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HZ・Sフォーラム報告 第1回 帯状疱疹の新たな治療選択:アメナメビル〈新規 ヘルペスウイルス-ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬〉の創製


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    鈴木 弘 氏

    鈴木 弘

    アステラス製薬株式会社

    研究本部 研究プログラム推進グループ

    ヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬 創製研究開始の経緯

    2017年9月に、新規作用機序の抗ヘルペスウイルス薬アメナメビル(アメナリーフ錠)が帯状疱疹の適応症で発売された。これまで、内服の抗ヘルペスウイルス薬はアシクロビル、バラシクロビル塩酸塩、ファムシクロビルが用いられてきた。これらはいずれも単純ヘルペスウイルス(Herpes simplex virus;HSV)よりも水痘・帯状疱疹ウイルス(Varicella-zoster virus;VZV)への抗ウイルス活性が低かった。また、すべて核酸類似体で、作用機序が同様であるため、将来的に交差耐性の出現による治療への影響が懸念されていた。このような状況のもと、我々は、VZVに対する強い抗ウイルス活性を有し、かつ、従来の薬剤と作用機序が異なる薬剤の創製を目指し、1998年より研究を開始した。

    アメナメビルの創製

    ヘルペスウイルス由来の酵素のうち、ウイルスDNA複製の初期過程に必須の酵素であるヘリカーゼ・プライマーゼ複合体をターゲットとした。そして、その酵素に対する阻害作用がHSVで報告されている2-アミノチアゾールベンゼン環を持つ化合物1)に着目した。その中で極めて弱いながらも抗VZV活性を有する化合物を同定し、研究をスタートさせた。まずはこの化合物の構造を変化させることで、抗HSV活性を損なうことなく抗VZV活性を増強させ、強いCYP3A4阻害作用の減弱を目指すこととなった。修飾展開研究は試行錯誤の連続であった。

    第1のブレークスルーは、キャリアタンパク質の影響に気づいたことである。一般的に薬剤はキャリアタンパク質と複合体を形成し、血中を移動している。薬効を示すのはキャリアタンパク質から遊離している薬剤であるため、タンパク結合率が高いと、生体内で十分な効果を発揮することができない。その影響を低減する置換基の探索を進め、有望な置換基を見出した。第2のブレークスルーは、CYP3A4阻害作用を減弱する置換基を獲得したことである。当時の化合物は強い抗VZV活性は認められたものの、CYP3A4阻害作用も強かった。CYP3A4阻害作用の減弱に苦慮していた中、今まで抗ウイルス活性に必須構造だと考えていたアミノ基がなくなった化合物の発見により、CYP3A4阻害作用を減弱することができた。このようなブレークスルーを重ね、アメナメビルの創製に至った(図1)。

    図1:アメナメビルの置換基と活性プロファイル
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    アメナメビルの置換基と活性プロファイル

    アメナメビルの作用機序

    ヘリカーゼ・プライマーゼ複合体は、ウイルスDNAの二本鎖を一本鎖にほどき、またDNA複製を開始するために必須なRNAプライマーを合成する(図2)。アメナメビルはHSV-1を用いた試験で、ヘリカーゼ活性、ヘリカーゼサブユニットが持つATPase活性、プライマーゼ活性を同程度の濃度で阻害した2)。また、ヘルペスウイルスを感染させた細胞を用いた検討では、アメナメビルは濃度依存的にVZVおよびHSV-1、HSV-2のDNA複製を阻害した2)

    図2:アメナメビルの作用機序
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    アメナメビルの作用機序

    アメナメビルの毒性試験に関する所見

    アメナメビルの非臨床毒性試験は、単回投与毒性試験・反復投与毒性試験・遺伝毒性試験・がん原性試験・生殖発生毒性試験等を実施している。イヌを用いた4週間反復投与試験の結果、アメナメビルは肝薬物代謝酵素の誘導作用を有することが確認された3)。イヌの無毒性量を60mg/kg/日と判断してヒトでの安全域を算出した結果、イヌの無毒性量の曝露量はアメナメビルの用法・用量である1日1回400mgを健康成人に単回投与した場合の10倍以上、高齢者に反復投与した場合の8倍以上であった。

    なお、承認時までの臨床試験での副作用4)は、317例中46例(14.5%)に認められ、主な副作用として、β-NアセチルDグルコサミニダーゼ増加9例(2.8%)、α1ミクログロブリン増加6例(1.9%)、フィブリン分解産物増加5例(1.6%)、心電図QT延長4例(1.3%)等が認められた。

    アメナメビルの抗ウイルス活性と細胞毒性

    アメナメビルはαヘルペスウイルス亜科に属するVZVおよびHSV-1、HSV-2に対し抗ウイルス活性を有するが2、5)、同様にヘリカーゼ・プライマーゼ遺伝子を持つヒトサイトメガロウイルス、ヘリカーゼ・プライマーゼ遺伝子を持たないRSウイルス、インフルエンザウイルス、ヒト免疫不全ウイルス1型などに対しては阻害活性を示さない6)。また、HEF細胞を用いて宿主細胞に対するアメナメビルの毒性を検討したところ、試験した最大値である200μMまで細胞毒性は示さなかった2)表1)。

    表1:アメナメビルの抗ウイルス活性と細胞毒性
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    アメナメビルの抗ウイルス活性と細胞毒性

    なお、ヒトゲノムには100以上のヘリカーゼ遺伝子が存在するが、ヘルペスウイルス科のヘリカーゼのアミノ酸配列はヒトのものとは相同性が低いため、アメナメビルがヒトのヘリカーゼに作用して毒性を示す可能性は低いと考える。

    HSV-1皮膚感染モデルマウスにおけるアメナメビルの影響

    HSV-1皮膚感染モデルマウスを用いて感染3時間後からアメナメビルもしくはバラシクロビル塩酸塩を1日2回5日間投与した結果、皮膚病変スコアを50%低減する薬剤の用量(ED50)はアメナメビルで1.9mg/kg、バラシクロビル塩酸塩で27mg/kgであった2)。同モデルマウスにアメナメビル50mg/kgもしくはバラシクロビル塩酸塩100mg/kgを1日2回5日間、感染3日後、4日後、5日後にタイミングを分けて投与開始したところ、感染3日後からの投与ではアメナメビル、バラシクロビル塩酸塩ともに病変スコアがプラセボと比べて有意に低下したが(P<0.05、Dunnetの多重比較検定)、感染4日後からの投与ではアメナメビルの病変スコアがプラセボと比べて有意に低下した(P<0.05、Dunnetの多重比較検定)。そして感染5日後からの投与では、いずれもプラセボと比べて有意差は認められなかった(Dunnetの多重比較検定)7)

    アメナメビルは世界に先駆け本邦で創製、臨床開発された新しい作用機序の抗ヘルペスウイルス薬である。発売して間もない薬剤であるため、臨床効果と副作用から薬剤のポテンシャルを適切に判断の上、厳しくも温かく育てていただければ幸いである。

    Discussion

    ■フロアHSV-1皮膚感染モデルマウスを用いた試験で、アメナメビルは感染4日後からの投与開始でも病変スコアがプラセボと比べて有意に低下したとのことでしたが、従来の核酸類似体よりもヘリカーゼ・プライマーゼ阻害薬の方が作用点が先にあることが関与しているのでしょうか。患者の免疫状態にもよりますが、臨床でも同様の考え方ができるのでしょうか。

    ■鈴木本試験7)では、HSV-1のウイルス力価も合わせて確認していますが、アメナメビルにおいても感染5日後以降の投与になると効果に差がみられなくなっています。あくまでマウスによって得られた結果ですので、実際の臨床において感染から投与開始までの日数で効果がどのようになるのか、バラシクロビル塩酸塩との違いが現れるかについては関連性は不明です。

    1. Crumpacker CS et al. Nat Med. 8(4)327(2002)
    2. Chono K et al. J Antimicrob Chemother. 65(8)1733(2010)
    3. マルホ株式会社社内資料:肝毒性に関する検討(イヌ)
    4. マルホ株式会社社内資料:帯状疱疹患者を対象とした第Ⅱ相臨床試験(15L-CL-221試験)、
      第Ⅲ相臨床試験(M522101-J01試験)(承認時評価資料)
    5. Katsumata K et al. Molecules. 16(9)7210(2011)
    6. マルホ株式会社社内資料:RCV、FluV、HCMV及びHIV-1に対する in vitro 抗ウイルス活性
    7. マルホ株式会社社内資料:マウスHSV-1皮膚感染モデルにおける治療効果

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