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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:薬剤師に必要なのは「任せる力」


    • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

    はじめに

    薬を患者さんに渡すだけでなく服用後のフォローまで、外来だけでなく在宅も、処方箋調剤だけでなくセルフメディケーションも…。この7~8年で薬剤師に求められる仕事の範囲は非常に大きくなってきました。その一方で、高齢化が進み、医薬分業率が上昇し、スイッチOTCも拡大していく中で、薬剤師がきちんと対応しなくてはならない顧客数は増えているはずです。もちろん、薬局薬剤師の人数も増加していますが、薬局数も増加しています。この数年は、ドラッグストアが調剤部門を併設するケースが急速に増えてきたため、各店舗あたりの薬剤師数が増えているとは考えづらく、慢性的な人手不足は今も続いているのが現状です。
    仕事は多くあり、これから対応すべき分野も多く用意されているにもかかわらず(ありがたい話です!)、結局は労働力が足りなくなってしまう。こんな状態では「薬剤師3.0」なんて夢のまた夢になってしまいます。今回は、そんな状況を打破するためのポイントを考えたいと思います。

    まずやらないといけないこと

    外来患者さんの調剤に忙しく、服用後のフォロー、在宅やOTCに取り組む時間などないという薬剤師の方は意外に多いのではないでしょうか。そんな時に普通に出てくる解決策は「もっと薬剤師数を増やして欲しい」ということですが、業界全体が人手不足という理由だけでなく、採算性を考えてもそれは現実的ではありません。そしてどうなるかというと、「結局、この状態でやるしかない」となってしまい、問題は解決せず、先送りになってしまいます。
    そんな時にまずやらないといけないことは、今ある業務フローを見直して整理することです。毎日、忙しく働いている中で、ある程度の時間が経過すると、「ここはいつも二度手間になってしまう」とか、「ここはもっとこうすると良いのに」とか、「これって、そもそもどうしてやっているのだろう」といった疑問を持ちながら仕事をしているケースがあると思います。業務に忙しい中ですが、少し時間を取って、今ある業務を全て書き出し、要るもの、要らないもの、重複しているものを整理します。それと同時に、機械化やICT化をできるだけ進めます。あまり大きな費用をかけなくても導入できる機械やICTの仕組みは意外にあるものです。まずは、それを取り入れるだけでも、業務に余裕が出てくることがあり、結果的に新しい業務に取り組んだり、それに向けた研修を受講できるようになります。

    「業務的には重要だが薬学的専門性がない」仕事を人に任せる

    さらにこの工夫を前進させるのが「業務的には重要だが薬学的専門性がない」仕事を、薬剤師以外の人に任せることです。といっても、いきなり「ピッキングか!?」などと考える必要はありません。私はまず手を付けるのは、「お金に関する部分」だと思います。例えば、医薬品の発注や在庫管理などが代表でしょうか。これらは資金繰りや利益率など経営の根幹に関わってくる部分ですが、薬学的な専門性はありません。発注点を理論値で設定するというのは、ずいぶん昔からありました。今後、人工知能(AI)が発達していくと正解データを覚えさせていけば、かなり正確に発注業務を自動化していくこともできるでしょう。また、すでにそういったサービスも市販されています。「すごく大事なことだから、これは自分でやらないと!」と思ってコツコツ取り組んでいる薬剤師はいらっしゃるのではないでしょうか。
    また、平成31年(2019年)4月2日に厚生労働省から出された「調剤業務のあり方について」と題する通知(いわゆる0402通知)では、「調剤業務」とされてきた業務の中で、1)薬剤師の目が届く範囲である、2)医薬品の品質に変化が及ばないことが予想される、3)判断を差し挟む余地がない、という3つの要件を満たす業務については、薬剤師でない者が行っても差し支えないということです。医薬品の取り揃え業務や、服薬指導が済んだあとの医薬品の配達業務などがその例として示されています。
    これらが少しずつ進んでいくと、薬剤師が対物業務から対人業務にシフトすることが可能になり、昨今の法律や制度の変化にも対応することができるようになるはずです。

    自分の仕事を人に任せるためのポイント

    私が見聞する限りではありますが、薬剤師は、この人に任せるということができづらいように思います。そこには3つの理由があると感じています(図)。

    図. 仕事を人に任せるためのポイント
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    図. 仕事を人に任せるためのポイント

    1つ目は、薬剤師が行ってきた業務が「暗黙知」の状態で留まっていて、人に任せるといってもどこからどこまでを任せられるのかがはっきりしていないことです。ピッキングや昨今の調剤の一部外部委託の議論もそうですが、業務フローと指示出し・確認のプロセスを明文化していなければ、任せることはできませんし、その認識のままで人に任せていくと、薬剤師自身の存在意義すら薄くなるように感じてしまいます。
    2つ目は、自分がやってきた仕事を任せる人材を教育することです。在庫管理にせよ、店舗の損益計算にせよ、レセプト周りの仕事にせよ、それ相応の知識や技能を身につけてもらわなければ、任された方も不安でたまらないでしょう。また、良い結果にもつながらず、さまざまな部署や患者さんに迷惑をかけてしまうことになるでしょう。
    ちなみに、これら2つの内容は、先の0402通知において、業務の内容や薬剤師による指示や確認などのステップを詳細に手順書として作成することに加え、そういった業務に従事するスタッフには研修を実施することも条件として示していることと合致しています。
    3つ目は、「自分がやった方が早い問題」を解決しておくことです。医薬品の取り揃えにせよ、在庫管理にせよ、人に任せるためには、教えるための手間も時間もかかります。教わった人ができるようになったとしても、特に最初のころは自分がやるよりも時間がかかるでしょうし、ミスも出てしまうでしょう。この「自分がやった方が早い問題」を解決するには、生産性が一時的に低下することを我慢することと、ある程度の不手際やミスがあってもリカバリーできる実力を身につけておく必要があります。これは一日二日で済む問題ではありませんが、1年も2年もかかるものではありません。いわば一時的な辛抱をしてでも、問題を根本的に解決するという覚悟を決める必要があると思います。

    おわりに

    よく考えてみると、6年制教育で育成する医療専門職には、医師、歯科医師、薬剤師、獣医師とありますが、医師には看護師がいますし、歯科医師には歯科衛生士がいます。また、令和4年(2022年)5月1日に愛玩動物看護師法が施行され、令和5年(2023年)2月には第1回愛玩動物看護師国家試験が実施され、獣医師には愛玩動物看護師ができました。これは、いずれも医師や歯科医師、獣医師が「自分でしかできない業務に専念することで、より良い医療を提供する」という目的のために、色々な仕事を任せる人材を教育してきた結果なのだと思います。
    薬剤師の専門性は、薬の服用後をみた時に頭にひらめく薬学的アセスメントがあり、それを医師にフィードバックすることで治療の質はより良くなっていくのです。「薬剤師が薬剤師でしかできない業務に専念することで、より良い医療を提供する」社会を実現するためには、薬剤師が「任せる力」を意識し、身につけ、実践していくことが大切なのではないかと思います。

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