ミチーガの開発の経緯
アトピー性⽪膚炎は、増悪・寛解を繰り返す、そう痒のある湿疹を主病変とする慢性の⽪膚疾患である。アトピー性皮膚炎の執拗なそう痒は⽣活の質(QOL)を著しく低下させる1、2)。小児アトピー性皮膚炎患者では、強いそう痒による掻破が激しい状態や広範囲に難治性の皮疹が発生している状態が持続すると、精神的ストレスも加わり、休学や引きこもりといった社会生活上の弊害をきたすこともあり、集団生活への影響も懸念される3)。特に患者が小児の場合、保護者への負担も大きく、保護者のQOLも低下させる4)。そう痒に伴う掻破行動は、⽪膚症状を悪化させ、そう痒が増強するという悪循環(Itch-scratch cycle)を繰り返すとともに、アトピー性皮膚炎の病態形成にも関与しているため、アトピー性皮膚炎治療ではそう痒のコントロールが重要である5、6)。
結節性痒疹は、痒疹の病型の一つであり、強いそう痒を伴う皮疹を有する慢性疾患である7、8)。結節性痒疹の発症機序は不明で7)、強いそう痒による掻破行動がItch-scratch cycle及び神経の感作を引き起こすことにより、発症要因とは無関係に症状の慢性化や結節性痒疹の皮膚病変を形成・展開(拡大)すると考えられている8、9)。結節性痒疹の重度のそう痒、および外観的に認められる結節や慢性的な皮膚病変はQOLにも影響を与え、睡眠障害、心理的苦痛、社会的孤立や労働生産性の低下などにもつながる9-12)。しかし、結節性痒疹において推奨度の高い治療法は確立されておらず、新たな治療法が求められていた。
成人および小児アトピー性皮膚炎13-16)では、Interleukin-31(IL-31)がそう痒誘発に関与している。IL-31は主に活性化したTh2細胞から産⽣されるサイトカインであり、その受容体であるIL-31受容体A(IL-31 Receptor A;IL-31RA)に結合すると、オンコスタチンM受容体(Oncostatin M Receptor;OSMR)とヘテロ二量体を形成し、細胞内に刺激を伝達する。さらにIL-31は各種細胞からサイトカイン、ケモカインの産⽣を誘導すること等により、アトピー性皮膚炎の病態においてそう痒に加え炎症惹起及び⽪膚バリア機能の破綻にも関与するとされている。
結節性痒疹では皮膚病変部のIL-31陽性細胞数とそう痒の程度との間に正の相関が認められており17)、IL-31は結節性痒疹のそう痒に関与していると考えられる。また、結節性痒疹の病変部では表皮肥厚やコラーゲンの過剰産生が認められる18、19)。IL-31は、表皮細胞の増殖20)や線維芽細胞からのコラーゲン産生21、22)を誘導することから、結節性痒疹の皮疹形成にも関与していると考えられる。
ネモリズマブ(遺伝子組換え)(以下、ネモリズマブ)は、IL-31RAを標的とするヒト化抗ヒトIL-31RAモノクローナル抗体であり、アトピー性皮膚炎患者のそう痒に対する治療薬として中外製薬株式会社により本邦で創製され、マルホ株式会社が国内第Ⅲ相臨床試験を実施し有効性が示された。このネモリズマブを有効成分とするミチーガⓇ皮下注用60mgシリンジが、成人及び13歳以上の小児に対して、「アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)」を効能・効果として、2022年3月に国内で製造販売承認を取得した。
さらに、同じ有効成分を含有するミチーガⓇ皮下注用30mgバイアルについて、6歳以上13歳未満の小児アトピー性⽪膚炎患者を対象とした国内第Ⅲ相試験と、成人及び13歳以上の小児の結節性痒疹患者を対象とした国内第Ⅱ/Ⅲ相試験で有効性及び安全性を評価し、その結果に基づき、6歳以上13歳未満の小児に対する「既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎に伴うそう痒注)」、成人及び13歳以上の小児に対する「既存治療で効果不十分な結節性痒疹」の効能・効果で、2024年3月に製造販売承認を取得した。
- 注)
- 最適使用推進ガイドライン対象
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