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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:厚生労働省の考える対人業務の充実と対物業務の効率化


    • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

    はじめに

    令和4年(2022年)2月から7回の議論を経て、同年7月に、厚生労働省「薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ」のとりまとめが公表されました。「薬剤師が地域で活躍するためのアクションプラン」という副題のついたとりまとめは、単なる議事録的なものではなく、色々な議論を一旦は整理して、2015年に出された「患者のための薬局ビジョン」の具現化に向けたロードマップ的な感じでまとめられています。本連載でのテーマである「薬剤師3.0」実現のヒントもちりばめられていると思いますので、今回は、そのポイントをまとめておきたいと思います。

    基本的な考え方

    薬局や薬剤師がどうあるべきかといった議論は、10年ぐらい前からしばしば耳にするようになってきた気がします。その中で、「門前薬局」と呼ばれる、医療機関に近接して出店し、その医療機関を受診した患者さんが持ち込んだ処方箋を応需し薬を調剤してお渡しするという形態では、高齢化が進む地域医療を支えきれないのではないか、という考え方が固まってきたように思います。
    また、薬学教育が6年制に移行し、臨床現場で多職種と連携しながら患者さんの治療に薬物治療の専門家として参画するという概念のもと教育されてきた薬剤師にとっても、この「調剤薬局」のあり方は満足できるとはいいがたくなってきたのではないかと思います。
    さらに、レセプト作業は当然として、薬歴の電子化も進み、行政からもオンライン資格確認、電子処方箋とICT化の波が一気に押し寄せてきたように感じます。これらの状況も考慮されたと思いますが、これからの薬局、薬剤師に関する基本的な考え方としては、以下の3つが挙げられました()。

    表. 薬局薬剤師ワーキンググループのとりまとめ概要
    記事/インライン画像
    表. 薬局薬剤師ワーキンググループのとりまとめ概要

    引用:(令和4年度診療報酬改定の概要【全体概要版】令和4年3月4日版):
    https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906904.pdf

    対人業務の更なる充実:あぁ、またか、と感じてしまうような文言ですが、処方箋受付時以外、つまり、服用後のフォローを行ったときの対人業務の充実が必要だと指摘されています。また、対物業務だけでなく、対人業務以外のさまざまな薬局業務の効率化は不可欠だとも明記されたのが特徴です。

    ICT化への対応:薬歴や処方箋が電子化されたり、オンライン資格確認により患者さんが受けてきた治療内容を知ることができたりする時代に、それらを単に運用するだけではなく、どのように活用していくのかが求められています。これらのシステムを用いることで薬局内の業務や薬剤師の働き方は大きく変わるはずですが、それは薬局薬剤師のDX(デジタルトランスフォーメーション)そのものといえるでしょう。

    地域における役割:「門前薬局」はともすると、隣接する医療機関と開局時間を合わせているケースも多く、在宅への関わりについても最近でこそ少し増えましたが、多いとはいえないのではないでしょうか。また健康教室や地域活動についても、調剤報酬上の要件をクリアする程度で、手段が目的化しているケースも少なくないのが現状のように感じます。今回は地域の中で薬剤師が提供すべきサービスを地域の薬局全体で提供していくことが必要と明記されました。

    これらの基本的な考え方のもとで、4つの具体的な対策(アクションプラン)が示されていますが、今回は対人業務の充実と対物業務の効率化という2つの点を中心にチェックしておきましょう()。

    対人業務の充実

    処方箋を受け付けて薬を調剤し服薬指導とともにお渡しするまでの業務は、この30年間で大きく進歩したと思います。対人業務的な要素がないわけではないですが、その多くは対物業務と分類されるものだったと思います。平成26年(2014年)度調剤報酬改定から薬剤服用歴管理指導料の算定要件として、「患者の服薬状況、残薬確認、後発医薬品使用の意向確認等を調剤前に行うこと」とされ、いわゆる「先確認」が薬剤師業務では重要だとされてきました。令和4年(2022年)度調剤報酬改定では「調剤管理料」という新たな項目が設定されましたが、これは、まさに「先確認」の範囲を、服薬状況、残薬、後発医薬品などだけでなく、オンライン資格確認に基づく患者さんのさまざまな情報や患者さんへの問診(ASK)、今回の処方内容が患者さんにとって問題がないか、適切であるかということを分析および特定し(ASSESS)、必要に応じて医師や患者さんなどに情報を伝達(ADVICE)することまで拡げたもので、今回のアクションプランでは「薬剤レビュー」として表現されています。
    その他、「医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」でも、服用後のフォローは薬剤師の業務であることが明記されましたが、そのことが「処方箋受付時以外の」という意味に反映されていると思います。
    さらに、これらの薬剤師の対人業務を、まずは医療計画にもある5疾病(がん、脳卒中、心筋梗塞などの心血管疾患、糖尿病、精神疾患)で行い、日常業務の中では「リフィル処方箋」の運用を通じて実行していくべきだ、というメッセージを読み取るべきだと思います。また、対人業務の充実には、薬剤師の生涯教育や症例検討会などの継続的開催が必要だとも指摘されています。

    対物業務の効率化

    この項目においては、業界メディアでは、どうしても「調剤業務の一部外部委託」と「処方箋の40枚規制」ということが、多少センセーショナルに報じられています。もちろん、今回のワーキンググループでも、私が参考人として参加した回においては、この2つのテーマについて議論が交わされました。この分野に限らず、効率性と安全性は通常相反するものであり、その両立をどうするかは常に議論されますし、そうあるべきです。まずは、「一包化」に限定し「同一の3次医療圏内」で実証実験のようなトライアルをしてはどうかという議論になっていますが、これは今後の議論を待つことになります。
    また、注目すべきは、外部委託と40枚規制だけでなく、いわゆる「0402通知:調剤業務のあり方について(平成31年(2019年)4月2日)」に基づく薬剤師以外の職員の活用についても明記されたことです。私自身も自社で薬剤師が対人業務にシフトするためには、システムや仕組みだけでなく、サポートする人材が必要だと考え「薬局パートナー制度」を試行的に始めていました。現在では、一般社団法人日本在宅薬学会で教育制度を構築し、多くの方に受講していただき、検定試験も受験していただいていますが、このような人材を採用し教育していくことも、薬局の対物業務の効率化には不可欠なものだと実感しています。個人的には、調剤を薬剤師のみが行うことを定めた薬剤師法第19条を遵守しながら、どのようにすれば現場の薬剤師が変われるのかということを試行錯誤してきた中で始めていたことが、「薬剤師以外の職員の活用」という表現でアクションプランに明記されたことは、感慨深いものがあります。

    おわりに

    その他、薬局薬剤師DXや地域における薬剤師の役割についても、議論を踏まえた上でとりまとめられています。副題にあるアクションプランというのは、通常、期限を決めた目標があり、そこに到達するために、時系列にクリアするべき項目が明記されており、常にPDCA(plan-do-check-act)サイクルを回しながら適宜修正したり工夫したりしていくイメージです。2025年の地域包括ケアシステムの実現に向けて、いよいよ薬局、薬剤師は変わるのだ!という厚生労働省の意気込みを感じるためにもぜひ、ご一読いただきたいと思います。

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