皮脂欠乏症の主な原因:糖尿病
- 監修:
-
- 東京女子医科大学 名誉教授 川島 眞 先生
乾燥が起きる機序
糖尿病患者の場合、高血糖による脱水症状や自律神経障害による汗腺活動の低下により、皮膚の乾燥が発生します。乾燥に伴って皮膚バリア機能が低下するため、細菌などの侵入に対する抵抗性が低下し、皮膚感染症に罹患するリスクが高まります。
糖尿病患者に対しては、乾燥皮膚を治療し、皮膚バリア機能を高めることが皮膚感染症リスクの軽減につながる可能性があります。
高血糖による脱水症状
自律神経障害による汗腺の活動の低下
皮膚の乾燥
皮膚バリア機能の低下
皮膚感染症のリスクが高まる
糖尿病患者の血糖値と角層水分量との関連性についての検討結果が報告されています。
日本人糖尿病患者49例を対象に、額部皮脂量、前腕と下肢の角層水分量および経表皮水分蒸散量(TEWL)*を測定しました。空腹時血糖値を指標とした際に、高血糖群(>110mg/dL)と低血糖群(<110mg/dL)ではTEWLに差は認められませんでしたが、高血糖群において前腕と下肢の角層水分量および額部皮脂量の有意な低下が認められました(角層水分量:p<0.05、額部皮脂量:p<0.05、いずれもt検定)。
これらの結果から、糖尿病患者の角層ではTEWLは正常ですが、角層水分量の減少および皮脂腺の活動低下が生じることが示唆されました。
*経表皮水分蒸散量(Transepidermal water loss:TEWL):
皮膚から蒸散する水分量であり、角層バリア機能の指標である。TEWLが高いほど皮膚バリア機能が低下していると考えられる。
試験概要
- 対象
- 日本人糖尿病患者49例(10歳~79歳)(男性19例、女性30例)(1型:11例、2型:38例)
- 方法
- 角層水分量はSkicon-200を用いて測定した(値は5回の平均値を用いた)。
皮脂量はsebumeterで測定した。 - 解析計画
- 高血糖群(FPG>110mg/dL)と低血糖群(FPG<110mg/dL)の各部位におけるTEWLの統計学的比較にはt検定を用いた。
結果


前腕屈側部 | 下肢伸筋部 | |
---|---|---|
空腹時血糖値 < 110mg/dL(n=15) | 4.7 ± 3.9 | 3.2 ± 1.9 |
空腹時血糖値 > 110mg/dL(n=34) | 3.9 ± 2.1 | 3.8 ± 2.6 |
P値 | 0.346 | 0.455 |
Sakai S et al.:Br J Dermatol, 153(2), 319-323, 2005 より一部改変
特徴的な症状・疫学
主な皮膚症状としては、足白癬、爪白癬、鶏眼・胼胝、皮脂欠乏症がみられ、皮脂欠乏症は37.8%認められました。
- 対象
- 1年間に内分泌代謝内科に入院した糖尿病患者267例(男性158例、女性109例)
平均年齢:58歳(男性15~86歳、女性19~80歳)、糖尿病歴:平均13.2年、入院時HbA1c平均値:9.13% - 方法
- 皮膚科医が週1回病棟往診時に自覚症状の有無に関わらず皮膚症状を全て観察し記載した。
直接デルマドローム | 人数 (%) |
間接デルマドローム | 人数 (%) |
その他 | 人数 (%) |
---|---|---|---|---|---|
糖尿病性顔面潮紅 | 53 (19.9) |
足白癬 | 198 (74.2) |
ナイロンタオル皮膚炎 | 9 (3.4) |
限局性多汗症 | 52 (19.5) |
爪白癬 | 130 (48.7) |
粉瘤, うっ滞性皮膚炎, 慢性色素性紫斑, ヘバーデン結節 | 各3 (1.1) |
柑皮症 | 36 (13.5) |
鶏眼・胼胝 | 121 (45.3) |
皮膚線維腫, 熱傷, 爪甲色素線条, 下腿静脈瘤 | 各2 (0.7) |
アクロチアノーゼ | 25 (9.4) |
皮脂欠乏症 | 101 (37.8) |
その他(24疾患) | 各1 (0.4) |
手掌紅斑 | 23 (8.6) |
掌蹠色素斑 | 43 (16.1) |
||
デュブイトラン拘縮 | 17 (6.4) |
手白癬 | 19 (7.1) |
||
前脛骨部色素斑 | 6 (2.3) |
しわ状舌 | 17 (6.4) |
||
糖尿病性浮腫性硬化症 | 5 (1.9) |
カンジダ症 | 14 (5.2) |
||
糖尿病性皮膚潰瘍 | 5 (1.9) |
毛孔性角化症 | 9 (3.4) |
||
穿孔性皮膚症 | 1 (0.4) |
細菌感染症(せつ:5, ざ瘡:2,蜂窩織炎:1, 慢性膿皮症:1) | 9 (3.4) |
||
ウイルス感染症(帯状疱疹:2,単純疱疹:2, 尋常性疣贅:2) | 6 (2.2) |
||||
地図状舌 | 6 (2.2) |
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赤い平らな舌 | 5 (1.9) |
||||
偽性黒色表皮腫 | 4 (1.5) |
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軟線維腫 | 4 (1.5) |
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皮膚そう痒症, 陥入爪, 癜風 | 各3 (1.1) |
||||
口角炎, 爪囲紅斑, 爪上皮延長 | 各2 (0.7) |
新井 達 ら:日皮会誌, 119 (12), 2359-2364, 2009
糖尿病患者の保湿スキンケア
糖尿病足病変のフットケア
足底部の皮膚は無毛で皮脂腺がなく、エクリン汗腺が多く開口しています。糖尿病患者は自律神経障害による足の発汗量低下が認められます。その一方で、角層が厚く、皮膚が浸軟すると皮膚バリア機能が低下し、真菌など外部の微生物などの侵入が容易になり、感染から足病変の発症や重症化を招きやすい状態となります。特に足趾間は密着し浸軟しやすい部位であるため、足白癬などを生じやすくなります1)。
このような糖尿病足病変は疼痛を伴うことが少なく、発見が遅れて重症化することが多いため、早期から危険因子を把握し、ケアを行うことが重要です2)。
- 大浦 紀彦:下肢救済のための創傷治療とケア, 照林社, 2011
- 菊池 美智子:看護技術, 61(5), 467-480, 2015-4増
フットケアの方法(清潔・保湿)3)
・足を清潔にする
入浴または足浴をして角質を軟らかくする。
入浴等が困難な場合は蒸しタオルで足を包むようにしてもよい。

・角化ケアを行う
角質が肥厚し、角化している場合はやすりを用いてなめらかになる程度に角質を削る。
やすりを往復させると削りすぎてしまうことがあるため、上から下へ一定方向に擦る。

・保湿剤を足全体に塗布する
保湿剤を手に取り、足底に点在させてから足全体に塗り広げる。
指先だけでなく手のひら全体を使って塗布する。

- 酒井 宏子:糖尿病ケア 春季増刊, 218-220, 2015
患者自身が行うフットケアの指導項目†
足の保清とスキンケア、爪のケアなど、患者自身が行えるフットケアを指導します。
必要な項目は患者によって異なります。
足趾間まで毎日よく見る | 皮膚乾燥を避ける |
視力障害があれば他の人が見る | 靴下は毎日替える |
足趾までよく洗って乾かす | シームレスの靴下がよい |
洗う湯は37℃以下とする | 爪はストレートにカットする |
裸足で外出しない | 胼胝は自身で削らない |
胼胝を薬で自己処置しない | 定期的に医師・看護師の診察を受ける |
靴の中の異物確認する | 足に異常が出たらスタッフにすぐ連絡する |
視力低下があれば自身で爪を切らない |
†西田 壽代監修:日本フットケア学会編:はじめよう!フットケア, 第3版, 日本看護協会出版会, 2013