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皮膚科専門医に聞く! 伝染性軟属腫治療の考え方


    伝染性軟属腫治療の考え方を、公立学校共済組合 関東中央病院 特別顧問 皮膚科 日野治子 先生に伺いました。

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    公立学校共済組合 関東中央病院 特別顧問 皮膚科 日野治子 先生

    伝染性軟属腫の治療方法は、医師の間でも見解が分かれていますが、ペンレステープ18mgに「伝染性軟属腫摘除時の疼痛緩和」が適応追加になり、痛みの少ない治療が可能になったことは、患者さんにとって大変メリットの大きいことだと思います。

    • 公立学校共済組合 関東中央病院 皮膚科 特別顧問 日野 治子 先生

    伝染性軟属腫の治療の中でも、摘除は痛みを伴うため、医師の間でも賛否が分かれています。また、現状では明確な治療指針もありません。2012年6月22日、ペンレステープ18mgに「伝染性軟属腫摘除時の疼痛緩和」の効能・効果が追加承認されたことにより、今後、伝染性軟属腫の治療も変化していくことが予想されます。
    そこで伝染性軟属腫の治療意義や今後の展望、ペンレステープを用いた摘除の工夫などについて、関東中央病院特別顧問で皮膚科の日野治子先生にお話を伺いました。

    伝染性軟属腫の治療意義とは

    伝染性軟属腫は、皮疹を見ればすぐに鑑別できる疾患なのでしょうか?

    伝染性軟属腫の皮膚病変は特徴的なので診断しやすいと思います。
    molluscum contagiosum virusが原因で発症する皮膚のウイルス感染症で、半米粒大から小豆粒程度の健康皮膚色の小結節がみられます。光沢があり、中央が臍のように凹んだ中心臍窩をもつ特徴的な皮疹で、押すとウイルス感染を受けて変性した粥状の細胞塊が、中心臍窩から出てくるためすぐにわかります。患児の保護者にも認識しやすく、「みずいぼではないか」と見当をつけて受診されることが多いですね。

    伝染性軟属腫への対応は治療(摘除等)の他に、無治療(放置)という方法もありますが、その点についてはどのようにお考えでしょうか?

    無治療(放置)でも抗体ができれば自然消退しますが、消失までには相当な期間を要するため、やはり何らかの処置が必要ではないかという意見もあり、医師の間でも見解が分かれています。
    また、伝染性軟属腫の治療には様々な手段があるのですが、“伝染性軟属腫の治療”といえば“摘除”が通例化している点も見解が分かれる要因になっています。摘除は痛みを伴うため「自然消退するのであれば患児にわざわざ痛い思いをさせる必要はない」という考え方と、一方では「放置している間に本人自身の皮膚で増数する、他人にうつるなど、あくまで感染症であるため摘除すべきである」という考え方があり、現時点では結論が出ていません。

    受診しても無治療であった場合、患者さんは納得されるのでしょうか?

    患者さんの多くは、保育所や幼稚園など、通っている施設側から治療してくるように促されて受診されますので、無治療となると、「せっかく来たのに」とか「何のためにここへ来たのか」などと怒ってしまう保護者もおられるようです。治療が必要か無治療で問題ないかの判断と保護者への説明は、症例ごとに臨機応変に行うしかないでしょう。

    先生が伝染性軟属腫を治療すべきとお考えになる理由を教えてください。

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    公立学校共済組合 関東中央病院 特別顧問 皮膚科 日野治子 先生

    理由としては、

    • 他人にうつすおそれがある
    • 放置している間に本人自身の皮膚で増数する
    • 掻きこわして湿疹や伝染性膿痂疹(とびひ)を合併しやすい、アトピー性皮膚炎の悪化につながる可能性がある
    • プールに入れてもらえない、増数や悪化によって見た目が醜くなるなど、患児のQOLに影響する

    などが挙げられます。これらを考慮すると、私はできるかぎり治療する方が望ましいと考えます。
    なお、伝染性軟属腫には潜伏期間があるため、1回の受診で治療が完了することはありません。患者さんには予め、何回か通院の必要があることを必ず説明しておきます。増数してからでは治療も困難になりますので、早めの受診をお勧めしたいです。

    先生ご自身の伝染性軟属腫を取る・取らないの判断基準を教えてください。

    軟属腫が少数なら、すぐその場で取ってしまいます。1回の処置につき3個までなら無麻酔でも摘除できます。痛覚閾値は軟属腫1個の摘除ごとに低下します。つまり、続けて何度も無麻酔での摘除が繰り返されると徐々に痛みを感じやすくなり、患児にはかなりの苦痛になります。そのため、軟属腫が多い場合には、ペンレステープを含めた他の治療を検討します。

    皮膚科関連4学会1)が「皮膚の学校感染症に関する統一見解」の中で、伝染性軟属腫についても見解を発表しています。

    この見解(表1)は学校保健安全法2)における学校感染症の観点で作成されているため、あくまで“学校への出席の可否”が論点になっています。伝染性軟属腫は出席可能な疾患であり、治療そのものについては議論されていません。
    また、プールや水泳授業への参加の可否については別途議論が必要であるため、日本臨床皮膚科医会および日本小児皮膚科学会が新たに「プールに関する委員会見解」(表2)を作成しました。作成にあたっては、CDC3)の感染対策ガイドラインにおける“伝染性軟属腫に対する指針”を基盤にしています。

    表1:皮膚の学校感染症に関する統一見解

    幼児・小児によく生じ、放っておいても自然に治ることもありますが、それまでには長期間を要するため、周囲の小児に感染することを考慮して治療します。
    プールなどの肌の触れ合う場ではタオルや水着、ビート板や浮き輪の共用を控えるなどの配慮が必要です。 この疾患のために、学校を休む必要はありません。

    表2:皮膚の学校感染症とプールに関する統一見解

    プールの水ではうつりませんので、プールに入っても構いません。ただし、タオル、浮輪、ビート板などを介してうつることがありますから、これらを共用することはできるだけ避けて下さい。プールの後はシャワーで肌をきれいに洗いましょう。

    1. 日本臨床皮膚科医会、日本小児皮膚科学会、日本皮膚科学会、日本小児感染症学会
    2. 文部科学省の定める学校保健安全法 学校感染症 第三種 その他の感染症
    3. Centers for Disease Control and Prevention:米国疾病予防管理センター

    ペンレステープ18mgについて

    ペンレステープ18mgに「伝染性軟属腫摘除時の疼痛緩和」が適応追加になった意義やメリットはどのような点にありますか?

    ペンレステープが軟属腫摘除に使用できるようになったことは、痛みの緩和という点で患者さんにとって大きなメリットだと思います。治療で痛い思いをすると、二度と治療を受けたがらなくなる患児も多いので、ペンレステープをうまく使用することでスムーズに治療を行うことができます。
    ペンレステープの軟属腫摘除への適応追加については、皮膚科医を中心に以前から要望が多かったのですが、今回の適応追加によって保険請求が可能になり、より使用しやすくなるものと思います。同時に、適応追加によって医薬品副作用被害救済制度の対象になったことも、医師・患者さん双方にとって大きなメリットだと感じています。
    しかし、ペンレステープはあくまで局所麻酔薬(劇薬)ですので、副作用に対する注意が必要であると考えます。また、1回の摘除につき2枚までの用量制限がありますので、併せて注意が必要です。

    自宅にて、患者さん自身でペンレステープを貼ってから来院させることについてはどのようにお考えですか?

    開業医さんから「貼付後に1時間待機させたり、再来院させたりするのは大変なので、来院前に貼ってきてもらうようにしている」という話を伺ったことがあります。先ほどもお話した通り、ペンレステープはあくまで局所麻酔薬(劇薬)ですので、私は病院内で医師の管理の下に使用すべきだと考えます。

    先生の施設では、どなたがペンレステープを貼付していらっしゃいますか?

    当院では必ず病院内で貼付しています。
    原則として私が貼付しますが、忙しいときは私の監督下で看護師が貼付することもあります。

    ペンレステープ使用に際して、工夫されていることはありますか?

    ペンレステープを貼付する前に、まず軟属腫の周囲にペンで印を付けておきます(図1)。摘除してほしいところがあれば、保護者に印を付けてきてもらっても構いません。摘除する軟属腫が決まったら、その数や大きさに合わせてペンレステープを分割します。分割したテープを軟属腫とその周囲の皮膚に密着するように貼付して、上からしっかり押さえます(図2)。

    図1
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    図1
    図2
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    図2

    ここで私の工夫として、その上にサージカルテープを貼付しています。そうすれば待機中にペンレステープが剥がれることがなく、剥がす時もサージカルテープと共にペンレステープも剥がれるので処置が簡便になります(図3)。
    また、摘除後直ちに絆創膏を貼っていくと、出血部位が患児の目にふれないため、怖がらせずに治療することができます。

    図3
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    図3

    日野先生の工夫であり、添付文書上はサージカルテープを貼付する必要はありません。

    最後に、伝染性軟属腫治療およびペンレステープに期待されることを教えてください。

    伝染性軟属腫摘除時の疼痛緩和の適応追加によって、痛みの少ない軟属腫摘除が可能になったことが医療従事者および患者さんに普及すれば、早期に受診する患者さんが増え、早期治療にもつながるのではないでしょうか。
    また現在、伝染性軟属腫には診療ガイドラインがないため、戸惑っている医師も少なくないのが現状です。多くの医師が治療の判断基準となる明確な指針を要望していますので、ガイドライン作成をぜひとも実現したいと考えています。

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