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帯状疱疹と他疾患との併発における診断と治療:糖尿病編


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    渥美 義仁 先生

    東京都済生会中央病院 糖尿病臨床研究センター
    センター長
    渥美 義仁 先生

    施設紹介
    東京都済生会中央病院は、糖尿病の療養生活における自己管理の必要性を認識して1961年に糖尿病教育入院システムを確立し、療養生活を支援するチーム医療を実践してきました。現在、約8,000人の糖尿病患者が通院し、高い評価を得ています。
    糖尿病臨床研究センターは、長年培ってきた糖尿病診療の成果やチーム医療のノウハウを様々な形で発信し、わが国の糖尿病医療に貢献することを使命として1997年に設立されました。研究、学会および治験、応用試験への参加、セミナーの企画・実施、講演など幅広い活動を展開しています。

    糖尿病とは

    糖尿病は、インスリン作用不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝性疾患群です。国民健康・栄養調査によると、1997年に約690万人だった患者数は、2007年には約890万人になり10年間で約200万人も増加しています(図1)。
    1型糖尿病は、インスリンを合成・分泌する膵ランゲルハンス島β 細胞の破壊・消失によるインスリン不足が主要な原因となって発症します※1β 細胞の破壊は、自己免疫に由来するもの(自己免疫性)と自己免疫とは無関係なもの(特発性)とに分けられます。小児期から思春期に多く発症しますが、中高年の発症も認められます。
    2型糖尿病は、β 細胞の破壊・消失は認められないものの、インスリンの分泌低下やインスリン抵抗性をきたす複数の遺伝因子に、過食(特に高脂肪食)、運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子、および加齢が加わりインスリンの作用不足が生じて発症します。糖尿病と確定診断される方の大部分は2型糖尿病であり、これまで40歳以上に多く発症していましたが、近年は若年層での発症も増加傾向にあります。
    そのほか、膵β 細胞機能にかかわる遺伝子異常や膵外分泌疾患など他の疾患に伴うもの、妊娠糖尿病など、その成因から糖尿病は大きく4つに分類することができます(表1)。

    図1:糖尿病患者数の推移
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    図1 糖尿病患者数の推移
    表1:糖尿病と糖代謝異常aの成因分類b
    Ⅰ. 1型 β 細胞の破壊、通常は絶対的インスリン欠乏に至る
    • A.自己免疫性
    • B.特発性
    Ⅱ. 2型 インスリン分泌低下を主体とするものと、インスリン抵抗性が主体で、それにインスリンの相対的不足を伴うものなどがある
    Ⅲ. その他の特定の機序、疾患によるもの
    • A.遺伝因子として遺伝子異常が同定されたもの
      • ①膵β 細胞機能にかかわる遺伝子異常
      • ②インスリン作用の伝達機構にかかわる遺伝子異常
    • B.他の疾患、条件に伴うもの
      • ①膵外分泌疾患
      • ②内分泌疾患
      • ③肝疾患
      • ④薬剤や化学物質によるもの
      • ⑤感染症
      • ⑥免疫機序によるまれな病態
      • ⑦その他の遺伝的症候群で糖尿病を伴うことの多いもの
    Ⅳ. 妊娠糖尿病
    • 一部には、糖尿病特有の合併症をきたすかどうかが確認されていないものも含まれる。
    • 現時点ではいずれにも分類できないものは、分類不能とする。

    日本糖尿病学会糖尿病診断基準に関する調査検討委員会:糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告.糖尿病53:450-467.2010より引用

    糖尿病による易感染性

    すべての糖尿病患者で免疫機能が低下しているわけではありませんが、実験レベルにおいて、高血糖は細胞免疫や液性免疫に影響を及ぼすといわれています。また、糖尿病患者は易感染性とされ、肺炎やインフルエンザなどにかかりやすいとされています。さらに、尿路感染症、皮膚感染症の頻度も高く、特に足の皮膚感染症は壊疽の原因になります。そのほか、術後の回復が遅くトラブルが生じやすい、歯周病が多いといった影響もあります。ただし、それらは免疫機能だけの問題ではなく、神経障害や末梢循環の悪化などが総合的に関与しているとも考えられます。

    糖尿病患者における帯状疱疹への対応

    糖尿病患者は、免疫機能の低下から健康人と比べて帯状疱疹を発症するケースが多い印象があります。近年は帯状疱疹の皮疹が出たらすぐに来院して診断を受ける患者が多いため、外来で抗ヘルペスウイルス薬などを処方するケースも増えています。このとき注意すべきことは、糖尿病患者のSick day(シックデイ)対応です。シックデイとは、糖尿病患者が糖尿病以外の病気に罹患することで血糖コントロールが難しくなることを指します。
    帯状疱疹に罹患した患者では、帯状疱疹の痛みが肉体的なストレスになる、炎症反応が亢進して血糖値が上昇する、発熱、下痢、嘔吐をきたす、食事が不規則になる、食欲不振により食事量が減ることで血糖値が低下する、などの要因から血糖が大きく変動する可能性があります。
    インスリン治療中の患者に対しては、シックデイで食事がとれなくても自己判断でインスリン投与を中断せずに、主治医に連絡して指示を受けるように日頃から指導をしておくことが必要です。また、十分な水分を摂取する、食欲のないときには口当たりがよく消化のよいもの(おかゆ、ジュース、アイスクリームなど)を選んでとって低血糖を予防する、血糖値を自己測定する、来院時には尿中ケトン体を測定するなどの対応が必要です。
    血糖値が高い患者の帯状疱疹治癒までの期間は、長期に及ぶ傾向があります。このため、帯状疱疹の治療と同時に糖尿病にも積極的に介入して治療することが求められます。良好な血糖コントロールを保つことは、免疫状態が改善するため、帯状疱疹の治癒促進にもつながります。

    糖尿病患者における帯状疱疹治療の特徴

    糖尿病患者は血糖コントロールが悪く高血糖状態が長期間続くと、腎臓の毛細血管が硬くなって血液のろ過機能が低下し、糖尿病性腎症を発症するなど、腎機能が障害されやすくなります。そのため糖尿病患者には一般に腎機能に負担の少ない薬剤を選択することが大切です。帯状疱疹治療に用いられる経口抗ヘルペスウイルス薬はいずれも腎臓から排泄されるため、腎機能が低下している患者に投与する場合には、投与間隔をあけて減量することが望ましいとされています。
    抗ヘルペスウイルス薬の1つであるファムシクロビルの腎機能および年齢別の副作用発現率について検討したところ、クレアチニンクリアランス60mL/min以上および60mL/min未満、年齢15~65歳未満vs65歳以上、腎機能障害有vs無で副作用発現率に有意な差は認められませんでした※3表2)。また、主な副作用は胃腸障害で、重篤な副作用の報告はありませんでした。
    ファムシクロビルは腎機能の低下している患者に減量投与を推奨していることから、クレアチニンクリアランスが60mL/min未満の患者における1日投与量別の改善率を調査したところ、減量により改善率が低下する傾向は認められませんでした※3図2)。つまり、ファムシクロビルは、腎機能の低下している患者に対しても安全かつ有効に使用できる薬剤であると考えられます。

    表2:腎機能および年齢別の副作用発現率
    [ファムビル錠250mg使用成績調査 ]
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    表2 腎機能および年齢別の副作用発現率

    ※:「年齢」「性別」「体重」「血清クレアチニン値」のデータを用いてCockcroft-Gaultの式で算出

    図2:1日投与量別の改善率(Ccr 60mL/min未満の患者)
    [ファムビル錠250mg使用成績調査]
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    図2 1日投与量別の改善率(Ccr 60mL/min未満の患者)

    おわりに

    社会の高齢化、食事や運動など生活習慣の変化に伴い、糖尿病患者は増加傾向にあります。また、糖尿病による免疫機能の低下から帯状疱疹を発症する患者は今後も増加することが予想されます。潜在的に腎機能障害を有している糖尿病患者や高齢者に対しては、腎機能に負担の少ない薬剤を選択することが重要です。
    医師は症状だけでなく、患者背景を理解した上で患者一人ひとりにあった、より適切な処方および治療を行なうべきだと考えます。

    文献:

    • 日本糖尿病学会糖尿病診断基準に関する調査検討委員会.糖尿病の分類と診断基準に関する委員会報告.糖尿病 2010; 53(6): 450-467
    • 日本糖尿病学会編.糖尿病治療ガイド2010,文光堂,東京,2010
    • ファムビル錠250mg 使用成績調査. マルホ株式会社

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