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HZ・Sフォーラム報告 第2回 帯状疱疹の疫学・検査:ウイルス感染症診断に用いる検査の特徴と結果の解釈


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    飯田 慶治

    飯田 慶治
    株式会社エスアールエル
    感染免疫部

    HHV感染症の検査の種類

    ヒトヘルペスウイルス(human herpes virus;HHV)感染症の検査は、ウイルスそのものやウイルス蛋白、ウイルス遺伝子やその断片を検出する抗原・遺伝子検査と、HHVに対する免疫から感染を回顧的に示す抗体検査に大別される。一般診療で頻用されるのは抗体検査であり、本講演では主に単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus;HSV)と水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus;VZV)の抗体検査とその結果の解釈を解説する。

    HHVの主な抗体検査法には、酵素抗体法(EIA)、蛍光抗体法(IFA)、中和反応(NT)、補体結合反応(CF)などがある。この中で、主に用いられる抗体検査法はグロブリンクラス別(IgG抗体、IgM抗体)に測定する方法である。IgG抗体は感染後に上昇し、抗体の中では最も長く残存しやすく、感染既往の証明に有用である。IgM抗体は感染早期に上昇し、速やかに下降・消失するため、IgM抗体が検出されれば近い過去に感染があったと推測できる。急性期の単血清から感染を証明するには、IgM抗体の検出が唯一の方法である。ただし、IgM抗体には個人差や反応の弱い例があり、検出されなかったとしても感染の否定はできない。

    各種HHV抗体検査の特徴と結果の解釈

    HHVのIgG、IgM抗体検査法にはEIAとIFAがある。EIAは抽出したウイルスから精製した抗原に対する抗体を測定するのに対し、IFAでは組織、細胞内に発現したウイルス抗原に対する抗体を測定する。判定方法も異なり、EIAでは機器測定、IFAでは目視判定となる。IFAはウイルス感染細胞を用いるためその細胞に対する抗体が反応すると非特異反応のため判定ができないことがあるが、精製抗原を用いるEIAではIFAに比べ非特異反応は少ない。NTは、ウイルスに対する中和抗体(感染防御抗体)を検出する方法で、検出される時期はIgG(EIA)に比べ遅い。また、検査工程にウイルス分離と同様の培養を要するため、検査結果が出るまでに時間がかかるのも特徴である。

    CFは抗原抗体複合体と補体が結合する性質を利用した検査法である。一般的にIgG(EIA)やNTに比べて感度が低く、抗補体作用によって判定できないこともある。CF抗体は再感染や再活性化がなければ、通常6ヵ月~1年程度で消失するが、HHVの場合は通常とは異なる。HSVの場合、潜伏感染下では再活性化が頻繁に起きているためCF抗体が消失しにくい。その一方でVZVは潜伏感染していても長期間再活性化することが少ないため、CF抗体が維持されにくいと考えられる(図1)。VZVのCF抗体価が高い患者群ではIgG抗体価も高く、これは近い過去に再活性化があったことで細胞性免疫が上がり、帯状疱疹を発症しづらい状態にあると解釈できる。

    図1:CF抗体とIgG(EIA)との抗体価比較(同一検体)
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    図1 CF抗体とIgG(EIA)との抗体価比較(同一検体)

    また、HHV抗体の特徴の1つに、抗体の交差性があることに留意したい。株式会社エスアールエル(SRL社)がHSVとVZVのIgG/IgM/CF6項目に同時依頼されたペア血清の交差性について調べた結果(どちらか一方が、IgG陰性の場合は対象外)では、40.2%の検体で両ウイルス間に抗体交差性(有意な共上がり現象)が認められた。

    ペア血清を用いた抗体検査結果の確認

    抗体検査により感染を確認するには、本来、急性期と回復期のペア血清間の抗体価の変動を見る必要がある。抗体検査法は、IFA、NT、CFなどの血清2倍段階希釈法と、EIAなどの一定濃度血清希釈法に大別されるが、血清2倍段階希釈法では急性期に比べ回復期の抗体価が4倍以上上昇すれば感染が証明される。一定濃度血清希釈法では、測定誤差以上の上昇があれば陽性とされ、ペア血清間に2倍以上の上昇が認められれば感染が証明される。

    このように抗体検査による感染確認は、ペア血清で行うのがよいとされているが、SRL社が請けた抗体検査において、ペア血清での依頼は少なく、実臨床ではほとんどの症例が単血清で診断されていると考えられる。

    抗体検査結果から示唆されるHHV感染の動向

    SRL社が請けた2013~2017年の抗体検査の集計では、VZVのIgG抗体陽性率は20歳以上になると90%を超えており、多くが成人になるまでにVZVに感染していることがわかった。一方、HSVのIgG抗体陽性率は加齢とともに増加していた。2013~2017年の集計を1993~1997年および2003~2007年と比べると、VZVでは25年間ほぼ変化がないのに対して、HSVでは年々低下しており、近年はHSV感染者が減少傾向にあることが示唆された(図2)。

    図2:VZV、HSVのIgG(EIA)抗体陽性率(10年ごと):年齢別、男女別
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    図2 VZV、HSVのIgG(EIA)抗体陽性率(10年ごと):年齢別、男女別

    2013~2017年におけるVZVのCF抗体陽性率は、1993~1997年、2003~2007年に比べ若干減少している。この結果から、曝露や再活性等によるブースター効果がかかりにくくなっており、帯状疱疹の発生につながっているのではないかと考えられた(図3)。

    図3:VZV、HSVのCF抗体陽性率(10年ごと):年齢別、男女別
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    図3 VZV、HSVのCF抗体陽性率(10年ごと):年齢別、男女別

    近年のHHV抗体検査の動向と今後の展望

    2015~2017年にSRL社が受注したHSVとVZVの抗体検査ではEIAが最も多く、HSVで8割、VZVで9割を占めていた。抗体検査依頼数を約25年前と比べると、EIAが約4~6倍に増加し、CFは約4分の1、NTは約5分の1に減少した(図4)。

    図4:HSVおよびVZV抗体検査の依頼数分布(2015年1月~2017年12月)
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    図4 HSVおよびVZV抗体検査の依頼数分布(2015年1月~2017年12月)

    近年は、こうしたHHV抗体検査に加え、新たな遺伝子検査による感染症診断が注目されており、次々に新規のHHV遺伝子検査が保険収載されている。検査法の選択肢が増える中で、それぞれの検査方法の特徴や臨床症状との関連性を考慮し、目的にあった方法を選択すること、さらにその検査結果を適切に解釈することが重要と考えられる。

    Discussion

    ■フロアHSVの再発が見られるにもかかわらず、CFで約30%が陰性を示したこと、IgM抗体価が低値ではあるものの10年ほど陽性を示したことが実際にありましたが、どのように考えるとよいでしょうか。

    ■飯田我々は臨床側を見ることができないため、IgM抗体価が真のIgM抗体価を示しているのか、抗体交差によるものか、持続感染によるものか、実際のところはわかりかねますが、我々にとっても偽陽性となるケースは少なくない印象があります。

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