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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:対物業務の効率化の次にすべきこと


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

薬剤師は薬を渡すまでではなく、服用後までフォローする。そして、自分が調剤した内容と患者さんの状態とをアセスメント(=何がおこっているのかを評価)し、その内容を医師にフィードバックすることは、医薬品の適正使用、医療安全の確保の観点からも重要なことだと考えてきました。当初は、少なからず違和感を訴えられる薬剤師もいらっしゃったのですが、令和2年度(2020年)施行の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」や「薬剤師法」でも薬剤師の業務として定められ、令和4年度(2022年)の調剤報酬改定では、薬剤師のこれらの業務が「服薬管理指導料」として評価されるようになりました(図1)。
この数年、色々な場面で言われてきた「対物中心から対人中心」へのシフトということは、薬剤師の仕事が薬という「モノ」を渡すまでの業務から患者さんという「ヒト」を良くするまでの業務へ重心を移していくことが求められているということです。
そのために薬剤師以外の人材を積極的に活用し、現場に投入することが大切であると前回の本連載でご説明しました。それはそれで一定の成果が上がったとして、前述の「フォロー・アセスメント・フィードバック」を行うために薬剤師が押さえておきたいポイントをご説明したいと思います。

図1. 薬局・薬剤師業務の評価体系の見直し
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図1. 薬局・薬剤師業務の評価体系の見直し

引用:(令和4年度診療報酬改定の概要【全体概要版】令和4年3月4日版):
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/000906904.pdf

フォローするために必要なこと

薬剤師が服用後のフォローをする、といったときに、戸惑いの声を聞くことがありますが、シンプルに考えればよいと思います。
まず1つ目は、調剤して渡した薬を、きちんと医師の指示通りに服用・使用できているかどうかのチェックです。いわゆるコンプライアンスやアドヒアランスが保たれているかを確認することは、当然といえば当然のことですよね。
2つ目は、期待される効果が出ているかどうかをチェックすることです。降圧薬であれば血圧はちゃんとコントロールされているか、利尿薬であれば下肢の浮腫は軽減したり体重も減少したりしているか、抗生物質であれば解熱しているか、消炎鎮痛薬であれば痛みは治まっているか。一瞬難しそうに感じられるかもしれませんが、そもそも、薬剤師が調剤する際には、一つひとつの薬が一体どういう疾病に対して、どういう目的で処方されているかをチェックし、その内容を理解されているはずですから、それを確認すればよいわけです。
3つ目は、調剤した薬剤から想定される副作用が出ていないかどうかをチェックすることです。消炎鎮痛薬の場合には、消化器症状や腎障害の可能性はあり得ますし、抗ヒスタミン薬や抗コリン薬には口渇の症状が強くでる可能性もあります。いわば、薬剤師が服薬指導を行う際に、「〇〇がおこる可能性があるので、注意してください」と説明している内容を、自分自身でチェックするわけです。
これらコンプライアンス・アドヒアランスのチェック、効果の確認、副作用の有無のチェックという3つを行うためには、問診や薬剤師によるチェックが必要ですが、血圧や気管支拡張薬、抗不整脈薬などを考えれば、やはり薬剤師によるバイタルサインチェックは欠かせません。6年制の薬学教育カリキュラムで教わったという方も多いと思いますし、昨今では薬剤師会や大学の同窓会主催の研修会も開催されています。私も「一般社団法人日本在宅薬学会」で「薬剤師のためのバイタルサイン講習会」を、2009年11月から開催していますが、そういった機会を捉えて勉強し、実践してみることをお勧めします。

アセスメントするために必要なこと

一方、薬剤師が服用後のフォローによって得られた情報と、その方に処方されている薬の内容とを照らし合わせて、何がおこっているのかを評価することが大切です。具体的には、効果や副作用の有無を考えるのですが、そのためには処方されている(=薬剤師が処方監査を行った上で調剤した)薬で、その患者さんの状況が説明できるかどうかを考えるということです。
例えば、効果についてですが、もし効果が出ていれば「それは納得です、よしよし」となるのですが、もし効果が出ていない場合は、服薬コンプライアンスが低下している、つまり薬を服用していないことが分かれば、それは当然であるということになります。また、通常よりも多い分量を間違って服用していることが分かった場合には、血圧の下がりすぎや下痢などの症状も、当然の結果であると考えることができます。
さらに、副作用についてですが、これは前述のごとく服薬指導の際に伝えられてきたことを自分でチェックすると考えるとイメージしやすいかもしれません。これを自分でチェックできるとなると、服薬指導の際に、いうなれば「怖い話」を一杯しなくても良いかもしれません。例えば、スタチン製剤が処方された方には横紋筋融解症の話をされていると思いますが、電話などで「ふくらはぎが痛かったり、おしっこが赤くなったりしていませんか?」と聞けるとなると、服薬指導の内容も変わるのではないでしょうか。
つまり、服用後に薬剤師が患者さんの状態を知った時に、その状態を薬学的に「謎を解く」ことがアセスメントです。正しく「謎を解く」ためには、薬学的な専門知識、特に薬理学や薬物動態学、製剤学などの知識が不可欠です。卒業したての若手薬剤師であれば、国家試験の時の勉強が役に立つ!という驚きと喜びがあるかもしれませんが、20年近く対物業務に専念してきた薬剤師にとっては、「そんなの、もう忘れたわ…」ということがあるように思います。
そんなときには、是非、大学の同窓会などが主催している「リカレント(=学び直し)セミナー」がお勧めですし、今は、インターネット上でもキーワードを入れれば結構色々なことを調べられることも多いので活用なさってみてください。

フィードバックするために必要なこと

薬剤師が自らフォローして得た情報をもとに、自分の薬学的専門性に基づいて「謎解き」を行っただけでは、患者さんは良くなりません。その薬学的アセスメントを、医師にフィードバックして議論してこそ、処方内容が変わる可能性が出てきます。医師の処方が変わってこそ、患者さんの状態は良くなりますから、非常に重要な部分といえるでしょう。
では、どうやってフィードバックすればよいのでしょうか。私は、緊急の変更が必要な場合を除けば、服薬情報提供書を作成し医師に郵送することをお勧めしています。「そんな手紙を書いても怒られないか」という不安を持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、医師は日々、多くの書類を訪問看護や訪問介護、訪問リハビリの方などからいただいているので、その中に薬剤師の方のレポートがあっても全く問題ありません。ただ注意してほしいのは、やはり「薬剤師ならでは」の視点で書かれたモノの方が医師は受け入れやすいので、薬理学・薬物動態学・製剤学の知識を使った謎解きの内容をしっかり書き込んでいただきたいと思います。最初は見よう見まねでよいので、まず一通書くようにしてください。最初からは上手くいかないかもしれませんが、きっとそのうちに歯車は回り始めるはずです。

おわりに

今回は、薬剤師が充実させるべき対人業務について、お話ししました。昨今、議論が白熱している対物業務の効率化は、薬剤師が対人業務を充実させるための手段であって目的ではありません。それと同時に、薬剤師が対人業務を充実させるのは、ポリファーマシーなどの改善を通じた医薬品の適正使用、医療安全の確保という薬剤師のミッションをクリアするためです。ついつい近視眼的に考えてしまいそうな問題ですが、是非、視野を広く持ち、一体何のために議論しているのかということを忘れずに取り組んでいきたいものですね。

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