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第1回:家族看護の第一歩は、家族を気にかけること


    皮膚疾患の患者さんと家族を支える-家族支援専門看護師の立場から-(全3回)

    藤井 真樹 氏
    学校法人聖マリアンナ医科大学川崎市立多摩病院(神奈川県川崎市)/家族支援専門看護師

    第1回:家族看護の第一歩は、家族を気にかけること

    全国でも数少ない家族支援専門看護師として活躍する藤井氏。皮膚疾患の患者さんを心配するあまり、そのご家族に一方的な指導を行ってしまった反省から、「患者さんだけでなく、家族の理解も重要」と、家族看護を専門的に学ぶようになったそうです。第1回では、家族支援専門看護師の役割や皮膚疾患の家族支援などについてうかがいました。

    「家族も支えなければ、患者さんはよくならない」との思いから専門看護師に

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    学校法人聖マリアンナ医科大学川崎市立多摩病院(神奈川県川崎市) 家族支援専門看護師 藤井 真樹 氏

    進路を考えている際にある記憶がよみがえってきました。4歳で心臓の手術を受けるために入院していたときのこと、水を飲むことも許されず不安と闘っていた私に、看護師さんが「頑張っているご褒美」といって、水を含ませたガーゼで口を湿らせてくれたのです。私も誰かを元気づけたい-。それが看護師を志したきっかけでした。

    看護師になって最初に勤務したのは、皮膚科・麻酔科・整形外科の混合病棟でした。その後、胸部外科、小児科のハイケアユニット(HCU)などで経験を積み、産休・育休を経て、10数年ぶりに皮膚科病棟に戻ったのですが、そこで衝撃的な出来事がありました。

    私が担当していた高齢の患者さんには、受診時にいつも息子さんが付き添っていました。しかし、息子さんは、荷物を持つわけでも、入退院時の手続きを手伝うわけでもありません。患者さんは家でも誰の手助けもないまま生活しているのか、心配になった私は息子さんを追いかけ、質問攻めにしました。良かれと思い「家族指導」を行っていました。それ以来、彼は私を避けるようになり、私は自分が家族に与える影響に気づいて、愕然としました。同時に、「家族も支えなければ、患者さんはよくならない」との思いが強くなり、家族看護について専門的に学ぶべく、それまで勤務していた大学病院を退職して、大学院に入学したのです。ここで「家族指導」ではなく「家族支援」を学ぶことになりました。

    家族支援専門看護師の役割は、家族の力を後押しすること

    「家族支援専門看護師」は、看護師として5年以上の実務経験に加え、看護系の大学院の修士課程を修了した後に、専門看護師認定審査に合格することで取得できる資格です。がん看護専門看護師が全国に1,000名以上いるのに対し、2008年に認定が始まった家族支援専門看護師は、まだ94名(2023年12月現在)と、とても少ないのが現状です。

    大学院で、患者さんや家族の困りごとに対する質の高いケア(高度実践)、多職種連携、倫理的ケアなどについて学んだことで、私自身、家族との接し方は大きく変わりました。それまで家族指導では、「教える側」と「教わる側」という上下関係が当然のように存在していました。それが家族を萎縮させてしまう原因でもあったのですが、大学院では、家族の横に寄り添ったり一歩下がって見守ったりすることで、家族の力を後押しすることの大切さを学びました。家族支援専門看護師として、当院に勤務するようになってからも、患者さんや家族にとっての最適な立ち位置を意識しながら、一方では、医療者側の調整役として、いつ、どの職種と連携すべきかを常に考えながら、看護にあたるようにしています。

    家族に目を向け、困りごとに耳を傾けることが大切

    家族看護で重要なことは、「家族を理解すること」です。それには、「患者さんは家族の中で生きる一員」ということを念頭に置き、家族の歴史や家族構成まで詳しく聞く必要があります。同居家族の有無はもちろん、家族の年齢、仕事、役割などの情報も重要です。わざわざ時間を設ける必要はなく、問診や入院の説明の際に、合わせて確認するとよいでしょう。

    付き添いの家族がいる場合は、一緒に来てくれたことを労い、困りごとに耳を傾けるようにします。「患者さんはこんなことに困っているそうですが、そうした理解でよろしいですか?」と話題を向けることで、家族も話しやすくなります。

    患者さんの横には、家族の木(Family Tree)があるといわれています。家族支援専門看護師に限らず、看護師であれば、患者さんの後ろにいる家族にも思いを巡らせることを習慣づけたほうがよいと思っています。「この患者さんは誰と住んでいるのだろう?」「家でどう過ごしているのだろう?」「処置をしてくれる人はいるだろうか?」-。患者さんの家族や家での生活を気にかけていれば、解決すべき課題は自ずと見えてくると思っています。

    皮膚疾患の家族支援では、できていることを探す視点を

    「家族支援」というと、がんや終末期のケアをイメージされる方も多いと思いますが、家族支援看護師の活躍の場は、それだけではありません。慢性の経過をたどる皮膚疾患は、身体的、精神的、経済的、社会的(学業や仕事の両立など)に大きな影響を及ぼすことが知られています。つまり、皮膚疾患では、患者さんだけでなく、家族も同様の影響を受けることを前提に、患者さんを含む家族全体のケアが重要になるといえます。

    また、皮膚疾患の看護は、薬の塗り方や処置の仕方など、指導することが多いのも特徴です。指導というと、一方的にルールを押し付けがちですが、家族看護の視点では、指導の前に、患者さんや家族がこれまでどのような対処をしてきたのか、その行動を肯定することから始めるのがよいと思います。そのなかで、うまくいっていることは継続し、改善すべきところはできそうなことから工夫していく、というような指導を行います。問題探しをするのではなく、よいところ、できていることを探す視点を持っていれば、患者さんや家族との関係性は自然とよいものになっていきます。

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