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HZ・Sフォーラム報告 第2回 帯状疱疹の疫学・検査:帯状疱疹大規模疫学調査「宮崎スタディ(1997-2018)」アップデート


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    外山 望先生

    外山 望 先生
    医療法人 外山皮膚科 院長

    宮崎スタディとは

    宮崎スタディは1997年に開始され、現在までの22年間にわたり継続されている帯状疱疹の大規模疫学調査である。宮崎県皮膚科医会に属する皮膚科診療所33施設と総合病院10施設で実施しており、帯状疱疹の初診患者を対象として、性別・年齢を月ごとに集計している。経過が長い帯状疱疹後神経痛の患者や、登録施設以外の医療機関を受診した重複患者は除外している。

    本スタディにおける帯状疱疹の診断は視診による臨床診断が中心であるが、リアルタイムPCR法との陽性一致率を検証した結果は98.36%と非常に高いことが示されている1)。2018年には、水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus;VZV)抗原を5~10分程度で検出できるデルマクイックVZVが保険適用されるなど、帯状疱疹診療を取り巻く環境も変わってきており、こうしたキットの利用などにより本スタディの臨床診断精度は今後さらに高まると予想される。

    1997~2018年における帯状疱疹疫学動向

    1997~2018年の帯状疱疹発症数は総計で11万9,053人に上った。この22年間で宮崎県の人口が9%減少する一方、発症数は年々増加し、1997年の4,243人から2018年には6,786人となり、発症数としては59.9%、人口あたりの発症率は75.6%上昇した(図1)。

    図1:宮崎県人口と帯状疱疹発症数の年別変動(1997~2018年)
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    図1 宮崎県人口と帯状疱疹発症数の年別変動

    また帯状疱疹の再発例も増加しており、2009年6月~2015年11月の集計によると再発率は6.41%に上った。再発までの平均期間は約13年で、悪性腫瘍や免疫疾患などの患者背景に特段の違いはなかった1)

    男女別で見ると、帯状疱疹発症数は男性4万9,588人、女性6万9,465人、発症率は男性4.22%、女性5.25%と女性で多かった。発症数のピークは男女ともに60歳代だが、発症率のピークは女性が70歳代、男性が80歳代であった。

    発症数全体に占める50歳以上の割合は、1997年では60.9%、2018年では73.4%と近年では50歳以上の発症割合が高まっており、特に60歳以上の女性の発症数・発症率の上昇は顕著であった。宮崎県の人口全体に占める60歳以上の割合は1997年に約25%であったのに対し、2018年は約39%にまで上昇していることから、宮崎県では高齢化が進行しており、帯状疱疹の疫学動向にもその影響が及んでいることが伺える。

    水痘ワクチン定期接種化が水痘・帯状疱疹の疫学動向に及ぼす影響:発症時期

    本邦では2014年10月から、水痘ワクチンを生後12~36ヵ月の小児に2回接種させる定期接種が導入されたが、宮崎スタディでこの導入前後のデータを比較することで、水痘・帯状疱疹の疫学動向に変化が生じていることがわかる。宮崎県の水痘患者は、2011年4月に日本小児科学会が水痘ワクチンの2回接種を勧奨し、2013年4月より宮崎市で補助事業が導入されたことで徐々に減少し、2014年の定期接種導入後はさらに減少した。これに反し、帯状疱疹患者は年々増加している。このような水痘患者が減少すると帯状疱疹患者が増加するという関係性は従来から知られており、本来、水痘患者との接触によりVZVに対する免疫のブースター効果が得られることで帯状疱疹の発症は抑えられるが2)、水痘患者の減少によりブースター効果が得られにくくなっていると考えられる。また、以前は夏場に紫外線や温度の影響でVZVが不活化されて水痘患者が減少することで、水痘と帯状疱疹の発症数に季節性が見られたが、水痘ワクチン定期接種の導入後は水痘は年間を通して減少し、それに伴い帯状疱疹の季節変動が小さくなっている(図2)。

    図2:帯状疱疹と水痘の季節変動(2014~2017年)
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    図2 帯状疱疹と水痘の季節変動

    水痘ワクチン定期接種化が水痘・帯状疱疹の疫学動向に及ぼす影響:発症年齢

    年代別にみると、水痘ワクチン定期接種の導入前(2011~2014年)に比べて導入後(2015~2018年)の帯状疱疹の発症数・発症率は10歳未満で低下が見られたものの、他は全年齢層で上昇した。高齢者に比べ50歳未満の若年者層の発症率上昇が顕著で、定期接種化は若年層の帯状疱疹発症に、より大きな影響を与えていると考えられた。唯一、発症率の低下が見られたのは10歳未満であり、水痘ワクチンの接種率が高まった1~4歳児および0歳児にその傾向が認められた(図3)。水痘ワクチンは弱毒化されている生ワクチンであるため、野生株に比べて神経節に潜むウイルス量が少なく、再活性化しにくいと考えられている3)。このことが1~4歳児の帯状疱疹発症率の低下に影響したと思われる。定期接種の対象ではない0歳児も他の年代と同様に水痘・帯状疱疹患者の減少が見られたが、これは1~4歳児の水痘患者が減少したことで、そこからの感染も減少したためと考えられる。一方、水痘ワクチンの接種率が低い5~9歳児は帯状疱疹の発症率が上昇しており(図3)、これは1~4歳児の水痘患者が減少したことでブースター効果が得られなくなったことが要因と考えられる。

    図3:幼児における水痘発症数と帯状疱疹発症率
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    図3 幼児における水痘発症数と帯状疱疹発症率

    また、従来は、水痘患児と接する機会が多い子育て世代の30代はブースター効果が得られやすく、帯状疱疹の発症が少ないとされてきたが、こうした疫学にも変化が生じてきている。かつて帯状疱疹の発症率は、10歳代に小さな峰があり、30歳代に減少し、50歳代より急激に増え、60~70歳代に大きな峰のある二峰性であったが、定期接種化後、発症率は0~40歳代までほぼ一定となり、二峰性ではなくなってきている。1997年と2018年を比較すると、いずれの年代においても帯状疱疹の発症率は上昇している。

    今後、さらに水痘ワクチンの定期接種が定着すると数年後には10歳未満の帯状疱疹発症率はさらに低下し、若年層の変化が平坦化から右肩上がりになる可能性も考えられる。ただし帯状疱疹予防を目的としたワクチンが普及すると、高齢者の帯状疱疹患者が減少することも予想される。今後の展開を見守りたい。

    1. Shiraki K et al. Open Forum Infect Dis. 4(1)ofx007(2017)
    2. Thomas SL et al. Lancet. 360(9334)678(2002)
    3. 神谷齊ほか. 感染症学雑誌. 84(6)694(2010)

    Discussion

    ■フロア以前は冬場の帯状疱疹の発症率が低いとされていましたが、今回のお話では季節性がなくなってきているとのことでした。実際、当院でも年末年始に数名の帯状疱疹患者が入院し、冬場の発症率が上がってきているような印象を持っていますが、そのような傾向はありますか。

    ■外山実際に冬場の帯状疱疹発症率は上昇しており季節性がなくなってきていると感じています。

    ■フロア本邦においても2016年より50歳以上を対象に帯状疱疹予防目的で乾燥弱毒生水痘ワクチンを使用できるようになりましたが、宮崎県皮膚科医会ではどのような状況でしょうか。

    ■外山宮崎県皮膚科医会では積極的に接種を勧めています。なお、全例を追跡調査したわけではありませんが、接種を受けた約500人のうち、10人程度が帯状疱疹を発症しました。

    ■フロア2009年6月~2015年11月の調査において、帯状疱疹再発例の背景として悪性腫瘍や免疫疾患は特に多くなかったとのことでしたが、当院では化学療法中のがん患者における帯状疱疹の再発率が高く、今後がん患者の増加に伴い、帯状疱疹の再発も増加するのではないかと思っています。

    ■外山データには傾向として現れませんでしたが、症例ごとに見た場合に再発を繰り返すケースが認められました。

    ■浅田水痘と帯状疱疹の発症は鏡像関係にあるとのことですが、帯状疱疹予防ワクチンの普及による帯状疱疹の減少が、逆に水痘の流行に影響を与える可能性もあるのでしょうか。

    ■外山既に季節性は弱まってきていますので、ゆくゆくは鏡像関係を示すこともなくなるのではないかと予想されます。

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