1.帯状疱疹の診断
- 監修:
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- まりこの皮フ科 院長/東京慈恵会医科大学皮膚科 客員教授 本田 まりこ 先生
診断のキーとなる帯状疱疹の臨床的特徴や皮膚症状について解説するとともに、区別が難しい他の皮膚疾患との鑑別のポイントをご紹介します。
診断のポイント
特徴
既往
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帯状疱疹は、水痘の既往があれば誰でも発症する可能性がある。 |
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年齢
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高齢者に多く、発症率は50代から上昇し70代がピークとなる1)が、若年者でも過労やストレスなどにより発症することがある2) 。80歳までに、3人に1人が帯状疱疹を経験すると推定されている1)、3) 。 |
感染
リスク |
帯状疱疹は、周りの人に帯状疱疹を発症させることはないが、水痘の既往のない乳幼児などに接触(空気感染、接触感染)することにより水痘として感染する可能性がある。 |
再発
リスク |
帯状疱疹の発症により水痘・帯状疱疹ウイルスに対する免疫力が高まるため、通常は生涯に1度しか発症しないといわれている。近年では、再発率は6.41%であったとの報告がある4)。 |
皮膚症状の経過および特徴
帯状疱疹は局所の痛みや違和感として始まることが多く、皮膚症状が出現する数日前から疼痛(前駆痛)が出現します。症例により経過は異なり、1週間程度で治癒することもあれば、深い潰瘍を作り、治癒までに1ヵ月以上かかったり、瘢痕や痛みが残ったり(帯状疱疹後神経痛:PHN)することがあります。
- 前駆痛
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- 皮膚の違和感やピリピリ感などの神経痛様疼痛がみられる。
- ウイルスの増殖により神経支配領域に一致した痛みが生じる。しかし、肋間神経痛や坐骨神経痛、頭痛などの可能性も考えられ、この時点では診断を確定できないことが多い。
- 皮膚症状
(図1) -
- 片側性に浮腫性の紅斑が出現する。軽度の発熱やリンパ節の腫れを伴うこともある。
- 皮膚と神経でのウイルス増殖により炎症が起こるため、強い痛みが生じる。
- 紅斑上に多数の小水疱が現れる(図2)。
- 水疱は破れてびらんとなり、約2週間後から乾燥して痂皮化する。
- 痂皮は3週間程度で脱落し、治癒する。

大きさ:粟粒大~小豆大

発症部位
帯状疱疹の原因となる水痘・帯状疱疹ウイルスは、ほぼ全身の神経節に潜伏しているため、感覚神経のある部位にはどこにでも発症する可能性があります。
右半身と左半身はそれぞれ5つの神経支配領域(三叉神経、頸神経、胸神経、腰神経、仙骨神経)に分けられ、頭部の三叉神経はさらに3つの領域に分けられます(図3)。
典型例では、水疱をはじめとした症状が、これらの神経に沿って身体の左右どちらか一方に帯状に現れます。従って、水疱や紅斑の出現領域が神経分布と異なる場合は、他疾患を疑い、鑑別をする必要があります。
図3:デルマトーム図※ 6)
全身

頭部

- ※ 皮膚の神経支配領域の分布を表したもの
好発部位
帯状疱疹は、多数の神経節が並んでいる体幹部、特に胸神経の支配領域に多く発症します。頭部では、三叉神経の第1枝領域が好発部位です。
2008年11月から2010年6月までの間に実施されたファムビル錠の使用成績調査の結果では、上肢~腰背部が全体の28.3%(920/3,248例)を占め、頭部~顔面は19.6%(638/3,248例)でした(重複あり)(図4)。

重症度
帯状疱疹の重症度は、軽症、中等症、重症の3つに分類されます(表1)。帯状疱疹の治療は通常、外来で行いますが、重症化したり、激しい痛みや重い合併症があったりする場合は、入院が必要となることもあります(表2)。
軽症 | 神経節の支配領域に島状の皮膚病変が数個見られる |
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中等症 | 軽症と重症の中間のもの |
重症 |
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主な合併症 | 症状 | |
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腹部 | 便秘、腸閉塞 | 腹筋片麻痺、大腸機能低下、腹部膨満感、腹痛、嘔吐・吐き気 |
臀部・陰部 | 膀胱直腸障害、膀胱神経麻痺、尿閉、便秘 | 尿の出が悪い、陰部の強い痛み |
耳鼻 | 顔面神経麻痺、ラムゼイ・ハント症候群、味覚障害、難聴 | めまい、片側の眼だけ閉じられない、口が閉じられない |
眼部 | 角膜炎、ぶどう膜炎 | 目の炎症、視力の低下 |
頭部 | 髄膜炎、帯状疱疹脳炎 | 高熱、頭痛、痙攣、嘔吐・吐き気、錯乱、意識障害、嗅覚障害 |
鑑別のポイント
前駆痛
帯状疱疹は痛みや違和感として始まることから、皮疹が出現する前に頭痛や胸痛、腹痛などを訴えて受診する患者さんがいます。このような痛みは「前駆痛」と呼ばれ、再活性化した水痘・帯状疱疹ウイルスが神経を傷害しながら神経末端へと移動するために生じると考えられています。
特に片側性のデルマトームに一致した痛みは帯状疱疹の前駆痛の可能性が高く、早期診断の重要な手がかりとなります。
ただし、肋間神経領域の痛みは心肺疾患との区別が難しい場合もあり、原因によっては緊急対応を要することから、帯状疱疹と他疾患を迅速かつ適切に鑑別することが重要となります。
皮疹出現後
帯状疱疹は、臨床的な特徴から比較的鑑別しやすい疾患ですが、なかには典型的な臨床症状を呈さず、皮膚症状からは他疾患と鑑別が難しい場合があります。
ここでは、帯状疱疹と他疾患の鑑別診断のポイントについて、症例写真を交えて解説します。
図5:帯状疱疹
帯状疱疹
胸神経領域の帯状疱疹

- 水疱が片側性かつ帯状に認められる。
- 血疱を伴うことがある。
- 疼痛を伴う。
- 体幹部が好発部位である。
三叉神経領域の帯状疱疹

- 顔面では三叉神経の支配領域に従って水疱が認められる。
- 疼痛を伴う。
図6:帯状疱疹と間違えやすい疾患
単純疱疹
口唇ヘルペス

- 口唇およびその周辺に小水疱の集簇がみられる。
- 年に数回再発する。
- 帯状疱疹よりも疼痛が軽度である。
顔面ヘルペス

- 鼻、頬部、眼窩部などに水疱が認められる。
- 年に数回再発する。
- 帯状疱疹よりも疼痛が軽度である。
性器(陰部)ヘルペス

- 陰部に水疱、びらん、潰瘍が混在する。
- 初感染では、発熱、強い疼痛、鼠径リンパ節の腫脹を伴う。
- 年に数回再発する。
臀部ヘルペス

- 臀部にそう痒または軽い疼痛が生じたあと、浮腫性紅斑が認められる。
- 臀部や大腿後面に再発を繰り返す。
- 性器ヘルペスの既往をもつことが多い。
カポジ水痘様発疹症


- 湿疹病変上に小水疱、びらん、膿疱が播種状に多発する。
- アトピー性皮膚炎や湿疹をもつ乳幼児に好発する。
- リンパ節腫脹や高熱などの全身症状を伴うこともある。
その他
丹毒(顔面)

- 顔面や下肢に境界明瞭な浮腫性紅斑が現れる。
- 丹毒による頬部の紅斑は鼻唇溝を越えない。
- 熱感と圧痛が強い。
扁平苔癬

- 扁平に隆起した灰青色~紫紅色の丘疹および局面を形成する。
- 手背や四肢、口腔、爪に好発する。
- ケブネル現象(健常な部分の皮膚に摩擦などの刺激を加えると病変を生じる現象)がみられる。
- 皮疹の表面に細い灰白色線条(Wickham線条)がみられる。
膿痂疹

- 水疱を形成するもの(水疱性膿痂疹)と痂皮が主体となるもの(痂皮性膿痂疹)がある。
- 水疱性膿痂疹は小児に多く、小外傷部や湿疹などの掻破部から初発する。
毛虫皮膚炎

- 毛虫が付着した頸部や上肢の片側に、そう痒を伴う皮疹を認める。
- チャドクガ等の毒性をもつ毛虫の毛が皮膚に刺さることにより生じる。
貨幣状湿疹

- 四肢、特に下腿に類円形の湿疹性局面が散在または多発する。
- 病変部は小水疱、丘疹、痂皮が混在する。
- 注) 帯状疱疹非典型例において、視診だけで診断を確定することが難しい場合は検査が有用です。
- Toyama, N., et al.:J Med Virol, 81(12):2053-2058(2009)
- 石川 博康 ほか. :日皮会誌,113(8):1229-1239(2003)
- 国立感染症研究所:IASR, 34:298-300(2013)
- Shiraki, K., et al.:Open Forum Infect Dis, 4(1), ofx007(2017)
- 新村 眞人. :感染・炎症・免疫, 31:295-303(2001)
- 新村 眞人 監修, 本田 まりこ 総編集:帯状疱疹・水痘 予防時代の診療戦略, Medical Tribune, :32-47(2016)
- ファムビル錠使用成績調査