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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:今こそ、「調剤薬局」からの脱却を!


    • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

    はじめに

    「調剤薬局」という枠組みは、この国の医薬分業の進展を支えてきた極めて重要なあり方でした。しかし、6万軒を超え18万人あまりの薬剤師が活動するようになった我が国の薬局が、医療機関に近接して立地し、処方箋に準じて薬を調製し、お渡しするという業務にのみ専念する現状は、日本の医療全体にとっても、患者さんにとっても、そして薬剤師や薬局関係者にとってもベストとは言えません。しかし、今も、大多数の薬局は「調剤薬局」であり、薬剤師の業務も極めて限定的であり、結果的にポリファーマシーという大きな問題に、国民は直面しています。
    新型コロナウイルス感染症が社会を変え、医療のあり方や枠組みを変えつつある中で、今こそ、「調剤薬局」から脱却することが重要だと考えられます。そこで、本稿ではそのポイントを整理してお伝えしたいと思います。

    なぜ、脱却できずにきたのか

    「調剤薬局」や薬剤師のあり方については、6年制教育への移行議論が白熱していた21世紀初頭のころから、しばしば課題が指摘されるようになっていたように記憶しています。調剤報酬制度においても、薬剤師が手を動かす業務だけではなく、薬学的な専門知識を使って「インテリジェンスフィー」として設定された調剤報酬の項目を算定することが推奨されるような風潮になっていったと思います。しかし、それらは調剤報酬の中で決して大きな比率を占めていた訳ではありませんでした。その後、これは今でいう対人業務を担うべく教育された6年制教育を受けた薬剤師が社会に出た後も、基本的には同じで、「調剤薬局」というビジネスモデルが揺らぐことはありませんでした。
    ただ、やはり教育とは怖いもので、高い専門性を持った薬剤師が現場に増えていくにしたがって、今でいう服用後のフォローや、そこでの薬学的なアセスメント、そして必要に応じた医師へのフィードバックなどが薬剤師の取り組むべき業務ではないか、という風潮が少しずつ高まっていきました。しかし、そのような業務に取り組むためには、薬剤師がいわゆる「対物業務」に忙殺される状況を変える必要があります。「調剤は薬剤師のみが行う」ということを定めた薬剤師法第19条の存在と、変わることへの漠然とした不安、さらには、厳しくはなってきたものの「対物業務」に専念しつつ、スケールメリットを活かした経営の効率化を図ることで採算性を担保することができていたため、世の中の「調剤薬局」はそのモデルから脱却できずにきたのではないかと考えています。

    新型コロナウイルス感染症が状況を一変させた

    この膠着状態ともいうべき状況を一変させたのは新型コロナウイルス感染症の感染拡大による、患者さんの受療行動の変化です。医療機関の待合室は、いわば「三密」の代表的な場所とも見えなくもないですし、そもそも体調が悪い方も集まるわけですから、新型コロナウイルスに感染した方がいらっしゃるかも知れない・・・。そのような感覚は当然強くなりますので、いわゆる受診控えが起こり、結果的に薬局に人が訪れなくなりました。
    しかし、薬がなくてはいけませんから、特例的・時限的処置としての電話診療が緩和され、医療機関に行かずとも、電話で医師の診察が受けられ、患者さんが指定する薬局に医療機関からFAXを送信すれば、調剤を受けられることが可能になりました。この現状の結果でも特に大きな問題や事件が起こらなかったこともあってか、2021年の内閣府の規制改革推進会議や厚生労働省の会議でも、オンライン診療を初診からでも可能にするための議論が行われました。白熱した議論はありましたが、ほぼほぼ全面的な解禁となり、同時に診療報酬も対面の診療と遜色ないものとなりました。
    診療がオンライン化される議論の裏で、オンラインの服薬指導についても検討された結果、服薬指導を対面に限らず行えることが認められ、調剤報酬上も、ほぼ同等の点数が設定されることになりました。その結果、自宅→医療機関→薬局→自宅という患者さんの受療行動が根本から崩れることになり、薬局のビジネスモデルを大きく見直す必要が結果的に出てきたのが、2021年後半から2022年にかけてです。そして、2022年には、調剤報酬制度が大きく変わっただけでなく、リフィル処方箋、オンライン資格確認、マイナ保険証、電子処方箋などが一気に進んだだけでなく、新型コロナウイルス感染症の医療用抗原定性検査キットのOTC化、さらには、インフルエンザとの同時検査キットのOTC化など新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響がなければ変わらなかったということがたくさんあることに気が付きます。まさに、脱却のタイミングは、今なのだと思います。

    「調剤薬局」から脱却するための3つのステップ

    私自身が、新型コロナウイルス感染症の感染拡大よりもずいぶん前ではありますが、今から10年ぐらい前に、「調剤薬局」からの脱却に取り組みました。その際の経験も踏まえて、脱却するための3つのステップをお示ししておきたいと思います。

    ①社長の宣言が大切:本稿をお読みの方は、スタッフとして現場で活躍されている方が多いと思いますが、「調剤薬局」からの脱却とは、単なる業務改善ではなく、ビジネスモデルの大変革です。社長の気持ちやビジョンが変わらなければ、途中で挫折してしまいます。

    ②業務の整理と機械化・ICT化:令和4年(2022年)度の調剤報酬制度では、薬を棚から取り出す前に患者さんと処方の内容だけでなく、オンライン資格確認によって得られた多くの情報をもとに問診をする「調剤管理」を行った後、医薬品の取り揃えという「薬剤調製」を行 い、さらに服用後のフォロー、アセスメント、フィードバックを行う「服薬管理指導」をするという手順を行うことになります()。従来とはかなり違った業務フローになりますし、昨今の機械化やICT化を活用して、省力化や効率化と安全性を担保していく必要があります。

    ③非薬剤師の教育と投入:薬剤師がいわゆる対人業務を行うためには、②を通じて浮かび上がってくる「業務的には重要だが薬学的専門性がない」業務を担う人材を育成し、現場で薬剤師と協働していく仕組み作りが欠かせません。平成31年(2019年)4月2日に厚生労働省から出されたいわゆる『0402通知:調剤業務のあり方について』をしっかり読み込んで対応していくことが必要です。

    これら3つのステップを踏んでいけば、薬剤師の業務は服用後、在宅、そしてセルフメディケーションへと広げていくことができ、結果的に「調剤薬局」から脱却することができるようになるはずです。

    図. 薬局での調剤業務の流れについて(令和4年改定)
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    図. 薬局での調剤業務の流れについて(令和4年改定)

    おわりに

    「いつか、変わらないとダメだと思ってはいるんですよね・・・」という声を耳にすることは少なくありませんが、実際に変えることはやはり簡単ではありません。しかし、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響もあり、2021年度の薬局の倒産は、件数、負債総額ともに過去最大になったとか、保険薬局の4割は赤字に転落したとも報道されています。「とはいうものの・・・」と躊躇していると、結果的に大きな損失を被ってしまう事態になることは、やはり避けたいものです。だとすれば、やはり、「調剤薬局」からの脱却を決断し行動し始めるのは、今なのではないかと思います。

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