汗症疾患の概要,診断,重症度の把握
ヒトにおいて,汗は高温環境下での体温調節に必要不可欠な役割を担っている。しかし,頭部・顔面,手掌,足底,腋窩に温熱や精神的な負荷がかかることにより,あるいはそれらによらずに大量の発汗が起こり,日常生活に支障をきたす状態は原発性局所多汗症と定義される(図2)。
本疾患は,発症年齢や発汗のパターン,部位に特徴的な症状を呈することが知られており,患者への問診で比較的簡便に診断することができる(表1)1)。しかし,診断基準に示される特徴から外れる症状が聴取された場合(発症年齢が異なる,発汗部位が左右非対称,寝汗など)には,発汗異常を呈する続発性多汗症の鑑別が必要であることは留意すべきである。続発性多汗症の原因については,薬剤性,循環器疾患,悪性腫瘍,感染症,神経学的疾患,内分泌・代謝疾患,末梢神経障害,Frey症候群など多くの疾患が挙げられる(表2)1)。続発性多汗症が疑われる際には,採血,画像検査,または全身の発汗分布を確認するため,入院や簡易サウナなど設備が整った検査施設への紹介を検討する。
多汗症患者の重症度分類には,機器による他覚的な発汗量の評価と患者の自覚症状による評価〔HDSS:Hyperhidrosis Disease Severity Scale(表3)〕2)が用いられるが,臨床現場において他覚的な発汗量の測定は必須でなく,患者の自覚症状による重症度を評価する。
図2 原発性腋窩多汗症(NPO法人多汗症グループより提供)
表1 原発性局所多汗症診断基準原発性局所多汗症の診断基準は,局所的に過剰な発汗が明らかな原因がないまま6カ月以上認められ,
以下の6症状のうち2項目以上当てはまる場合を多汗症と診断する
(文献1より作成)
表2 鑑別疾患としての続発性多汗症の原因
(文献1より作成)
表3 HDSS:Hyperhidrosis Disease Severity Scale
(文献2より作成)
多汗症の治療
原発性局所多汗症治療は,多汗を呈する部位ごとに推奨される複数の治療選択肢が存在し,費用や患者の身体的負担が軽いものから段階的に行うことが勧められる(図3)1)。手のひらと腋の下の多汗症に対しては,近年保険適用の外用抗コリン薬が登場した。作用機序は,エクリン汗腺分泌部に存在するM3受容体を介したコリン作動性の反応を阻害することで,塗布部位の発汗を抑制する。全身性の副作用は少なく,プライマリ・ケア医が第一選択として処方することが可能である。現在,原発性手掌多汗症に対してオキシブチニン塩酸塩ローションが,原発性腋窩多汗症に対してソフピロニウム臭化物ゲル,グリコピロニウムトシル酸塩水和物ワイプが存在し,1日1回の外用を基本とする。副作用としては,外用部位における皮膚炎や,抗コリン作用に伴う口渇,散瞳,霧視,便秘,排尿障害などがみられることがあるが,頻度は低い。
発汗抑制効果は患者の発汗量の重症度や治療の季節によっても異なるが,まず1カ月程度は連日適用量を外用する指導を徹底し,外用薬の効果を正しく評価する。アドヒアランスを遵守してもなお効果に乏しい場合には,皮膚科専門医や,多汗症治療を積極的に行っている皮膚科への受診を勧め,外用抗コリン薬以外の治療選択肢との併用を検討する。
図3 原発性局所多汗症診療アルゴリズム(文献1を改変)
Ⓐ①受診時に発汗が確認できなくても患者の訴えで治療を開始
多汗症患者は,自身が困っているときの発汗量を診察時に再現できないことも多く,特に腋の下の発汗量は安定しないため,視診・触診は必須ではない。日常生活においてどのような場面でどの程度の発汗量があるかを問診で確認するほか,HDSSスコアに加え,発汗量を10段階で表すなどして,治療前後の発汗量改善度を評価してもよい。また,発汗の治療は本人の意思で開始されるべきであり,幼少時などは無理に治療を開始すべきでない場合もある。患者の職業やライフイベントなどに応じて,発汗コントロールに対する要望も変化する。最初から身体的に侵襲の強い手術といった治療を希望する患者もいるが,まずは侵襲の低い保険治療薬があることを伝え,低侵襲な薬剤を処方することが,適切な医療につなげるための初診医の重要な役割である。
- 新常識
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多汗症は,発汗量の多少で判断するのではなく,患者本人が支障を自覚し,希望があれば治療を開始すべきである。近年,保険適用の外用薬が登場し,腋窩および手掌多汗症患者に適応されるようになった。すべての症例において,治療は低侵襲のものから段階的に行うことが推奨される。
【文献】
- 原発性局所多汗症診療ガイドライン策定委員会:日皮会誌. 2023;133(13):3025-56.
- Strutton DR, et al:J Am Acad Dermatol. 2004;51(2):241-8.