原発性腋窩多汗症 診療のいろは その1
- 監修:
-
- 愛知医科大学 皮膚科学講座 特任教授 大嶋 雄一郎 先生
外用抗コリン薬の登場により、
原発性腋窩多汗症はさまざまな診療科で治療導入しやすい疾患となりました。
今回、原発性腋窩多汗症の診断・治療のポイントについて、
どの診療科の先生にもわかりやすいように紹介します。
原発性腋窩多汗症≠あせっかき、18人に1人がサイレントハンディキャップに悩む
原発性腋窩多汗症は腋窩に左右対称性に大量の発汗が見られ、日常生活に支障を伴う状態を指します。この原発性腋窩多汗症の有病率は約6%(18人に1人程度)であり、身近な疾患です。1)2)
先生が本日診察された患者さんの中にも、原発性腋窩多汗症の方がいらっしゃるかもしれません。

原発性腋窩多汗症患者さんは、日頃から不安を抱えて過ごしている。
俗に言うひどい「脇汗」のため、患者さんは「周囲の目が気になり仕事に集中できない」「汗じみが気になりつり革につかまれない」「汗じみが目立ち恥ずかしい」など、多くの不安(サイレントハンディキャップ)を抱えながら日常生活を送っています。

原発性腋窩多汗症患者さんの受診率は低い。
有病率の高さや多くの不安を抱えながら日常生活を送っているにもかかわらず、受診率は約6%にとどまっています。1,2) しかも受診継続率は1%以下2)と非常に低く、これまで医療機関での治療が十分に行われていなかったことは明らかです。受診率が低い理由としては次のようなことが考えられます。
受診率が低い理由として想定されること | 病気かどうか分からない |
治療できることを知らない | |
どの診療科に行けばいいのか分からない | |
ワキ汗の診察を受けるのは恥ずかしくて尻込みしてしまう | |
近隣に多汗症治療が可能な医療機関がない | |
制汗剤などで何とかしのいでいる |
原発性腋窩多汗症の診断のポイント。
診断は比較的容易です。
明らかな原因がない局所的な過剰発汗が6か月以上認められ、次の項目のうち2つ以上該当する場合を原発性局所多汗症と診断できます。多汗部位が腋窩の場合は原発性腋窩多汗症となります。
- 25歳以下の時に、最初に多汗症の症状があらわれた。
- 1週間に1回以上の多汗による出来事がある。
- 多汗は起きている間に出る/寝ている間は出ない。
- 家族でも多汗症の方がいる。
- 左右対称に発汗が認められる。
- 日常生活に影響があるほどの多汗がある。

原発性腋窩多汗症の第一選択は外用療法。
原発性腋窩多汗症と診断した後は、Hyperhidrosis disease severity scale(HDSS)による重症度判定を行います3)。HDSSは1~4の4段階に分類され、この重症度判定は薬剤処方や治療効果判断のために必要となります。HDSS 2~4に該当する場合、治療を検討します。
- 【HDSS-1】 発汗:全く気づかない、日常生活:全く支障がない
- 【HDSS-2】 発汗:我慢できる、日常生活:たまに支障がある
- 【HDSS-3】 発汗:ほぼ我慢できない、日常生活:しばしば支障がある
- 【HDSS-4】 発汗:耐えがたい、日常生活:常に支障がある
従来は原発性腋窩多汗症を適応症とする外用薬はなく、治療選択肢は限られていました。近年になって、外用抗コリン薬であるラピフォートワイプやソフピロニウム臭化物ゲルが登場しました。ガイドラインでは患者さんへの侵襲性と医療費の負担が少ない治療法から選択するよう記載されていることから、外用抗コリン薬は第一選択薬の一つとなっています。

外用抗コリン薬のラピフォートワイプは、1日1回、腋窩にふき取るように使います。
外用抗コリン薬のラピフォートワイプは1包にシート1枚が封入されている1回使い切りのワイプ製剤です。簡便かつ衛生的に使用することができます。ラピフォートワイプ1枚を用いて左右の腋窩に1日1回、毎日継続して塗布することで発汗を抑えます。

処方に際しては、次の点に注意して服薬指導を行ってください。
- –開封時に薬剤が飛散して目に入らないよう、目から離して開封する。
- –使用後はすぐに手を洗い薬剤を洗い流すようにする。
- –手洗いの前に目の周囲を触らない。
以下の副作用が現れた場合は、回復するまで中止するなど適切な対応をしてください。

本日から原発性腋窩多汗症の診療を行ってみませんか?
最後までご覧いただきありがとうございました。原発性腋窩多汗症の問診・診断・治療導入はそれほど難しいものではございません。
ポスターや小冊子の掲示などによって、患者さんが原発性腋窩多汗症の相談がしやすい環境作りを行ってみてはいかがでしょうか?弊社では小冊子・ポスターをご用意しております。以下のツールオーダーより注文もできますので、ぜひご活用ください。


- Fujimoto T, et al. J Dermatol. 2013, 40: 886―890.
- Fujimoto T, et al. Arch Dermatol Res. 2023, 315(3): 409-417.
- Strutton DR. et al.: J Am Acad Dermatol. 51(2): 241-248, 2004