フットケアにおける爪白癬・巻き爪治療の重要性
監修医（高山 かおる先生）からのメッセージ
- 監修
- 埼玉県済生会川口総合病院 皮膚科 主任部長高山 かおる先生
日常診療の中で、高齢者や糖尿病のある方が爪白癬や巻き爪に罹患されているケースにしばしば遭遇されることがあると思います。
そのような場合、爪白癬や巻き爪は、単に爪に限局した病変にとどまらず、肥厚や変形により転倒リスクを高めたり、二次感染の温床となることが知られています。
よって、早期に治療することで下肢機能を回復させ、健康的な生活を取り戻すことで、健康や寿命に好影響を及ぼす可能性があります。
日本では、「健康日本21」という国策が推進されている中で、健康寿命の延伸に向けて歩行を基本とした日常的な運動量の増加を推進していく流れがあります。
当院でも足と爪のケア外来を設けて、積極的に足の様々な病変や爪の診療に取り組んでいます｡本Webサイトでは、フットケアの視点から、爪白癬の診断や巻き爪の治療の重要性を一緒に考えていきましょう｡
フットケアとは?
足や爪を適切に手入れすることで、足の健康を保ち、歩行機能などの維持をめざすケアのことです。
医療現場では、糖尿病による足病変（壊疽や潰瘍など）の重症化を防ぐ目的で行われることが多く、近年では高齢者の転倒予防や感染予防の観点からも注目されています。
フットケアの重要性 ～国の取り組み（健康日本21）～
「健康日本21」の主な目標は、①健康寿命の延伸②運動・食生活・禁煙・歯の健康などの改善③生活習慣病の予防・改善④感染症や慢性疾患の対策です。
- 健康寿命の延伸
「健康日本21」には、健康寿命を延ばすことも主な目標として掲げられており、身体運動の中に歩行機能の目標値も示されています。
| 健康日本21（第三次）の目標（抜粋） | ||
|---|---|---|
| （2）身体活動・運動（抜粋） | ||
| 目標 | 指標 | 歩数の目標値（/日） |
| ①日常生活における歩数の増加 | 1日の歩数の平均値 （年齢調整値） |
• 20-64歳の男女：8,000歩※ • 65歳以上の男女：6,000歩 • 20歳以上の全国民：7,100歩※※ |
※現状値は年齢調整していない値
※※令和14年度までの目標値
国立研究開発法人 医薬基盤·健康·栄養研究所 国立健康·栄養研究所 健康日本21分析評価事業：
https://www.nibn.go.jp/eiken/kenkounippon21/kenkounippon21/mokuhyou3rd.html（最終アクセス日：2025年8月29日）
厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会, ほか: 健康日本21（第三次）推進のための説明資料. P35-36, 令和５年５月.
フットケアは、今や国策と考えられています。
フットケアの重要性 ～学会の取り組み～
- 日本フットケア・足病医学会の取り組み
日本フットケア・足病医学会が取り組む
主に
医療従事者への
フットケア研修
多職種連携の
ICTツール
ガイドライン
策定・普及
医療制度との
連動
地域・行政との
連携
補装具使用
※学会認定制度の更新、改訂：フットケア指導士、フットケア・足病治療認定師の育成
日本フットケア・足病医学会：https://jfcpm.org/（最終アクセス日：2025年8月29日）
専門学会もフットケアの強化に力を入れています。
足病のリスクと爪白癬、巻き爪との関連性
- 足病を放置した際の病態進行のイメージ図（“川の流れ”で表現）
できるだけ上流のところで適切なフットケアを行うことが重要です。
疫学調査 Foot Check 2023
- 調査対象参加者14,588例で、足または爪に何らかの疾患・症状が認められた患者の割合および爪白癬、巻き爪*の潜在罹患率は以下の通りでした1,2）。
56%
（8,164例）
［2人に1人］
全体の足、爪病変
7.9%
（1,154例）
［13人に1人］
爪白癬
4.8%
（700例）
［21人に1人］
巻き爪*
＊：陥入爪を含む
| 【調査名】 | 足白癬·爪白癬の実態と潜在罹患率の大規模疫学調査（Foot Check 2023） |
|---|---|
| 【調査期間】 | 2023年4～5月 |
| 【調査対象·方法】 | 日本国内211医療機関の皮膚科外来（日本臨床皮膚科医会会員が診療）にて、無作為に足の健康調査（Foot Check 2023）に関するアンケートを実施した。調査対象参加者は14,588例であった。 |
1）畑康樹, ほか：日臨皮会誌. 41: 66-76, 2024.
2）畑康樹, ほか：日臨皮会誌. 42: 66-76, 2025.
半数以上の人に何らかの足病変、爪病変があることが示されました。
爪白癬と鑑別が難しい疾患
爪カンジダ症1）
爪乾癬1）
爪甲鉤彎症2）
1）上出康二：爪白癬, 日常診療で必ず遭遇する皮膚疾患トップ20攻略本（古川福実編）, p53-54，南江堂, 2013.より許諾を得て転載
2）望月隆, 宮地良樹, 清水宏 編集：1冊でわかる皮膚真菌症, 文光堂. P42, 2008.
爪白癬と紛らわしい爪疾患は数多くあるため鑑別診断が重要です。
デルマクイック®爪白癬の診断フローチャート
- 爪白癬診断のフローチャート
〈注意事項〉
・デルマクイック®爪白癬は爪白癬の診断のみに使用できます。（
・デルマクイック®爪白癬は
常深祐一郎：西日皮膚. 85: 337-341, 2023．
| ▶ KOH直接鏡検法の結果が陰性 | 爪甲肥厚、混濁で白癬が疑われたが顕微鏡検査で陰性のため抗原キットを使用 |
|---|---|
| ▶ KOH直接鏡検法が実施できない | •顕微鏡が施設に無く、KOH直接鏡検法が実施できないため •在宅診療で顕微鏡が手元に無く、KOH直接鏡検法が実施できないため |
令和6年厚生労働省告示第５７号
デルマクイック®爪白癬の簡便性・迅速性
測定結果の判定法
陽性
| コントロールライン | 桃色 |
|---|---|
| テストライン | 紫色 |
陰性
| コントロールライン | 桃色 |
|---|---|
| テストライン | ー |
無効
| コントロールライン | ー |
|---|
・ラインの一部が切れたり、濃さにムラがあってもラインとしては有効
デルマクイック®爪白癬は日常診療で
鑑別診断を簡便にサポートできる診断薬です。
巻き爪と陥入爪との区別
まず多いのが、患者さんによる巻き爪と陥入爪の混同です。
痛みの原因が巻き爪であれば矯正治療を行えますが、陥入爪のみの場合は巻き爪の治療は不要で、爪が刺さった部分を解除してあげる治療が有効です。
爪は巻いていますか？
| 病態 | 爪が内側にわん曲して圧迫されるため痛みが生じている状態 |
|---|---|
| 治療法 | わん曲を改善させる治療を行います |
爪が刺さっていませんか？
| 病態 | 爪が指の皮膚に陥入して（刺さって）炎症を起こしている状態 |
|---|---|
| 治療法 | 刺さった爪を解除させる治療を行います |
治療すべき巻き爪の目安
- 巻き爪の臨床データにおいてエビデンスレベルの高い、リネイル®ゲルの臨床試験では、巻き爪の遠位爪幅狭小化率が20％以上50％以下を治療対象としていました。
社内資料：リネイルⓇゲル10%巻き爪患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験（承認時評価資料）
重度の巻き爪には矯正治療が効きにくい場合があるため、
軽度の段階から積極的に治療していくべきと考えています。
済生会川口総合病院における巻き爪矯正治療費
| 巻き爪矯正治療 | 料金（税込） |
|---|---|
| 初回·初診 | 4,400円 |
| 再来 | 3,300円 |
| 処置料 | 1,100円 |
| ワイヤー使用料 | 4,400円 |
| リネイル®ゲル使用料 | 4,400円 |
https://www.saiseikai.gr.jp/department/hihuka/（最終アクセス日：2025年9月1日）
患者さんに巻き爪矯正治療の費用負担をご納得いただくコツ
巻き爪は痛いまま我慢していると歩き方に無理が出てきて、腰や膝に負担がかかり、転びやすくなったりします。
それに、痛みのため動くのが億劫になり、歩く量が減ります。
実は、“歩く量”って、健康全体とつながっているので、早めにしっかり治して、無理なく歩ける状態を取り戻すのが大事なんです。
そうなんですか。触ったり、靴を履くと痛いですし、確かに足が痛くなってから外出が減った気がします。
お勧めなのは、爪に矯正器具をつけて、その上から1日だけ爪を軟らかくする塗り薬を使う矯正治療です。1週間～1ヵ月くらいでよくなる方もいます。
ただし、保険が効かないため、費用はかかります。どうでしょうか？
痛くなるたびに病院に来るのも大変なので矯正治療をしてみたいです。でも、費用はいくらくらいかかるんでしょうか。
当院での料金体系はこちらになります。
なるほど。1万5千円近くかかりますね。
巻き爪は一度治してしまって、歩行機能を取り戻し、しっかり歩くことで、爪形状をキープして再発予防を目指しましょう。
確かに費用はかかりますが、「これからも元気に歩き続けるための自己投資」と考えていただけたら嬉しいです。
確かにそうですね。健康でしっかり歩くためには、安いものかもしれません。
それならよろしくお願いします。
はい、一緒に頑張りましょう。
| 同意取得のために患者さんにお伝えするポイント | ||
|---|---|---|
| •巻き爪を放置しておくと歩く量が減り、不健康な日常生活に傾く可能性があること。 | •巻き爪を治したら、しっかり歩いて爪の形をキープすることが重要であること。 | •しっかり歩くことで、爪の形状は保たれ、再発予防が期待できること。 |
| 電子添文 |
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