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HZ・Sフォーラム報告 第2回 帯状疱疹の疫学・検査:抗体価が語る2つのウイルスの生き様


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    今福 信一先生

    今福 信一 先生
    福岡大学医学部 皮膚科学教室 教授

    ヘルペスウイルス感染症における抗体価の意味

    抗体価はウイルス感染の動かぬ証拠であり、単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus;HSV)や水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus;VZV)の感染の有無だけでなく、感染後にウイルスがヒトの体内でどのように生きてきたのかを示す道しるべである。抗体は、ナイーブB細胞が細胞表面に発現するIgMを介して抗原を提示し、抗原を認識したT細胞との相互作用により活性化されたIgMがIgGへクラススイッチして、IgG抗体を永続的に産生するプラズマ細胞になるという仕組みにより産生される。T細胞の活性化能力と抗体価の関連性は強く1)、高い抗体価は細胞性免疫の強さの指標となりうる。

    内因性の再活性化である帯状疱疹の場合にも初診時にVZV-IgM抗体が陽性になることがある2)。また、IgGと補体結合反応(CF)には相関関係が見られ2)、CF法は高いIgG値を反映する。

    単純ヘルペスにおける抗体価の変動

    HSVでは初感染の多くが皮膚や粘膜に症状が現れない不顕性感染であり、初感染後は神経節に潜伏感染する。潜伏していたHSVが再活性化されると神経節から下行し、皮膚に病変を形成するか、無症候性にウイルスを排泄して新たな感染を引き起こす。

    HSV感染を疑って福岡市内のクリニックを受診した患者のHSV-CF抗体価を調べたところ、陽性率(≧8倍)は年齢とともに高くなっており3)、また、初診時から陽性を示す患者が多かった(図1左)。このことから、HSVは繰り返し再活性化することで常に免疫を刺激し、HSV-CF抗体が陽性に維持されている可能性が示唆された(図2上)。

    HSVが再活性化によりどのように排泄されているかを調べるため、自施設および福岡市内のクリニックを受診した単純ヘルペスおよびその疑いのある患者の皮膚・粘膜の皮疹部、口腔内ぬぐい液からLAMP法にてHSV-DNAの検出を行った。すると、顔面や口唇の皮膚病変からはHSV-DNAが検出されたが、免疫不全の患者を除いて粘膜部位からは検出されなかった。粘膜ではHSVは病変をつくらずすぐに消失するなど、何らかの形でHSVとの妥協・寛容が起きているのではないかと推測している。

    水痘・帯状疱疹における抗体価の変動

    VZVについても同様に、福岡市内のクリニックを受診した帯状疱疹が疑われる患者のVZV-CF抗体価を調べた結果、陽性率(≧8倍)に年齢との相関は見られなかった。また、抗体価の分布を見ると、多くの患者は陰性で、抗体価が低い患者ほど人数が多い傾向が認められた4)図1右)。

    持続的な免疫への刺激で維持されるHSV-CF抗体価に比べ、VZV-CF抗体価は再活性化の頻度が低く、帯状疱疹の発症などによって陽性化すると考えられた(図2下)。

    図1:初回のHSV-CF抗体価とVZV-CF抗体価の分布
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    初回のHSV-CF抗体価とVZV-CF抗体価の分布
    図2:HSV-CF抗体価、VZV-CF抗体価の変動
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    HSV-CF抗体価、VZV-CF抗体価の変動

    HSVとVZVの抗体価の変動の違いは、両ウイルスの潜伏様式の違いによるものと考えられる。HSVは無症候性に再活性化を繰り返しているのに対し、VZVは水痘の流行により感染を広げるという戦略をとっている。水痘の流行には感染する個体の存在が不可欠であるが、流行が一過性に進むと感染できる個体がいなくなってしまう。そのため、VZVは帯状疱疹を発症した成人から未感染の小児に感染し、その集団で水痘を流行させた後に潜伏する。その後、一定期間を経てその小児が成人となり帯状疱疹を発症し、再び次の世代に感染するという仕組みをとって種を存続させている。

    帯状疱疹の発症と経過にかかわる2つの免疫

    VZV-IgG抗体価は帯状疱疹発症後に上昇するが、帯状疱疹発症からの日数とVZV-IgG抗体価の上昇程度には、抗体価のばらつきが大きいこともあり相関関係は認められていない2)。一方で、帯状疱疹後神経痛(post-herpetic neuralgia;PHN)について調査したFAMILIARスタディでは、皮疹発現からの日数が短いほど重症患者の割合が多いことが示されている5)。重症患者は早い段階で悪化が進んで重症になり、軽症患者は悪化する速度が遅く、軽症に留まる。このような違いには自然免疫と獲得免疫が関与していると考える。

    水痘の初感染で日焼けした箇所のみ皮膚病変が出現したという症例があり、帯状疱疹でも発症とVZV抗体価の上昇までの速度の違いは、皮膚の局所的な抵抗、自然免疫が関係していると思われる。Arvinらは、水痘による水疱はVZVが皮膚でIFN-αなどの自然免疫の抵抗に勝った場合に形成されるものであり、局所におけるIFN-αの産生能が水疱形成の時期や量を決め、潜伏期は抵抗の克服にかかる時間であると報告している6)。つまり、皮膚での抵抗が弱い人は潜伏期が短く、抗体価が低値であるため、すぐに重症化すると考えられる。一方で抵抗が強い人は発症までの時間が長く、抗体価も既に上昇しているため、軽症になると推測される(図3)。実際に、局所での抵抗を反映する皮内反応が強い患者ほどPHNになりにくいことが報告されている7)

    図3:皮膚における抵抗と帯状疱疹の出現時期、重症度との関係
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    皮膚における抵抗と帯状疱疹の出現時期、重症度との関係

    帯状疱疹は再帰感染であるにもかかわらず、一部の患者で、通常は急性期には陰性であるVZV-IgM抗体が陽性になることがある。自施設を受診した水痘または帯状疱疹患者を対象に後ろ向き調査を実施したところ、急性期の帯状疱疹患者のうち、12%がVZV-IgM抗体陽性であった2)。さらにVZV-IgM陽性(>1)の患者に臨床的な特徴があるかを調べた結果、VZV-IgM陽性患者は陰性患者と比較して有意に汎発疹を伴いやすいことが示された(p =0.0172、Fisher's exact test)8)。汎発疹を伴わない帯状疱疹患者のVZV抗体価はIgM陰性、IgG低値~中等度であったが、汎発疹を伴う帯状疱疹患者で早期に受診した患者はIgM中等度~高値、IgG低値~中等度、後期に受診した患者はIgM陰性、IgG高値という結果であった。汎発疹を伴う帯状疱疹患者では、既存の獲得免疫が低下しているため、新たなB細胞クローンが誘導され、VZV-IgM抗体が陽性になるのではないかと考えられた。多くの帯状疱疹患者では獲得免疫や中和抗体が残存しており、血球系への感染を防いで汎発疹を生じないと推測される。

    このように、帯状疱疹の発症と経過には皮膚病変を防ぐ自然免疫とウイルス血症を防ぐ獲得免疫の2つの免疫が深く関与していると考えられる。

    1. Levin MJ et al. J Infect Dis. 197(6)825(2008)
    2. Ihara H et al. J Dermatol. 45(2)189(2018)
    3. Miyachi M et al. J Dermatol. 44(1)47(2017)
    4. Miyachi M et al. J Dermatol. 44(6)656(2017)
    5. Imafuku S et al. J Eur Acad Dermatol Venereol. 28(12)1716(2014)
    6. Arvin AM et al. Curr Top Microbiol Immunol. 342, 189(2010)
    7. Imoto K et al. J Dermatol Sci. 79(3)235(2015)
    8. Imafuku S et al. J Invest Dermatol. 138(5)S154(2018)

    Discussion

    ■フロア粘膜からHSV-DNAが検出されなかったとのことですが、ヒトヘルペスウイルス6型では、病変の形成がなくとも唾液からウイルスが検出されています。

    ■今福粘膜には特有のウイルス産生方法があるのではないかと考えています。免疫不全者では粘膜内にできる潰瘍からHSVが検出されることがありますので、何らかの妥協・寛容が起こっている可能性があると思います。

    ■フロアHSVに感染していても抗体を持たないケースはないでしょうか。非常に高齢の患者でHSV-2抗体陰性で感染機会がないにもかかわらず、抗体が陽転化するケースや、臓器移植後にドナー、レシピエントともサイトメガロウイルスの抗体価が陰性にもかかわらずサイトメガロウイルス感染症を発症するケースがあり、抗体ができていない可能性があるのではないかと考えています。

    ■今福感染していたとしても、例えばHSV-CF抗体価が4倍など、非常に低い値を示していて陰性となっている可能性が考えられます。

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