リネイルゲル10%の開発の経緯
リネイルゲル10%(以下、本剤)は、有効成分としてアセチルシステインを含有するゲル剤である。アセチルシステインは、スルフヒドリル基を有する化合物であり、爪の構成成分であるケラチンに含まれるジスルフィド結合を還元して開裂することで爪を軟化させると考えられる。
巻き爪は、爪甲の両側縁が内側に向かって過度に彎曲した状態となる日常的にみられる疾患であり1)、巻き爪の多くは足の第1趾に生じる2, 3)。巻き爪を治療せずに放置すると、爪甲の彎曲が増強して側爪溝への圧迫が強まり、痛みや炎症を引き起こす可能性があること、末節骨の骨棘形成を伴った爪床のリモデリングが生じてより難治性となることから、早期の治療介入の検討が必要である1)。
これまで、国内において巻き爪矯正の補助を対象とした医療用医薬品は承認されていなかった。巻き爪の主な治療として、外科的治療と保存的治療があり、外科的治療は侵襲性が高いことや手術後に起こる爪の変形等の問題があることから、1990年代を境に超弾性ワイヤなどの爪矯正具を用いた保存的治療が広く利用されている4)。しかし、保存的治療において1回の矯正で爪甲の彎曲の改善が不十分な場合には、治療に3~6ヵ月と長期間を要するため、臨床現場では、より早期に巻き爪の矯正効果が期待でき、かつ1回の治療で十分な効果がある治療法が望まれている。
マルホ株式会社は、日本薬局方に収載されており、吸入剤、経口剤及び注射剤として既承認の有効成分アセチルシステインを10%含有するゲル剤を、爪矯正具との併用による巻き爪治療用剤として開発した。今回、巻き爪患者を対象とした第Ⅲ相試験により、爪矯正具と本剤の併用による有効性と安全性を検討した結果、「巻き爪矯正の補助」を効能・効果として製造販売承認を申請し、2023年3月に承認を取得した。
- 齋藤 昌孝 他:MB Derma. 2017; 258: 47-57.
- Baran R, et al.: Dermatol Surg. 2001; 27(3): 261-266.
- 崎山 とも 他:日皮会誌. 2016; 126(12): 2275-2280.
- 青木 文彦:日フットケア会誌. 2018; 16(4); 200-207.