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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:「対物中心から対人中心」に感じる3つの不安


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

2015年に厚生労働省から発表された「患者のための薬局ビジョン」でも示されたように、薬剤師の仕事は「対物中心から対人中心」へと、法律上も調剤報酬上も進んでいくことが予想されます。確かにポリファーマシーや残薬問題の改善に薬剤師の専門性が活きるのは理解できても、薬剤師にとっての対物業務は、極めて重要であることから、なかなか進まないのが現状ではないでしょうか。しかし、「薬剤師3.0」を目指すためには、最も重要なポイントになりますので、このジレンマを乗り越えるためのコツをお話ししたいと思います。

「対物中心から対人中心」のインパクトを知る

この「対物中心から対人中心」というのは、薬剤師にとって極めて大きなパラダイムシフトであると認識しておくことが重要だと思います。パラダイムシフトとは、従来まで当然と考えられてきた認識や実態が劇的・革命的に変わることです。
今までも、薬剤師の業務の中でSOAP(Subject、Object、Assessment、Plan)形式で薬歴を書いたり、リスクマネジメントに取り組んだり、疑義照会を行ったり、患者さんへの服薬指導を充実させたりと、いろいろな課題に取り組んでこられたと思います。これらも大変重要ですが、薬剤師が処方箋を応需して、薬を調剤し、お渡しするという一連の業務は、質を向上させるための取り組みです。つまり、基本的な業務のあり方が変わるわけではなく、作業の質や効率性を上げるための「改善」に取り組んだということです。
しかし、「対物中心から対人中心」というのは、薬剤師の業務や医療における薬剤師の位置づけ、ひいては薬局というビジネスモデルのあり方すら大きく変えるものであり、その戸惑いはかなり大きいものになることは想像に難くありません。是非、「対物中心から対人中心」へという課題に取り組むときには、ご自身の考え方や仕事の内容が大きく、劇的に変わることを覚悟して臨まれることをお勧めします。そうでなければ、途中で怖くなったり、戸惑いが大きくなりすぎて、進めることが極めて難しくなってしまいますので、ご注意ください。

「対物中心から対人中心」を進めるときの3つの不安

私が自分自身の薬局の薬剤師やいろいろなところでお目にかかる薬剤師の皆さんのお話を聞いてみると、大きく分けて3つの不安を感じられることが多いようです。
1つ目は、大事な業務を本当に自分から外しても良いのかという不安です。調剤というのは繊細で注意を払う必要のある業務で、調剤を間違ってしまうと、患者さんに重大な健康被害が及びます。だからこそ、薬剤師のみが行える業務であるという、薬剤師法第19条があると言えます。2019年4月2日に「調剤業務のあり方」という「0402通知」が出て、薬剤師以外が取り組める業務について一定の指針が出ましたが、感覚的に怖くて…という方が多いのではないでしょうか。
2つ目は、対人中心と言われても、何をして良いか分からないという不安です。今の業務でも患者さんから情報を聞き取ったり、服薬指導を行ったりしているわけで、これ以上どうするのだという直感的な戸惑いがあるケースは少なくありません。また、「服用後のフォロー」と言われても、薬局を出た後の患者さんの何をフォローするのかが、今ひとつはっきりしないというのも原因のように思います。また、そういった実例もなければ、何を身につければ良いのかも分からず、むやみにフォローして、大変な事態に直面するのも困るという感覚もあるのではないでしょうか。
3つ目は、自分の毎日が大きく変わってしまうかもしれないという漠然とした不安です。特に、ある程度の年数を「調剤薬局」業務に携わってきた薬剤師にとっては、慣れない業務に取り組む際の不安が大きいように思います。また、当然ですが、仕事が生活の全てではなく、ご家庭や子育て、親の介護など考えることが沢山あるなかで、仕事に劇的な変化がおこるのは、生活全体に影響が及ぶのではという漠然とした不安がみられることもあるようです。

3つの不安への対処法(表)

変化がおきるときに不安はつきものですが、今回の3つの不安はどのように解決すれば良いのでしょうか。
まず、1つ目の大事な対物業務から、自分の関与を外してもよいのかという不安については、現在の業務フローの整理と見直しをして「調剤」という業務の中には、一体何があるのかをつまびらかにすることが重要です。その上で、機械化やICT化で進められるものがあれば、これを機会に進めることです。これによって、「業務的には重要だが、薬学的専門性はない」という領域の業務がみえてきます。この部分を、薬剤師は自分の業務から外すと同時に、これらを担当してくれる薬剤師ではない別の人材に任せます。ここで大事なことは、これらの人材をあらかじめ教育しておくことと、その方に個別具体的かつ明確に指示を出せるように手順書を完成しておくことです。実際、先ほど触れた「0402通知」でも、調剤業務の一部を担うことができる人材教育と、業務を明確にした手順書作成が義務づけられています。これらをすることなく、「ここに書いてある通りピッキングしてくれない?」と頼んでも、きちんと調剤できないことも多く、結果的に対物業務が行えない事態に陥ります。是非、これらの準備をしっかりして、不安の解消に努めることが重要です。

2つ目に、対人業務として取り組むことを明確にしておくことです。①きちんと服薬・使用できているかどうか、②期待される効果が出ているかどうか、③予期される副作用がおきていないかをチェックすることが、薬剤師にとっての対人業務への取っ掛かりだと考えています。また、それらの薬学的アセスメントを処方医と共有して、さらに良い薬物治療が行えるようにしていくことも、対人業務の中に入っていると思います。これができるようになるには、患者さんの状態を知るためのバイタルサインの知識や技能、それらの状態と処方内容を結びつけ理解できるようにする薬学的知識を磨いておく必要があります。逆に、これらの知識がきちんとなければ、的確な理解やアドバイスができませんので、潜在的な不安が大きくなってしまいます。
3つ目に、このような新しい業務を行うことで、薬剤師は仕事が忙しくなりすぎたり、薬局では採算性が危うくなったりして、ライフスタイルや経営スタイルが変化します。このため、これらの安定が保てなくなることを回避するための準備を十分にしておくことが重要です。前者については、薬剤師が現在の業務に対人業務を追加して行うのではなく、「患者のための薬局ビジョン」に示された通り、「対物中心から対人中心」へと業務の重心をシフトすることが重要です。そのためにも、先に述べたような「業務的には重要だが、薬学的専門性はない」業務を担う人材を育成し現場に投入する必要があります。そしてこのことは、薬局にとって人件費の増加を抑えつつ、調剤報酬や介護報酬(居宅療養管理指導費)を算定することにつながり、採算性を担保する条件になります。

表. 3つの不安への対処法
記事/インライン画像
3つの不安への対処法

おわりに

このような大きな変化を乗り切るときには、組織や会社のトップがリーダーシップを発揮し、現場と一体感をもって業務変革に取り組むことが重要です。従来は、対物中心に設定されていた調剤報酬も、2022年度以後は「対物中心から対人中心」へとシフトしていくものと思います。今回お示しした3つの不安に、1つずつ丁寧に対処していけば、薬局業界におこるパラダイムシフトを乗り切って「薬剤師3.0」を実現していくことができるはずです。是非、参考にしていただければと思います。

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