ベピオウォッシュゲルの開発の経緯
尋常性ざ瘡は、思春期以降に発症する慢性炎症性疾患であり、皮脂分泌の亢進、毛漏斗部の角化異常、Cutibacterium acnes(C. acnes)などの細菌の増殖が複雑に関与している1)。その病変は脂腺性毛包における皮脂貯留に随伴するため、顔面だけでなく体幹部にも皮疹があらわれることがあり、尋常性ざ瘡患者のうち体幹部に皮疹がある患者の割合は28.8%と報告されている2)。
過酸化ベンゾイル(Benzoyl Peroxide)は酸化作用を有し、その分解により生じたフリーラジカルがC. acnesに対して抗菌作用を示す3〜6)。また、閉塞した毛漏斗部においては、過酸化ベンゾイルが角層中デスモソームの増加を是正し、角質細胞同士の結合を弛めることで、角層剥離を促進する3,7)。本邦では、過酸化ベンゾイルを2.5%含有するベピオゲル2.5%が2014年に「尋常性ざ瘡」の効能・効果で製造販売承認を取得し、2022年には剤形追加としてベピオローション2.5%の製造販売が承認されている。本邦のガイドラインで示されている尋常性ざ瘡の治療アルゴリズムでは、過酸化ベンゾイル2.5%ゲルは急性炎症期から炎症軽快後の維持期のすべての病期に対して使用することが強く推奨(推奨度A:行うよう強く推奨する)されている8)。
一方で、過酸化ベンゾイル製剤には皮膚刺激症状の発現や漂白作用などの課題があり、また体幹部の尋常性ざ瘡に対する治療は顔面に比べてエビデンスが少ない現状がある。
欧米の尋常性ざ瘡の治療ガイドラインでは、過酸化ベンゾイルは標準的な外用治療薬と位置付けられている9,10)。さらに、忍容性の高い治療法として9)、塗布後に洗い流すショートコンタクトセラピー※を用法とする過酸化ベンゾイル製剤が承認されているが、本邦においてはこれまで承認されていなかった。
マルホ株式会社は、ショートコンタクトセラピーを用法とする過酸化ベンゾイル製剤を開発することで、皮膚刺激症状の低減や衣類などの脱色の懸念の軽減が期待でき、患者のライフスタイルに応じた過酸化ベンゾイル製剤における治療選択肢を拡充させることができると考えた。そこで、過酸化ベンゾイルを5%含有するベピオウォッシュゲル5%の開発を行い、顔面に尋常性ざ瘡を有する患者を対象とした国内第Ⅲ相プラセボ対照試験、さらに体幹部に尋常性ざ瘡を有する患者を対象とした国内第Ⅲ相非対照試験で有効性および安全性を評価した。これらの結果に基づき、「尋常性ざ瘡」の効能・効果、「1日1回、洗顔後、患部に適量を塗布し、5〜10分後に洗い流す。」の用法・用量で、2025年3月に製造販売承認を取得した。
※:外用剤の患部への接触時間を短時間にして、副作用を軽減しながら治療効果を発揮する方法
- 山元 修:標準皮膚科学 第11版, 岩月 啓氏 監, 医学書院, 513(2020)
- 林 伸和ら:臨床医薬, 32(3), 165(2016)
- Sagransky, M. et al.:Expert Opin. Pharmacother., 10(15), 2555(2009)
- Burkhart, C. G. et al.:J. Cutan. Med. Surg., 4(3), 138(2000)
- 吉川 敏一:フリーラジカル, メディカルレビュー社, 5(1988)
- Burkhart, C. N. et al.:Skin Pharmacol. Appl. Skin Physiol., 13(5), 292(2000)
- Oh, C. W. et al.:J. Dermatol., 23(3), 169(1996)
- 尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン策定委員会:日皮会誌., 133(3), 407(2023)
- Reynolds, R. V. et al.:J. Am. Acad. Dermatol., 90(5), 1006.e1(2024)
- Nast, A. et al.:J. Eur. Acad. Dermatol. Venereol., 26(Suppl 1), 1(2012)