皮脂欠乏症の主な原因:EGFR阻害薬
監修:東京女子医科大学 名誉教授 川島 眞 先生
EGFR阻害薬による皮膚障害に対する治療
乾燥皮膚に対しては保湿剤の塗布を行い、基本的なスキンケアとしての洗浄、保護など、日常生活の見直しを指導します。保湿剤の選択に関しては、ヘパリン類似物質含有製剤の有用性を示す報告などがあります*。
皮膚の角化がある場合には、保湿剤に加えてサリチル酸ワセリン、尿素軟膏などの角質軟化作用を有する薬剤の塗布を行います。手や踵の角化への対応は表のように行います。
川島 眞 ら:臨床医薬, 30(11), 975-981, 2014
*中原 剛士 ら:西日皮膚, 76(3), 242-247, 2014
表:乾燥皮膚・角化への対応
乾燥皮膚 |
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手指の角化 |
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踵の角化 |
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*ODT:密封療法
川島 眞 ら:臨床医薬, 30(11), 975-981, 2014 より一部改変
EGFR阻害薬における皮膚障害(皮脂欠乏症)に関する皮膚生理学的変化と保湿剤の影響
中原 剛士 ら:西日皮膚, 76(3), 242-247, 2014 より一部改変
近年、手術不能な非小細胞肺がんに対する上皮成長因子受容体(EGFR)阻害薬の有用性が示される一方、治療による皮膚障害が高頻度で発現し、患者のQOL低下あるいはEGFR阻害薬の治療継続に支障を来すこともわかっています。しかし皮膚障害に対する治療がEGFR阻害薬投与後の生理学的変化に効果があるかどうかを評価した報告はほとんどありませんでした。
そこでEGFR阻害薬投与後の角層水分量と乾燥スコアの変化を経時的に測定し、皮膚障害の一つである乾燥皮膚の程度と保湿剤の有用性を評価するために、ヒルドイド®ソフト軟膏0.3%あるいはヒルドイド®ローション0.3%を用いた無作為化割付試験が実施されました。
試験概要
目的 |
EGFR阻害薬投与後の角層水分量と乾燥スコアの変化を経時的に測定し、乾燥皮膚(皮脂欠乏症)の程度と保湿剤の有用性を評価する。 |
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対象 |
非小細胞肺がんの診断が確定しており、ゲフィチニブあるいはエルロチニブの投与対象となる20歳以上の患者8例 ![]() |
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方法 |
対象を無作為に保湿剤塗布群と無塗布群に割り付け後、EGFR阻害薬の投与を開始し、経時的に角層水分量の測定および医師による乾燥スコアの評価を行った。保湿剤塗布群はEGFR阻害薬投与2週目より対象部位にヒルドイド®ソフト軟膏0.3%あるいはヒルドイド®ローション0.3%を1日1回以上、適量塗布した。 |
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評価部位 |
顔面(額、左右頬)、胸部(正中線付近)、背部(肩甲骨間)、左右上腕外側の計7部位とした。 |
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有効性および 安全性解析対象 |
保湿剤塗布群:4例、無塗布群:4例 |
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評価項目 |
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患者背景 |
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解析計画 |
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結果
EGFR阻害薬投与後の角層水分量・乾燥スコアの経時的変化
角層水分量は投与直後から減少し始め、投与10日目の時点で有意に減少し(p<0.05, Paired t-test)、その減少は投与2週目まで続いた(図1a)。また、その減少率は投与開始前を100%とすると、投与2週目で93.2%であった。乾燥スコアは経時的に投与2週目まで増加し、投与2週目では有意に増加した(p<0.05, Wilcoxonの符号付き順位検定)(図1b)。これらの結果より、EGFR阻害薬投与直後から角層水分量が低下し、経時的に皮膚症状が悪化することが示された。
図1a:角層水分量の推移

図1b:乾燥スコアの推移

EGFR阻害薬投与後の角層水分量・乾燥スコアの変化に対する保湿剤の影響
EGFR阻害薬投与6週目までの角層水分量は、無塗布群では投与2週目以降も減少し続けたが、保湿剤塗布群では無塗布群と比較して減少が抑えられ、投与6週目の時点で有意差が認められた(p<0.05, Unpaired t-test)(図2a)。
乾燥スコアは両群ともに、投与前と比較して投与6週後には増加する傾向であったが、無塗布群の方が増加の程度がより大きかった(図2b)。
保湿剤の塗布により、EGFR阻害薬による角層水分量の低下が抑制され、皮膚乾燥が軽減する傾向が示された。
図2a:角層水分量の平均値

図2b:乾燥スコアの平均値

副作用
局所性副作用および全身性副作用は認められなかった。
まとめ
乾燥皮膚は皮膚バリア機能障害、さらには皮膚の炎症を引き起こすことが知られています。
EGFR阻害薬投与直後から角層水分量は低下し、乾燥スコアも増加しましたが、保湿剤を塗布することで角層水分量の低下は改善し、乾燥スコアの増加も軽減しました。
保湿剤塗布は皮膚バリア機能の修復や皮膚障害の症状改善にもつながる可能性があるため、EGFR阻害薬投与によって生じる乾燥皮膚を保湿剤により改善することは有用であると考えられました。
ヒルドイド®ソフト軟膏0.3%の副作用:総投与症例119例中、本剤による副作用は認められなかった。(承認時)
ヒルドイド®クリーム0.3%の副作用:総投与症例2471例中23例(0.93%)に認められ、主なものは皮膚炎9件(0.36%)、そう痒8件(0.32%)、発赤5件(0.20%)、発疹4件(0.16%)、潮紅3件(0.12%)等であった。(効能追加時)
ヒルドイド®ローション0.3%の副作用:総投与症例121例中、本剤による副作用は認められなかった。(承認時)
ヒルドイド®フォーム0.3%の副作用:総投与症例60例中、1例(1.7%)2件に認められ、そう痒症及び紅斑が各1件(1.7%)であった。(承認時)