尋常性ざ瘡の概要
一般的に「ニキビ」として知られる尋常性ざ瘡は,思春期以降の顔面や胸背部の脂腺性毛包に好発する慢性炎症性皮膚疾患であり,面皰(コメド),紅色丘疹,膿疱を特徴とする。一部の症例では,囊腫や結節の形成がみられる。皮疹は多様で,新旧の病変が混在し,炎症が軽快した後もざ瘡後紅斑や炎症後色素沈着が遷延することが多く,瘢痕を残す場合もある(図2)。
発症には複数の因子が関与しており,毛包漏斗部の角質増殖,Cutibacterium acnes(旧称 Propionibacterium acnes)の系統型バランスの変化,皮脂産生亢進,免疫反応を伴う複雑な炎症,神経内分泌の関与などが知られている。これらの因子は相互に影響して,病態を悪化させるため,多角的な治療アプローチが求められる。

図2 尋常性ざ瘡の皮疹
a:面皰と紅色丘疹が混じる
b:紅色丘疹と膿疱が混じる
c:ざ瘡後の紅斑と萎縮性瘢痕が目立ち,一部膿疱と紅色丘疹が残存する
尋常性ざ瘡の治療
日本皮膚科学会「尋常性ざ瘡・酒さ治療ガイドライン2023」1)では,尋常性ざ瘡に関する47のClinical Question(CQ)に対し,エビデンスの質を評価した上で,治療の推奨度を決定している。患者の多くは紅色丘疹や膿疱を主訴として受診するため,治療の初期段階を急性炎症期と位置づけ,重症度別2)(図3)に推奨される治療を提示している。具体的には,過酸化ベンゾイル(BPO),アダパレン,これらの配合外用薬,抗菌外用薬,抗菌内服薬の推奨度が高く,併用療法も推奨される。
過酸化ベンゾイルは,角層剝離作用を通じて面皰に対する効果を発揮する。皮膚表面で分解される際に生じる活性酸素が強い殺菌作用を持ち,薬剤耐性菌対策としても有用である。そのため,抗菌薬との併用や,抗菌薬からの切り替えとしての使用が推奨される。アダパレンはレチノイド様作用を持つ化合物で,毛包上皮の角化を正常化し,面皰の形成を抑制することで皮疹の新生を減少させる。また,寛解維持にも高い効果を発揮する。急性炎症期の治療では,抗菌薬との併用により早期改善が期待される。抗菌薬(抗生物質)の使用に際しては,薬剤耐性化のリスクに配慮する必要があり,抗菌薬単独での治療は推奨されていない。国際的にも,抗菌内服薬や抗菌外用薬は過酸化ベンゾイルやアダパレンとの併用療法を 基本とし,長期使用を避けることが提言されている3)。
急性炎症期の治療は3カ月を目安に実施し,その後は維持療法へ移行する。維持療法では,面皰に対する治療を主体とし,炎症性皮疹の再燃を抑制する。また,尋常性ざ瘡は10代の患者が多いため,保険治療を優先した推奨度が設定されている。

図3 尋常性ざ瘡の重症度
a:軽症例,片顔に炎症性皮疹(紅色丘疹,膿疱)が5個以下
b:中等症例,片顔に炎症性皮疹が6〜20個
c:重症例,片顔に炎症性皮疹21〜50個
d:最重症例,片顔に炎症性皮疹が51個以上
Ⓐ③過酸化ベンゾイル含有薬外用
本症例は,図1に示すように化膿性皮疹が少なく,面皰が目立つ軽症例である。毛穴の詰まりとして認識される面皰に対して有効なのは,過酸化ベンゾイルとアダパレンである。特に過酸化ベンゾイルは殺菌作用を併せ持ち,急性炎症期から維持期まで継続的に使用できるため,尋常性ざ瘡治療においては中心的役割を果たす外用薬である。両薬剤とも配合外用薬もあり,症例に合わせて選択する。
過酸化ベンゾイルとアダパレンは,ともに角層に作用するため,外用開始時に乾燥や刺激症状が現れることがある(図4)。そのため,適切なスキンケア指導が重要である。また,過酸化ベンゾイルは2〜3%の頻度で接触皮膚炎を生じることが報告されており,皮膚炎発生時には中止するよう,あらかじめ指導しておく必要がある。

図4 ざ瘡治療外用薬による乾燥落屑症状
過酸化ベンゾイル含有外用薬による治療開始から2週間後。乾燥と落屑が目立つ
- 新常識
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尋常性ざ瘡の急性期の治療,維持療法のいずれにおいても,第一選択薬になっているのは,過酸化ベンゾイルまたはアダパレンを含有する外用薬である。抗菌薬のみで治療することは,国際的に推奨されていない。
【文献】
- 山﨑研志, 他:日皮会誌. 2023;133(3):407-50.
- Hayashi N, et al:J Dermatol. 2008;35(5):255-60.
- Thiboutot DM, et al: J Am Acad Dermatol. 2018;78(2 Suppl 1):S1-23.e1.