アトピー性皮膚炎の疫学・病態
アトピー性皮膚炎の疫学
アトピー性皮膚炎は一般に乳幼児・小児期に発症し、加齢とともにその患者数は減少し、一部の患者が成人型アトピー性皮膚炎に移行すると考えられています1)。
小児期~思春期の有症率
保健所および小学校健診での医師の診断による全国規模の有症率調査2、3)では、4か月児12.8%、1歳6か月児9.8%、3歳児13.2%、小学1年生11.8%、小学6年生10.6%、大学生8.2%でした(図1 A)1)。また、男児と女児の有症率に差はみられませんでした1)。
成人の有症率
国内3大学の大学職員を対象とした有症率調査4)によると、20歳代が10.2%、30歳代が8.3%、40歳代が4.1%、50~60歳代が2.5%でした(図1 B)1)。また、男女別有症率は、男性が5.4%、女性が8.4%でした1)。
この職員健診調査は症例数も少なく、地区や職業も限定されており参考データですが、アトピー性皮膚炎は小児や思春期のみならず、20歳代・30歳代の若い成人においても頻度の高い皮膚疾患である可能性を示唆しています1)。
- 日本アレルギー学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021. アレルギー 70(10), pp1257-1342, 2021
- 山本昇壯:アトピー性皮膚炎の患者数の実態及び発症・悪化に及ぼす環境因子の調査に関する研究. 平成14年度厚生労働科学研究費補助金:免疫アレルギー疾患予防・治療研究事業研究報告書:第1分冊, 2003:71-77.
- Saeki H, et al.:Br J Dermatol, 2005;152(1):110-114.
- Saeki H, et al.:J Dermatol Sci, 2009;55(2):140-141.
アトピー性皮膚炎の病態
「アトピー性皮膚炎は、増悪と軽快を繰り返す瘙痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くは「アトピー素因*」を持つ。
*アトピー素因:①家族歴・既往歴(気管支喘息、アレルギー性鼻炎、結膜炎、アトピー性皮膚炎のうちいずれか、あるいは複数の疾患)、または②IgE抗体を産生しやすい素因」と定義しています(抜粋)1)。
- 日本アレルギー学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021. アレルギー 70(10), pp1257-1342, 2021
アトピー性皮膚炎の病因
アトピー性皮膚炎は多病因性の疾患です1)。アトピー素因(体質)とバリア機能の脆弱性等に起因する皮膚を含む臓器の過敏を背景に、様々な病因が複合的に関わる事がアトピー性皮膚炎の病態形成に関与します1)。それら病因間にヒエラルキーのないことがアトピー性皮膚炎の症状や表現型の多様性に貢献します1)。
アトピー性皮膚炎の発症機序2)を図2に示します。
- 日本アレルギー学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021. アレルギー 70(10), pp1257-1342, 2021
- 落合慈之 監修、五十嵐敦之 編集:新版 皮膚科疾患ビジュアルブック, 学研メディカル秀潤社. pp30-31, 2012
アトピー性皮膚炎の症状・臨床所見
特徴的な左右対称性の分布を示す湿疹で、強い瘙痒を伴います1-3)。一般に、季節によって増悪と寛解を繰り返し、乾燥しやすい冬季や春先、または夏季の運動時に増悪する傾向があります3)。また、年齢によって症状や好発部位に特徴があり、乳幼児期(4歳まで)、小児期(思春期まで)、成人期(思春期以降)の3期に大別されます3)。
乳幼児期
頭部および顔面の紅斑や鱗屑、漿液性丘疹にはじまり、次第に体幹に拡大していきます3)。湿潤傾向を示して痂皮や鱗屑を付着し、頭部の厚い痂皮や離乳食の刺激による口囲や下顎部の病変もみられます3)。体幹や四肢の皮膚は乾燥し、毛孔一致性小丘疹の集簇により鳥肌様を呈します3)。
小児期
皮膚全体が乾燥して光沢と柔軟性を欠き、肘窩や膝窩、腋窩などの四肢屈曲部に掻破痕を伴う苔癬化局面が形成されます3)。また耳介部の亀裂もよくみられます3)。体幹では乾燥部位に毛孔一致性丘疹が多発し、容易に湿疹病変となります3)。
成人期
成人期になると首や胸、背中など上半身の広範囲にわたって苔癬化が拡大する傾向があります3)。顔面のびまん性紅斑や、頸部のさざ波状色素沈着、強い瘙痒を伴う四肢の痒疹結節などが多発し、治療に難渋する例もみられます2、3)。
- 日本アレルギー学会:アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021. アレルギー 70(10), pp1257-1342, 2021
- 落合慈之 監修、五十嵐敦之 編集:新版 皮膚科疾患ビジュアルブック, 学研メディカル秀潤社. pp31-32, 2012
- 清水宏:あたらしい皮膚科学 第3版, 中山書店. pp120-121, 2018
アトピー性皮膚炎の合併症
アトピー性皮膚炎患者では、皮膚のバリア機能低下により、皮膚の感染症が生じやすい状態にあります1)。そのため、次のような感染症を生じることがあります1)。
- 伝染性膿痂疹(とびひ)
- 尋常性疣贅
- 伝染性軟属腫(みずいぼ)
- 単純ヘルペス
- カポジ水痘様発疹症
また、顔面、特に眼周囲の皮膚症状が強い場合、白内障や網膜剥離などを合併することがあります1、2)。
- 落合慈之 監修、五十嵐敦之 編集:新版 皮膚科疾患ビジュアルブック, 学研メディカル秀潤社. p32, 2012
- 清水宏:あたらしい皮膚科学 第3版, 中山書店. p122, 2018