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HZ・Sフォーラム報告 第2回 帯状疱疹の疫学・検査:VZV迅速抗原検出キットの開発経緯と臨床現場での使用経験


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    小坂 美恵子

    小坂 美恵子

    マルホ株式会社 診断薬事業部 研究開発グループ

    デルマクイックVZVの開発の経緯

    マルホでは、従来の治療に加え、予防、診断、アフターケアというケアサイクル全体で皮膚疾患のさまざまなニーズに幅広く応えることを目指している。その中で水痘・帯状疱疹の診断に際して水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus;VZV)を検出するキットを開発することとした。既存の検査方法とは異なる方法を模索し、外来などで迅速に検査結果が出ること、操作が簡便であることをコンセプトとし、各種感染症で用いられるイムノクロマト法を測定原理とするキットの開発を進め、デルマクイックVZV(以下、本キット)の発売に至った(図1)。

    図1:デルマクイックVZVの測定原理
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    デルマクイックVZVの測定原理

    イムノクロマト法は免疫学的な測定試薬であることから、性能はモノクローナル抗体に左右される。求められるモノクローナル抗体の条件は、VZVに高感度に反応すること、単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus;HSV)やサイトメガロウイルスなどと交差反応しないこと、サブクラスはIgG1であることなどだが、これらの条件をすべて満たす既存のモノクローナル抗体がなく、新たに採取することとした。モノクローナル抗体の採取は難航したが、他の研究機関の協力も得て実現し、その後、ハーフストリップ試験により最適な組み合わせを調べ、最も反応強度が高い抗体を選択した。

    本キットでは抗体の標識として、塩化金酸水溶液をクエン酸ナトリウムで還元処理して調製する、金ナノ粒子(金コロイド)を用いている。金コロイドは調製法によって粒子径を自在に変えることができ、粒子径が大きくなるに従って赤紫から金色に変化する光学的、電子的な特性を有しており、本キットでは粒子径が40~50nmの赤紫色の金コロイドを使用している。なお、金コロイドの吸収極大波長は540nmであり、リーダーを用いたラインの発色強度の測定によりウイルス濃度の把握が可能である。

    デルマクイックVZVの臨床性能試験

    体外診断用医薬品として臨床性能試験の実施施設の選定を進める中で、「イムノクロマト法を用いたキットに馴染みがない」などの意見が挙がったため、施設において検体採取とともにキットによる判定を行うというプロトコールを作成し、実際にキットを使用いただくこととした。症例は、1施設につきVZV感染疑い群5例、非感染群5例を目標とし、同意が取得できた被験者の皮疹の写真を撮影後、皮疹内容物を採取し、本キットを用いて判定した。さらに、判定結果などが記入された症例報告書、検体抽出液残液、使用済みのテストカートリッジを回収し、リアルタイムPCR(RT-PCR)法にて検体中のVZV-DNA濃度を算出した。

    本キットの臨床性能試験は国内の医療機関18施設で実施し、158症例(臨床所見によるVZV感染疑い群80症例、VZV非感染群78症例)のデータが集積された。そのうち、本キット陽性は70例、RT-PCR法陽性は74例であった。

    デルマクイックVZVの診断効率

    本キットの診断効率を検討するために実施した相関性試験1)では、RT-PCR法陽性74例中、本キット陽性例は69例、RT-PCR法陰性84例中、本キット陰性例は83例であり、RT-PCR法をベースにした本キットの陽性一致率は93.2%(69例/74例)、陰性一致率は98.8%(83例/84例)、全体一致率は96.2%(152例/158例)であった(表1)。皮疹の種類別にみると、RT-PCR法陽性74例における本キットの水疱・膿疱での陽性率は95.6%(65例/68例)、びらん・潰瘍での陽性率は66.7%(4例/6例)であり、水疱・膿疱から内容物を採取した方が、陽性率が高かった。

    また、臨床所見をベースにしたRT-PCR法および本キットの有病正診率は、それぞれ87.5%および85.0%、無病正診率は94.9%および97.4%、診断効率(有病正診率と無病正診率の合算値)はいずれも91.1%であり、本キットの有用性が示された。また、臨床所見での正診率は高いものの、臨床所見だけでは診断が難しい症例も少なからずあることが示唆された(表1)。

    表1:デルマクイックVZVの相関性試験
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    デルマクイックVZVの相関性試験

    臨床所見、本キット、RT-PCR法の間で1つ以上診断結果が乖離した症例は17例であった。そのうちVZV感染疑い群で本キットとRT-PCR法ともに陰性であった症例は9例で、RT-PCR法でHSV-1またはHSV-2が検出された症例や痂皮形成例、水痘ワクチン2回接種例などが認められた。一方、VZV感染疑い群でRT-PCR法陽性、本キット陰性であった症例は3例で、採取したVZV-DNA濃度がキットの検出限界以下であったことが原因と考えられた。RT-PCR法陽性74例における皮疹発症日数とVZV-DNA濃度、本キットの関係性から、VZV-DNA濃度1×106~1×107copies/mLが本キットの検出限界と推測される。

    なお、本キットには付属品としてスポンジスワブがセットされている。インフルエンザなどの検体採取に用いられるフロックスワブやコットンタイプのスワブは鼻腔ぬぐい液などの粘性検体の採取に適しているが、液性検体の採取には不向きとされる。スポンジスワブはスポンジ部分にウレタンが用いられており、液体の採取に優れている。本キットで検査を行う際には、キット付属の滅菌綿棒であるスポンジスワブの使用が望まれる。

    デルマクイックVZVの有用性が期待できる症例

    本キットは、典型的な皮疹を生じない症例など、臨床所見のみでは診断が難しい場合に有用と考える(表2)。他疾患との鑑別に迷った際は、診断の一助として活用いただければ幸いである。

    表2:デルマクイックVZVの有用性が期待できる症例
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    デルマクイックVZVの有用性が期待できる症例
    1. 渡辺大輔, 浅田秀夫ら. 新薬と臨牀. 67(1)23(2018)

    Discussion

    ■フロア実際にデルマクイックVZVを使用していると、テストラインが早々に出現するケースとなかなか出現しないケースがあります。検体量が要因になっているのかもしれませんが、臨床所見からVZVの感染が疑われ、試料滴下から10分経過しても出現しない場合はどのように考えるとよいでしょうか。

    ■小坂試料滴下10分後にコントロールラインは出現してテストラインは出現していない場合、実際には陰性である可能性が大きいと思いますが、キットの検出限界以下で偽陰性である可能性もあります。偽陰性である可能性を踏まえ、臨床所見で感染が疑われる場合は臨床所見を優先していただくことが望ましいのではないかと思います。

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