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高齢者のいわゆるおむつ皮膚炎に対するエキザルベの有効性および安全性の検討(治療アルゴリズムの提案)


    監修:
    • 埼玉医科大学 皮膚科 教授 常深 祐一郎 先生

    監修医のことば

    介護が必要な高齢者数が増加するなか、高齢者のおむつ皮膚炎への対策が求められている。そこで、高齢者のおむつ皮膚炎に対して、まずステロイド外用薬を先行使用する治療アルゴリズムを考案し、エキザルベを試験薬としてその有用性を検討した。
    その結果、エキザルベの使用1週後には、総合スコアは改善して20.0%が治癒し、その改善効果は治療前の重症度に関係なく認められた。一方、悪化した症例は使用1週、2週、3週後ともに10%前後と少なく、直接鏡検での真菌検出例も認められなかった。
    おむつ皮膚炎のすべてがステロイド外用薬で解決するわけではないが、本研究で示した治療アルゴリズムを使用することで、介護現場においても迅速におむつ皮膚炎の治療を開始することができ、多くの症例で改善を期待できることが示された。その結果、患者のQOLは改善され、介護者の負担も軽減されると考える。

    おむつ皮膚炎とは
    臨床像のみで定義し、おむつと接する部位に生じる紅斑、小丘疹・小水疱・小膿疱、鱗屑、浸軟、びらん、痂皮などによる皮膚病変とした。

    高齢者におけるおむつ皮膚炎※1の実態

    ※1 おむつ皮膚炎とは
    臨床像のみで定義し、おむつと接する部位に生じる紅斑、小丘疹・小水疱・小膿疱、鱗屑、浸軟、びらん、痂皮などによる皮膚病変とした。

    わが国の高齢者人口と要介護(要支援)者数

    わが国の少子高齢化は急速に進展しており、65歳以上の高齢化率は、1970年時点では全人口の7.1%であったが、2016年では27.3%(約3,500万人)へと上昇している1)。さらに、2025年にはおよそ3,700万人(全人口の約30%)、2045年には3,900万人(約37%)が高齢者になることが予測されている(図1)。

    図1:年齢3区分別人口及び人口割合の推移と予測1)
    記事/インライン画像
    図1 年齢3区分別人口及び人口割合の推移と予測

    ⾼齢化社会の進⾏とともに、要介護(要⽀援)者数も増加し、介護保険制度における要介護(要⽀援)認定者は2000年では約260万人であったのが、2015年末時点には620万人に達している(図22)。要介護者は、介護施設や病院を利用する人、在宅で介護を受ける人など、生活環境は様々であるが、そのうち、要介護3以上の人口は2015年末時点で約220万人と言われている。要介護3は、排泄に関する要介護度別の状態区分・状態のめやすとして「自分ひとりでできない、全介助が必要」に該当する。すなわち、おむつが必要になる状態は要介護3以上であると仮定すると、おむつ使用者は、少なくとも220万人は存在すると推測される。

    図2:要介護(要支援)認定者数の推移と要介護度別の状態区分・状態のめやす2)
    記事/インライン画像
    図2 要介護(要支援)認定者数の推移と要介護度別の状態区分・状態のめやす
    1. 平成29年版厚生労働白書 -社会保障と経済成長-
      https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/17/backdata/01-01-02-07.html
    2. 国土交通省「紙オムツに関する基礎情報」
      http://www.mlit.go.jp/common/001220454.pdf

    高齢者におけるおむつ使用者とおむつ皮膚炎罹患者

    東京都心部および離島の介護老人保健施設および介護老人福祉施設に入居の高齢者を対象とした疫学調査(2011年11月~2012年9月)の結果、臀部を観察できたおむつ使用者171名のうち、約70%の124名に、おむつ皮膚炎(鱗屑、紅斑、浸軟、びらんのいずれかの皮疹)が確認された3)

    これらの結果に基づき、要介護3以上(約220万人)の人がおむつを使用し、そのうちの70%に皮膚炎があると仮定すると、おむつ皮膚炎罹患者は約154万人と算出できる。しかしながら、上記の疫学調査は施設利用者に限っており、在宅や病院の要介護高齢者は含まれていない。また、介護施設では介護環境も整っていることを考慮すると、充分に介護環境が整っていないケースもある在宅要介護高齢者では、より高い割合でおむつ皮膚炎罹患者が存在することが推定される。これらのことから、施設利用高齢者、在宅要介護高齢者、また介護は必要ではないが、おむつを利用している高齢者など全体を含むと、154万人を超えるおむつ皮膚炎の潜在患者が存在すると推測される。

    1. Nakagami G, et al: Arch Gerontol Geriatr 58(2), 201-204, 2014

    「おむつ皮膚炎」治療アルゴリズムとは

    図1:「おむつ皮膚炎」治療アルゴリズム
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    図1 「おむつ皮膚炎」治療アルゴリズム

    おむつを当てている部位に生じる紅斑、丘疹、鱗屑、びらんなどの症状を一括して「おむつ皮膚炎」と呼ぶことが多い。特に、高齢者のおむつ皮膚炎は介護現場において問題となるものの、確立した対応方法はない。先行する疫学調査から、おむつ皮膚炎の皮疹に占める真菌感染症の割合は低く1)、その大部分は湿疹・皮膚炎と考えられた。このことから、高齢者のおむつ皮膚炎に対して、まずステロイドを含有する外用薬を使用し、症状が改善しない場合には直接鏡検を実施して真菌の有無を確認するという治療アルゴリズムを考案した(図1)。

    1. Nakagami G, et al: Arch Gerontol Geriatr 58(2), 201-204, 2014

    おむつ皮膚炎は、臨床像のみで定義し、おむつと接する部位に生じる紅斑、小丘疹・小水疱・小膿疱、鱗屑、浸軟、びらん、痂皮などによる皮膚病変とした。

    おむつ皮膚炎に対する治療アルゴリズムの有用性検討試験

    「警告・禁忌を含む使用上の注意」等はD.I.のページをご参照ください。

    高齢者のいわゆるおむつ皮膚炎※1に対する治療アルゴリズムは有用であり、試験薬であるエキザルベの使用によって、1週後に48.9%、3週後に57.8%で改善以上と判定されました。

    試験概要

    目的:
    おむつ皮膚炎に対する治療アルゴリズムの有用性を検討する。
    対象:
    3つの介護保険施設の入所者で、皮膚科医の視診によりおむつ皮膚炎と診断され、本試験への参加同意を得られた患者45例
    方法:
    エキザルベを試験薬とし、最長3週間塗布した。試験薬以外の外用薬のおむつ部への使用は禁止した。試験開始時の併存疾患に対する薬剤は併用可能とし、投与継続した。評価時期は塗布開始1週後、2週後、3週後とした。「不変」または「悪化」と判定された症例は、真菌の有無を直接鏡検で検査した。真菌が検出された症例は、試験を中止した。
    主要有効性評価項目:
    [総合スコア]
    観察部位をおむつと接する臀部、会陰、外陰部、鼠径部とし、皮疹の程度と面積をそれぞれ点数化して、その合計を総合スコアとした。
    [有効性判定]
    有効性は、総合スコアの改善率から5段階(治癒、著明改善、改善、不変、悪化)で判定した。
    解析計画:
    本試験は1週以降の治癒した時点で投与終了としているため、2週後と3週後の評価については、最後に得られたデータにより補完した。各項目の群内比較にはWilcoxonの符号付順位和検定を用いた。

    おむつ皮膚炎は、臨床像のみで定義し、おむつと接する部位に生じる紅斑、小丘疹・小水疱・小膿疱、鱗屑、浸軟、びらん、痂皮などによる皮膚病変とした。

    患者背景おむつ皮膚炎患者(45例)
    性別 男性 6例
    女性 39例
    年齢 Mean±SD 89.1±8.4歳
    要介護度 要支援 0例
    要介護1 1例
    要介護2 2例
    要介護3 4例
    要介護4 16例
    要介護5 22例
    平均的なおむつ交換回数/日 Mean±SD 5.2±1.3回
    平均的な排便回数/日 Mean±SD 1.5±0.8回
    平均的な排尿回数/日 Mean±SD 5.3±1.1回
    入浴回数/週 Mean±SD 2.0±0.3回

    主要有効性評価項目 [総合スコア※2の推移]

    総合スコアは1週後から有意に改善した(図2)。

    図2:総合スコアの推移
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    図2 総合スコアの推移

    観察部位の皮疹の程度と面積をそれぞれ点数化して、その合計を総合スコアとした。

    皮疹の程度 皮疹なし 0点
    軽症(軽度の紅斑、鱗屑などを主体とする) 1点
    中等症(紅斑、鱗屑、少数の丘疹、小水疱などを主体とする) 2点
    重症(高度の腫脹/浮腫/浸潤を伴う紅斑、丘疹、小水疱の多発、高度な鱗屑や痂皮の付着、びらんなどを主体とする) 3点
    皮疹の面積 皮疹なし 0点
    50cm²未満 1点
    50cm²以上200cm²未満 2点
    200cm²以上 3点

    主要有効性評価項目 [有効性判定※3の推移]

    治癒例は1週後に9例(20.0%)認められ、3週後には全体で13例(28.9%)となった。改善以上と判定された症例は1週後に22例(48.9%)認められ、3週後には全体で26例(57.8%)となった(図3)。一方、悪化した症例はいずれの判定時期においても10%前後であり、直接鏡検での真菌検出例も認められなかった。また、有効性判定と1日のおむつ交換回数、排便回数、排尿回数、1週間の入浴回数との関連を検討したが、有意な関連はみられなかった。

    図3:有効性判定の推移
    記事/インライン画像
    図3 有効性判定の推移

    総合スコアの改善率を、[(登録時の総合スコア-各評価時期の総合スコア)/登録時の総合スコア]× 100で算出し、改善率から有効性を判定した。

    有効性
    判定
    治癒 100%
    著明改善 66.7%以上100%未満
    改善 33.3%以上66.7%未満
    不変 0%以上33.3%未満
    悪化 0%未満

    安全性

    本試験において、悪化例が5例あり、エキザルベによる接触皮膚炎や細菌感染症の可能性が否定できないため、有害事象に含めた。重篤な有害事象は本文献には記載がなかった。

    〔禁忌(次の場合には使用しないこと)〕(一部抜粋)

    (2)真菌症(カンジダ症、白癬等)〔本剤に含まれるヒドロコルチゾンは真菌症(カンジダ症、白癬等)を悪化させるおそれがある〕

    〔使用上の注意〕(一部抜粋)

    3.高齢者への投与
    一般に高齢者では生理機能が低下しているので、大量又は長期にわたる使用に際しては特に注意すること。

    常深 祐一郎, 福田 亮子, 出口 亜紀子, 川島 眞: 看護研究48(2), 180-188, 2015より一部改変

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