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開発秘話


    ペンレスを開発した日東電工株式会社を取材し、誕生の経緯、開発当時のお話などをお聞きしました。

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    徳田 祥一 氏

    いかにして短時間で効果を発揮させるかがペンレス開発のポイント。
    日東電工が得意とするテープ剤開発の技術を生かし、世界初の局所麻酔用テープ製剤が誕生しました。

    日東電工株式会社 メディカル事業部 製造統括部
    医薬製造部長 徳田 祥一 氏

    ペンレステープ18mgはリドカインを18mg含有する貼付用局所麻酔剤で、静脈留置針穿刺時の疼痛緩和を目的に開発されました。30分の貼付で皮膚局所麻酔を可能にした技術とはどのようなものなのか、開発に至る経緯や工夫、ペンレステープの特徴などについて、開発者である日東電工株式会社の徳田祥一氏にお話を伺いました。

    (徳田祥一氏の所属・役職はインタビュー当時のものです)

    医療従事者にもメリットのある経皮吸収型の局所麻酔剤

    ペンレステープの開発の経緯を教えてください

    ペンレステープの開発は、共同開発先である日本レダリー株式会社(現ファイザー株式会社)から注射時の痛みを緩和する外用局所麻酔剤を開発できないか、という話をいただいたことがきっかけです。その当時、外用局所麻酔剤の剤形には液剤やローション、クリームなどがあり、これらは口腔や咽頭、食道などの粘膜の表面麻酔には適していましたが、正常皮膚に対しては、十分な麻酔効果は得られませんでした。そのため、透析などの静脈留置針穿刺時の疼痛を緩和する方法としては、局所麻酔剤の皮下あるいは皮内注射しかなく、無処置のまま穿刺を行っている医療機関も多かったため、痛みを十分に除去できない現状でした。局所麻酔注射時や、静脈留置針穿刺時の疼痛をなくすことは、患者さんにとってはもちろんのこと医療従事者にもメリットをもたらすものであり、簡便に使用できる経皮吸収型の局所麻酔剤の需要は非常に高いと考えられました。

    さらに、弊社は工業用テープをはじめとして非常に多くの種類のテープを開発しており、医薬品についても虚血性心疾患治療剤(硝酸イソソルビド)テープや気管支拡張剤(ツロブテロール)テープなどの経皮吸収剤の開発を経験していたため、テープ剤に関して多くの知見がありました(図1)。そこで、静脈留置針穿刺時の疼痛緩和をターゲットにした局所麻酔用テープ製剤の開発に着手することになりました。

    図1:日東電工の医療用粘着テープ
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    日東電工の医療用粘着テープ

    短時間で局所麻酔効果を発現させるために最適な条件を検討し、粘着剤や支持体を選択

    ペンレステープ開発におけるポイントとは?

    テープ剤は薬物と粘着剤を混合した粘着層(膏体層)と支持体の2層で構成されています(図2)。テープ剤の透過性や刺激性は薬物の濃度や粘着剤、支持体の特性などによって決まるため、開発にあたってはテープ剤の目的に合った最適な条件や素材を見出し、設計していく必要があります。

    図2:テープ剤の断面模式図
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    テープ剤の断面模式図

    ペンレステープの場合、その使用上の特徴から、いかに短時間に局所麻酔効果を発現させられるかが焦点となりました。一般に薬物濃度と皮膚への透過力は相関しますが、薬物濃度がある一定以上になると皮膚透過速度がプラトーになることが知られています。このような現象は粘着剤や薬物の物性に依存しますが、リドカインは皮膚透過性に優れた物性を有していることから、濃度に比例した麻酔効果が得られるのではないかと考えられました。そこで、まず膏体中のリドカイン濃度を変化させたときの放出性に及ぼす影響を検討したところ、リドカイン濃度の増加に伴い放出が速くなり、リドカイン濃度60%では20分後の放出率がほぼ100%と、非常に速い放出性が認められました(図3)。さらに、局所麻酔効果もリドカイン濃度に依存して増加し、放出速度の速いテープ剤ほど麻酔効果が強かったことから、リドカインの至適濃度は60%と考えられました1)

    図3:種々のリドカイン濃度に調製された製剤からのリドカインの放出挙動
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    種々のリドカイン濃度に調製された製剤からのリドカインの放出挙動

    これらの結果から、リドカイン濃度を60%に設定しましたが、これは粘着剤濃度が40%しかないことを意味します。通常、テープ剤の粘着剤濃度は80~90%が一般的とされている中、40%というのは非常に低濃度です。そのため、実用可能な皮膚接着性を有しながら、はがすときに皮膚に残らない粘着剤を開発する必要がありました。

    ペンレステープにはどのような粘着剤が使われることになったのですか?

    テープ剤に使用される粘着剤にはシリコン系、合成ゴム、アクリル系などがあり、その素材により接着特性が異なります。シリコン系や合成ゴムに比べて、アクリル系は接着特性や保持力に優れ、安定した物性を有しているため、ペンレステープの粘着剤として採用しました。さらに疎水性成分、親水性成分の配合比や、アクリルモノマーの種類を変えた5、6種類のアクリル系粘着剤のサンプルを作製し、モルモットを用いた麻酔効果試験などの様々な検討を行った結果、最適と考えられる粘着剤の組成を選びました。

    ペンレステープにはどのような支持体が使われているのですか?

    支持体には不織布のような水分の透過性の大きいものや、逆に透過性の小さいポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレンなどのフィルムがあり、それぞれ特性が異なるため、目的に適した支持体を選択します。ペンレステープの場合、短時間で局所麻酔効果を発現する必要があるため、経皮吸収速度を上げ、かつ密封療法(ODT; occlusive dressing technique)の効果が得られ、薬物が支持体を透過しにくく薬効成分の放出に影響を与えないポリエステル系の支持体を採用することになりました。さらに5、6種類の支持体のサンプルの中から安定性や薬物の透過性などについてスクリーニングを行い、最も適しているものを選択しました。

    刺激性が低く、使いやすい形態や形状を考慮

    皮膚の刺激性に対し、どのような配慮がなされていますか?

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    徳田 祥一 氏

    皮膚の刺激性には物理的刺激と化学的刺激があります。物理的刺激には、粘着剤を剥離するときに表面の角質が除去されるために発生するものと、支持体が硬く皮膚の動きに追従できなくなって発生するものがあります。そのため物理的刺激を小さくするためには、角質剥離を起こしにくい粘着剤や、できるだけ薄くてやわらかい支持体を使用することが有効です。一方、化学的刺激は薬物や粘着剤の成分により引き起こされる刺激であるため、一次刺激性試験、累積刺激性試験、感作性試験などの安全性試験により化学的刺激の少ない粘着剤を選びます。ペンレステープにおいても、刺激に関する試験を行い、物理的、化学的刺激の少ない粘着剤や支持体を選択しました。

    テープ剤の色にもこだわったということですが、形態、形状はどのようにして決まりましたか?

    テープ剤の色は、穿刺部である血管の走行状態や、刺激が発生したときの皮膚の状態などが目視で観察できるよう、透明にする必要があると考えました。リドカイン自体は結晶のため少し半透明ですが、非常に粘着層が薄い(20µm)ため、支持体を透明のフィルムにすることによって、透明のテープ剤が実現しました。
    サイズに関しては、穿刺を失敗したときにテープ剤をもう1枚貼る必要がないよう、2回目の穿刺をどの程度ずらしているかについて医療従事者にリサーチし、現状のサイズ(30.5×50.0mm)が2回の穿刺に対応できる適切な大きさと判断しました。テープ剤の厚みに関する検討では、皮膚に接着、固着するために最低限必要な厚みとされる10µmから60µmまで10µmごとに厚みを変えたテープ剤を作製し、モルモットを用いて局所麻酔効果の検討を行いました。その結果、20µm以上では局所麻酔効果が増加しなかったため、膏体の厚みを20µmに設定しました。

    テープ剤の貼り方、はがし方のコツ

    開発者の立場から、ペンレステープを使うにあたっての注意点を教えてください

    まず貼り方ですが、指には皮脂や角質があるため、テープ剤の粘着面を指で触ると接着力が落ちてしまいます。ライナーをはがすときには、粘着面に指などが触れないように注意しながら、しっかりと皮膚に密着させて貼付することが重要です。ライナーを最初に半分だけはがし、90度に折り返してずらすように貼るときれいに貼付できます(図4図5)。

    図4:ペンレステープライナーのはがし方
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    ペンレスTMテープライナーのはがし方
    図5:ペンレステープの貼り方
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    ペンレスTMテープの貼り方

    一方、テープ剤は剥離時に多かれ少なかれ角質をはがし、皮膚刺激を惹起します。ペンレステープの接着力はあまり強くはありませんが、端からゆっくりとはがすことが皮膚刺激を発現させないポイントです。また、他のテープ剤の場合は剥離による皮膚刺激を減らすよう、貼付部位を毎回少しずつ変えることを推奨しているのですが、ペンレステープが用いられる透析などの場合、穿刺部位が限られてくるため、貼付部位を頻繁に変えるわけにはいきません。そのため、できれば保湿剤を塗るなど、日常的に皮膚のケアを行うことが望ましいのではないかと思われます。

    今後は、さらに長時間作用型の経皮吸収剤や粘膜吸収、経鼻吸収なども視野に入れた研究開発を

    テープ剤の可能性として今後どのようなものが期待できますか?

    現在、世界的にみても経皮吸収型の製剤はそれほど多くはありません。皮膚にはバリア機能があり、経皮吸収に適した薬物は限定されるためです。弊社の医薬品研究部門では、安全性を担保しながら、従来は皮膚を透過できなかったような分子量の大きい薬物も透過させる技術開発を精力的に行っています。これらの技術により、今まで以上に長時間作用するテープ剤の開発が可能になるのではないかという展望を持っています。
    さらに経皮吸収だけでなく、粘膜吸収や経鼻吸収などのドラッグデリバリーシステムへも手を広げ、研究開発を行っていきたいと考えています。

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    徳田 祥一 氏
    1. 徳田祥一ら:日東技報 31(2), 70-75, 1993

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