Kさん
(30代・男性・会社員/患者会スタッフ)
乳児期に発症し、3歳で尋常性乾癬と診断される。乾癬患者が運営するウェブサイトとの出会いや市民公開講座への参加をきっかけに、大学時代から治療を積極的に行うようになり、約10年間、寛解を維持した。患者会の立ち上げにスタッフとして携わり、現在ではサイト運営などを担当している。
0歳児のときに赤い発疹があらわれたと両親から聞いています。近くの医療機関を受診しましたが、診断はつかず、両親はアトピー性皮膚炎だろうと思っていたようです。3歳の頃に発疹が悪化したことで、評判のよい皮膚科がある大学病院を受診し、乾癬と診断されました。両親は「乾癬は治療をしてもよくならない病気」と認識しており、悪化して全身に症状があらわれても、積極的に治療しないまま成長しました。
小学生の頃は、人前で肌を出さないように言われ、生活にもさまざまな制限がありました。夏も半袖が着られず、プールの授業は見学し、修学旅行の入浴もクラスメートとは別でした。暑くても長袖を着て、自分だけいつもプールサイドで見学をしなくてはならないのは、つまらなかった記憶があります。もっと普通の生活をしたいと望んでいました。今では私自身も親となり、症状のある肌がいじめやからかいの原因になることを両親が心配して、あれこれ制限をしていたのだと理解しています。
小学生の頃は、さまざまな制限があったためか、内気で言いたいことも言えない引っ込み思案な性格でした。中学生になると両親が行動に口を出すことはなくなり、自分で考えて動くようになり、性格も一変しました。ターニングポイントになったのは中学1年生の春です。クラスメートが自己紹介で「前向きに考えると物事がうまくいくので、『ポジティブシンキング』を心がけ、常に前向きに考えています」と語りました。そのような考え方があることや、同級生がそのような考えを持っていることに強い衝撃を受け、自分も同じようにポジティブシンキングで生きてみようと決めました。そして、それまでは控えていた半袖を着るなど、実際に行動してみました。すると、友人は私の肌を見ても全く態度が変わらなかったのです。自分の考え方ひとつで行動を変えることができ、周りがありのままの自分を受け入れてくれるとわかったことで、積極性が増し、前向きな性格になれたのだと思います。
症状でつらかったのはかゆみです。ひどいときはかゆみで夜眠ることができず、全身を掻きむしってしまうこともありました。かゆみがピークだったのは小学3年生の頃です。当時はお湯に浸かるとかゆみが改善されるように感じていたので、ある晩も入浴したのですが、直前に全身を掻いていたため、浴槽のお湯が血で真っ赤に染まってしまいました。真っ赤なお湯は視覚的なインパクトがあり、子供心に恐怖を感じて、その夜は泣き明かしました。
大学生の頃に、乾癬患者さんが運営しているウェブサイトを偶然見つけ、治療に関する情報収集をしました。また、チャットやオフ会に参加して、他の患者さんたちと仲良くなりました。その人たちに誘われ、市民公開講座に参加したのが治療に関する転機となりました。チャットなどでやり取りしていた人たちと会場で初めて会ったときに、同じ乾癬患者と思えないようなきれいな肌をしていたのです。驚くと同時に、乾癬は治療すれば症状がコントロールできる可能性があることを知りました。その後、大学病院に入院して治療を受けたところ、症状を抑えることができ、約10年間にわたって寛解を維持することができました。
私にとって患者会は、治療を続けていこうという気持ちにさせてくれる場所です。私が所属する患者会では、専門医から最新の治療について学ぶ機会があるため、自分に合った治療法があるのではないかと前向きになれます。また、患者同士が交流し、乾癬ならではの体験を“乾癬あるある”として分かち合ったり笑いに変えたりすることで、孤独感の解消につながっていると思います。患者会に携わったことで年の離れた仲間ができ、約20年もの間、フラットな関係で仲良くさせてもらっています。乾癬について気兼ねなく話ができる医師や患者仲間の存在は財産だと思っています。
ストレスが大敵だと考えているので、ストレスをためないよう心がけています。具体的には、「乾癬だからこれをしなければ」という義務感を持ったり、「乾癬だからあれをしてはいけない」と制限したりしないようにしています。もちろんコントロールのために薬は必要ですが、疲れて薬を塗らずに寝てしまった夜があっても、翌朝に「なぜ塗らなかったんだ」と自分を責めず、前向きに気持ちを切り替えています。私の場合、ストレス解消にサウナを利用しています。全身に症状があっても、堂々と肌を出していれば周りのお客さんには特に何も言われません。たまに視線を感じることもありますが、他人の行動は変えられないので気にしないようにしています。
年度初めには両親が学校側に乾癬について伝えていたため、夏に長袖を着ていたり、プール授業を見学したりしていても、先生からは何も言われませんでした。特別扱いされることなく、ごく普通に接してもらえていたことがありがたかったです。学校の先生方には、乾癬だからといって気を遣うことなく、ほかの児童・生徒と同じように接してあげてほしいと思います。
乾癬という病気の認知度が高まり、うつる病気ではないことや患者に対して特別な気遣いが要らないことを知っていただければと思います。人気モデルの方が乾癬であることを公表したことで、認知度も以前よりは上がりつつあるのではないでしょうか。彼女と同じ病気だよ、と言えるので説明もしやすくなりましたね。私は乾癬が自分のアイデンティティのひとつだと思っているので、これからも肌を隠すことなく出していきますし、症状を見て「どうしたの?」と聞かれたときには、乾癬について説明して認知度向上に貢献したいと思っています。
やはり、前向きな気持ちで向き合うことが大切だと思います。今は仕事の忙しさがきっかけで症状が悪化していますが、それでも悲観的にはなっていません。私の場合は、治療を受けずに症状に苦しんだ時期と、きちんと治療して寛解した時期のどちらも体験しており、治療をすればコントロールできることも経験として知っているからです。また、乾癬の治療は日々進化しているので、今後も新しい治療法が出てきて、より自分に合う治療があるはずだと希望が持てます。
私はさまざまな制限を経験しましたが、乾癬だからといって必要以上の制限はしないであげてほしいと思います。お子さんがまだ小さければ、毎日の薬の塗布にも保護者の手助けが必要でしょう。“強制”するのではなく“協力”するという姿勢で、サポートをお願いしたいですね。お子さん本人には、今は症状があってつらくても、コントロールのために前向きに治療を頑張ってほしいと伝えたいです。そして、「乾癬だから」と考えすぎて、自分の行動を制限してつらい気持ちになるのではなく、希望を持ってポジティブシンキングで日々を過ごしてほしいと思います。
監修?東京慈恵会医科大学皮膚科学講座 梅澤 慶紀 先生