Ⅵ. low potency、Ⅶ. lowest potency)に、ヨーロッパでは4つのランク(very potent、potent、moderate potency、mild potency)に分けている。海外の臨床試験データを参考にする場合には、日本とはステロイド外用薬のランクの分類が違うことに注意する必要がある。
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- タクロリムス軟膏
- タクロリムスは、ステロイド外用薬とは全く異なる作用機序により炎症を抑制します1)。
ステロイド外用薬による副作用が懸念される症例でも使用が可能です1)。
びらん、潰瘍面には使用できません1)。
外用量は0.1gで10cm四方を外用する程度を目安とします1)。成人での0.1%軟膏1回使用量の上限は5g、小児での0.03%軟膏の使用量は2~5歳(20kg未満)で1回1gまで、6~12歳(20kg~50kg)で2~4g、13歳以上(50kg以上)は5gまでとされています1)。
副作用として、灼熱感、瘙痒、紅斑等がありますが、多くは皮疹の改善に伴って軽減、消失します1)。皮膚感染症の出現に留意が必要です1)。
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- デルゴシチニブ軟膏
- デルゴシチニブはヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬の1つであり、JAKファミリーのキナーゼ全て(JAK1、JAK2、JAK3、チロシンキナーゼ2)を阻害し、免疫細胞の活性化を抑制します1)。
使用量は1日2回、1回5gまでです。皮膚感染症に十分注意し、発現した場合は発現部位への本剤塗布を中止し適切な感染症治療を行うことが必要です1)。
全身療法
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- 抗ヒスタミン薬
- アトピー性皮膚炎の瘙痒に対して使用します1)。
ガイドラインでは、非鎮静性第二世代抗ヒスタミン薬はアトピー性皮膚炎における抗炎症外用療法の補助療法として提案されています1)。
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- ステロイド内服薬
- アトピー性皮膚炎の急性増悪、重症・最重症の寛解導入時に使用します1)。
長期間のステロイド内服は全身性副作用が発現する可能性があるため、使用は短期間にとどめるべきとされています1)。
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- バリシチニブ
- JAK1/JAK2の選択的かつ可逆的阻害薬であり、既存治療により十分な治療効果が得られなかったアトピー性皮膚炎患者に使用します1)。
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- デュピルマブ
- インターロイキン(IL)-4受容体およびIL-13受容体を構成するIL-4受容体αサブユニットに結合し、IL-4およびIL-13を介したシグナル伝達を阻害する遺伝子組み換えヒトIgG4モノクローナル抗体です1)。
デュピルマブは、既存治療により十分な治療効果が得られなかったアトピー性皮膚炎患者に使用します1)。
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- シクロスポリン
- 16歳以上で、既存治療により十分な治療効果が得られなかった最重症のアトピー性皮膚炎患者に使用します1)。
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- ネモリズマブ注)
- IL-31と競合的にIL-31受容体Aに結合することにより、IL-31の受容体への結合及びそれに続く細胞内へのシグナル伝達を抑制する遺伝子組換えヒト化抗ヒトIL-31受容体Aモノクローナル抗体です3)。
ネモリズマブは、アトピー性皮膚炎に伴う瘙痒に既存治療で効果不十分な場合に限り使用します3)。
注)アトピー性皮膚炎診療ガイドライン20211)において、ネモリズマブは記載されていません。
スキンケア
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- 保湿外用薬
- 保湿外用薬の使用により、アトピー性皮膚炎で低下した角質層の水分含有量を改善し、皮膚バリア機能を回復・維持します1)。
皮膚バリア機能が改善されることで、アレルゲンの侵入予防、炎症の再燃予防、瘙痒の抑制につながります1)。
代表的な保湿外用薬を表3に記載しています1)。外用回数は1日1回よりも1日2回(朝・夕)、そのうち1回は入浴直後が望ましいとされています1)。塗布量は第2指の先端から第1関節部まで口径5mmのチューブから押し出された量(約0.5g)が手掌2枚分に対する適量です。正常に見える部位も含めて全身に塗布することが望ましいとされています1)。
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- 入浴・シャワー浴と洗浄
- 皮脂汚れ、体液の付着、黄色ブドウ球菌などの感染性病原体の定着はアトピー性皮膚炎の悪化要因になりえます1)。
皮膚の生理機能を維持するため、入浴・シャワー浴により皮膚を清潔に保つことが重要です1)。
入浴・シャワー浴時の湯の温度、石鹸・洗浄剤の使用方法、軟膏残渣への対応に注意します1)。
悪化因子の検索と対策
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- 非特異的刺激
- 唾液、汗、髪の毛の接触、衣類との摩擦などの非特異的刺激により症状が悪化することがあります1)。
唾液や汗は洗い流すか、濡れた柔らかいガーゼなどで拭き取ります1)。
アトピー性皮膚炎では皮膚の乾燥、湿疹により痒みに過敏になっており、羊毛素材やごわごわした素材の衣類、髪の毛の先端部の接触などの軽微な刺激でも痒みが生じます。
そのため、刺激のない衣類の選択、髪の毛を短く切る、もしくは束ねるなどの工夫が必要です1)。
その他にはナイロンタオルなどの硬い素材による清拭を避ける、石鹸・洗浄剤を適切に使用する、掻破の対策として爪を短く切るなどの生活指導も重要です1)。
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- 接触アレルギー
- アトピー性皮膚炎の治療に対する反応性が十分でない場合、皮疹の分布が典型的でない場合、成人例では最近になって発症・悪化した場合は、接触アレルギーの合併を疑います1)。
被疑物質との接触を避けた後の皮疹の観察、パッチテストにより診断します1)。
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- 食物
- アトピー性皮膚炎患者、特に乳児では食物アレルゲンが関与していることがあります1)。
食物アレルゲン除去の実施の判断は、抗炎症治療による皮膚症状の改善がみられなかった場合にアレルゲン除去試験を行い、その結果に基づいて行います1)。
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- 生活環境中の吸入アレルゲン
- ダニ、室内塵、ペットの毛、花粉などの環境アレルゲンが悪化要因であるかは、臨床症状、特異的IgE抗体価やプリックテストに加え、病歴、環境の変化と皮疹の推移などに基づいて総合的に判断します1)。
環境アレルゲンの対策として、以下のようなものがあります1)。- ・ダニ:布団に掃除機をかける、抗ダニシーツを使用する、ベッドにぬいぐるみを置かない
- ・ペット:手放す、ペットを洗う、寝室にペットを入れない
- ・花粉:帰宅時は家屋に入る前に衣類に付着した花粉を払い落とす、帰宅後は速やかに洗顔を行う、花粉用眼鏡・マスクを着用する、抗ヒスタミン薬を使用する
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- 発汗
- 発汗量の減少による皮膚温の上昇、ドライスキンは皮膚炎の悪化に関与します1)。このような患者では、汗をかけるようになることが治療目標となります1)。
比較的汗をかけている患者には、発汗を避ける指導は必要なく、発汗後の皮膚表面の余剰な汗を残さないよう指導を行います1)。
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- ストレス
- 問診を通じて、患者にとって何がストレッサーとなっているかを聞き取り、助言や指導を行うことが大切です1)。
ストレスにより瘙痒が強まったときの対処法として、気分転換や物理的な冷却、汗の拭き取りなど具体的にアドバイスします1)。
- 日本アレルギー学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021. アレルギー 70(10), pp1257-1342, 2021
- 日本皮膚科学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2018. 日皮会誌, 128, pp2431-2502, 2018
- ミチーガ皮下注用60mgシリンジ 電子化された添付文書 2022年3月