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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:薬剤師が乗り越えるべき3つの恐怖


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

薬剤師は、対物から対人へ、外来だけでなく在宅も、医療用医薬品だけでなくOTC薬も..。ここ数年、そんな話が薬剤師業界ではよく言われてきました。当初は、そんなこともあるのかな?程度に思われてきた方も、服用後のフォローと医師へのフィードバックを薬剤師の取り組むべき業務として明記した『医薬品医療機器等法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)』の令和元年(2019年)改定や、地域における在宅医療ニーズの高まり、さらには、あの薬も!?というようなものもスイッチOTC化されていく現状をみれば、そろそろ取り組まなくてはならないかもと感じられているのではないでしょうか。
しかし、服用後のフォローを患者さんに持ちかけても「結構です」と言われたり、医師へのフィードバックとしてトレーシングレポートを書いて送付してもなしのつぶてだったり、風邪症状の患者さんにOTC薬の販売をしようとしてもなかなか買ってもらえなかったりと、心が折れそうになることも少なくないかも知れません。
その一方で、時代の変化を感じて少しずつでも変わっていく薬剤師も私の周りには、ちらほらいらっしゃいます。そういった薬剤師に共通しているのは、薬剤師が変化しようとしたときに感じがちな3つの恐怖を乗り越えていることです。今回は、「薬剤師3.0」を実現するために、乗り越えるべき3つの恐怖について解説します。

失敗することへの恐怖

今までやってこなかったことをするときに、最初から完璧にできることなどありません。これは仕事に限らず、自転車に乗れるようになるためには、何度も失敗して、ときには膝小僧をすりむきながら挑戦することで、乗れるようになってきたはずです。
薬剤師が取り組むべきとされる新しい業務も同様だと思います。服用後のフォローやそこでの薬学的アセスメント、さらには医師へのフィードバックといったことも、最初は受け入れられなかったり、間違っていたりということがあるでしょう。在宅業務についても、少し受け入れ人数が増えると過労が重なってしまったり、経費がかさんで採算が合わなかったりすることもあるでしょう。セルフメディケーションにしても、販売後のフォローアップとして電話をしたら、「忙しいのに..」と冷たくあしらわれることもあるでしょう。こういった失敗が怖くて全く動けないという方もいらっしゃれば、一度の失敗をずっと引きずってしまっている薬剤師もいらっしゃるように思います。
「転けたら立ちなはれ。立ったら歩きなはれ。」と言うのは、今のパナソニックを創業した松下幸之助さんの言葉ですが、まさにその通りで、失敗したら、やり方を工夫してもう一度やってみたらよいのです。それは、自転車に乗れるようになったプロセスと同じかもしれません。転けることを恐れて、自転車にまたがらなければ、一生、自転車に乗ることはできないように、まずは、アクションを起こして、失敗をすることを変化への第一歩と捉えると、勇気が湧いてくるのではないでしょうか。

怒られることへの恐怖

次に出てくるのは、医師や患者さん、患者さんの家族から、怒られることへの恐怖です。誰しも、怒られるということは嫌なものです。医師へ疑義照会して、怒られた(ような気持ちになった)という方も多いのではないでしょうか。また、OTC薬を買われた患者さんにフォローアップの電話をしたら、勧めた薬が効果的でなくお叱りをいただくこともあるでしょう。「あんなに怒られるのは、二度とゴメンだ」と思う気持ちも分からなくはないですが、ここで止まってしまうと、薬剤師としての在り方を変えることは難しくなります。
仕事において、怒られることは普通にあります。自分に非があると実感することもあれば、何かの誤解や行き違いがあって、理不尽な怒られ方をすることすらあります。そんなときにも、どんなに怒られようと命を取られることはないのですから、「わぁ、めちゃくちゃ怒られてる」と心の中でつぶやきながら少し距離を置いてみればよいのです。また、当然のことながら、誰しも怒られたくないですが、怒られることを毛嫌いするのではなく、なぜ怒られたのか、誤解を事前に解く方法はなかったのかなどを、自分で考え、掘り下げていくことによって、自分の課題に気が付き、それらを改善していくことにより、怒られなくなっていき、結果的に自分の成長につなげることができます。

周囲から浮くことへの恐怖

薬局の同僚が対物業務に専念しているときに、自分の業務は、服用後のフォローや医師へのフィードバックにシフトしていたり、外来患者への調剤業務が9割9分を占める薬局内で、在宅業務や医師への訪問診療同行などを熱心に行っていたり、はたまた、処方箋調剤業務がほとんどの薬局で、OTC薬を活用したセルフメディケーション業務に取り組んでいたりすると、間違いなく、周囲から自分が浮いていると感じることになるでしょう。特に、これは業務だけではなく、バイタルサインの手技や薬学の基本的知識をブラッシュアップしたり、トレーシングレポートの書き方を学んだり、訪問診療同行時の医師とのコミュニケーション能力を磨いたり、セルフメディケーションには欠かせない臨床判断能力を身につけたりしようとすると、薬剤師としてのブラッシュアップのため、さまざまな研修や学習が必要となり、日常の時間の使い方なども大きく変わってきます。そうなると、周囲から浮いてしまうこともあります。もともと、日本は同調圧力の風潮が強い国だとは思いますが、この恐怖を乗り越えることも大切です。
2009年から、私は「薬剤師のためのバイタルサイン講習会」を開始しました。当時は、「薬剤師は人の身体に触れてはならない」という「都市伝説」が、まだまだ広く固く信じられていたころです。バイタルサイン講習会の冒頭に、私が「この講習会に参加される方には、共通点があります」と前置きして「それは、各職場で浮いている人です」と言うと、皆さんから、どっと笑い声が起りました。やはり、当時の参加者の方は、自分が浮いていることを認識しつつも、恐れすぎることなく、意識的にそれを乗り越えていたのでしょう。また、講習会後の懇親会で「先生、浮いている人が半数を超えたら、残りは沈んでいる人になるのではないのでしょうか!?」とお話しされた方がいらして、まさにその通り!と、膝を打った思い出もあります。
浮いているというのは、ある意味、時代を先取りしていることでもあります。正しい方向性を理解し、来るべき時代を見誤らないようにしていけば、浮いているという感覚は、恐怖という感覚にはならずに、乗り越えやすくなるのではと思います。

おわりに(

薬剤師としてのあり方を変える。一口に言っても、なかなか大変です。ただ、よく考えてみれば、私たちは起きている時間の少なくとも半分は職場で働いています。職場を離れても仕事のことをつらつらと考えることもあるでしょうから、いうなれば寝ている時間以外の大半は、職業人としての人生を生きているのだと思います。つまり、「薬剤師3.0」という今までと異なる薬剤師像に変わっていくというのは、実は、生き方そのものを変えるということと、それほど変わらないのではないでしょうか。逆に言うと、それほど簡単なことではないということです。それぐらいの大きなテーマに取り組むことを認識した上で、今回お話しした3つの恐怖を乗り越えていくことで、きっと、新たな視界が広がるのではないかと思います。

図. 乗り越えるべき3つの恐怖
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図. 乗り越えるべき3つの恐怖

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