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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:「薬剤師3.0」実現のための処方箋(5)


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

講義や講演などの機会をいただいたときに、私はCIPPSという言葉を最近、よく使っています。聞き慣れない言葉だと思いますが、それもそのはず、私が半年ぐらい前に思いついた言葉です。CIPPSとは、COVID-19 Induced Pharmacy Paradigm Shiftの頭文字を合わせたもので、「シップス」と呼んでいます。読んで字のごとく、COVID-19、すなわち新型コロナウイルス感染症によって引き起こされる薬局のパラダイムシフトという意味です。前回もお話ししたように、薬剤師が変わりそうで変わらない、変われそうで変われないという独特の事情を全く無視する形で、新型コロナウイルス感染症は、薬剤師の仕事を変えてしまいつつあるのです。

パラダイムシフトとは

パラダイムシフトとは何でしょう。読んで字のごとくパラダイムがシフトすることなのですが、パラダイムとは、その時代や分野において当然だと考えられていた認識や思想、社会全体の価値観のことを指すそうです。薬局薬剤師でいえば、医薬分業が本格化した1990年代以後、医師の処方箋を応需し、疑義があれば医師に照会して解消したのち、正確・迅速に薬を調製して、分かりやすい説明とともに、患者さんに交付するという認識であり、社会全体に広まっているように思います。
シフトするとは、移行する、変わるという意味ですが、パラダイムシフトという単語になると、革命的・劇的に変化するという意味合いになってきます。つまり、社会通念や価値観が革命的、劇的に変わるという意味です。薬剤師でいえば、この仕事内容やビジネスでの立ち位置が、革命的・劇的に変わるということであり、結果的に薬局のあり方もまさに激変するということです。ちなみに、パラダイムシフトの典型例の一つは、天動説から地動説へというものです。あちらが動いていると思っていたら、動いていたのは実はこちらだったという、まさにコペルニクス的転換です。
それだけのものが起こるには、やはり大きなきっかけが必要ですが、天動説から地動説にというのは、望遠鏡の発明だったり物理学の進歩だったりしました。薬局や薬剤師ではどうか。それが新型コロナウイルス感染症なのではないかと感じています。

患者さんの受療行動を変える

新型コロナウイルス感染症はいろいろなものを変えますが、薬局にとって大きな影響は、患者さんの受療行動が変わったというものです。今までは、自宅から病院に行って、薬局に寄ってから自宅に帰るというのが外来医療における患者さんの行動でした。これが年間8億回、全国で行われていたわけです。しかし、新型コロナウイルス感染症は、処方の長期化やオンライン診療、さらには不要な受診控えなどによって、この数が大きく減ることになりました。さらに、オンライン診療やオンライン服薬指導の普及や、処方箋の電子化など、薬局店頭に患者さんが来なくなるような仕組みが、制度として議論されるようになってきました。
仕事は何でもそうですが、顧客があってこそ成り立つものです。こと医療においては、どんなに医療サービスの質を上げても、患者さんが来なければ、医療としての意味をなしませんし、ビジネスとしての永続性も担保できません。いわゆる「調剤薬局」というビジネスモデルの質を上げるために、さまざまな取り組みが行われ、実際にその成果を上げてきました。しかし、その大前提は、処方箋を持った患者さんが、薬局店頭に来ることです。それが、完全になくなることはないでしょうが、今までと同じような動きは取らなくなっていくはずです。顧客のあり方が変わるのですから、そのサービスを提供する薬剤師や薬局のあり方も変わっていくでしょう。

薬剤師の法律的位置づけが変わる

新型コロナウイルス感染症とは関係はありませんが、偶然か必然か進められてきた薬剤師の法律的な位置づけの変化です。すでにご存じのことですが、法律上、薬局は医療提供施設となっており、薬剤師も医療従事者の一人として定義されています。それに加えて、薬剤師の仕事は、薬を渡すまでではなく、服用後までフォローすること、さらには医師にフィードバックすることも、その業務に入ってくることが、「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(医薬品医療機器等法)」に明記されました。このことによって、従来通りの「調剤薬局」のあり方はもとより、「お薬を渡すまでをいかに早く、正しく、分かりやすく行うか」という薬剤師のあり方では、法律的な要件を満たさなくなりました。また、「今までは、薬を渡すまでで手一杯で、それ以上のことは考えられない」「薬剤師の数も十分ではない中で、今以上の仕事はできない」という風潮も業界内にありましたが、平成31年4月2日に厚生労働省から出された通知()で、教育の実施と手順書の整備があれば、調剤業務の中で一定の基準(薬剤師の目が届く、判断を要さない機械的作業、薬剤の品質変化が起こらない)を満たす業務を薬剤師以外の方が取り組めるようにもなっています。そういった意味では、従来の仕事に専念し続けることが、法律的にも日常業務的にも難しくなってきているのだと思います。

表:調剤業務のあり方について(抜粋)
記事/インライン画像
表:調剤業務のあり方について(抜粋)
薬生総発0402第1号(平成31年4月2日)より抜粋

調剤報酬制度のあり方が変わる

2015年に厚生労働省から示された「患者のための薬局ビジョン」、そして、そのもとになった2013年に同じく厚生労働省から示された「地域包括ケアシステム」という概念に対応する形で、調剤報酬制度が2つの点で大きく変わってきていることにも注目しておくべきです。1つは、対物業務から対人業務へと調剤報酬の重心が移動し始めていることです。調剤基本料1を算定できる範囲が少なくなり、調剤料が減少し、代わって服用後のフォローや医師への情報提供などにコストがつくようになってきました。これにより、従来通りの仕事をしているだけでは採算性が保ちづらくなってきています。この風潮は、当面続くことが予想されますので、薬剤師も変わらざるを得なくなっていくでしょう。
そして、もう1つは、2025年の完成を目指している「地域包括ケアシステム」においては、「自助、互助、共助、公助」ということが謳われていることです。これは読んで字のごとくですが、まずは自分で努力し(自助)、次に近隣で助け合い(互助)、さらにさまざまな社会保障制度を活用し(共助)、最終的には、行政がセーフティネットを準備して支える(公助)というイメージです。つまり、医療や介護においても、調剤報酬を含む医療保険制度や、居宅療養管理指導のベースとなる介護保険制度が該当する「共助」の前に、自分や近隣で対応したり、予防したりするようにしましょうというのが「地域包括ケアシステム」の基本方針です。だとすれば、調剤報酬では賄えない薬やサービスの領域、すなわち、セルフメディケーションがシステムとして活用されるようになっていくことは時代の流れです。セルフメディケーションとは、薬をただ単に販売するのではなく、患者さんの状態をもとに、薬剤師が専門的な見地から患者さん(顧客)にアドバイスして商品を選択し、その後のフォローも行ったうえで、予想される効果が出ないときや、予期せぬ副作用がみられた場合には、医師への受診勧奨を含めて、次に取るべき行動を患者さん(顧客)に知らせるということまでを含みます。このように俯瞰してみても、薬剤師や薬局のあり方やスタイルは変わらざるを得ないのだと思います。

おわりに

今回挙げた3つの事柄のうち、後者2つは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大とは無関係に起こっていたことですが、なかなか業界が変わるには至っていませんでした。しかし、1つめの新型コロナウイルス感染症の件によって、薬局も薬剤師も極めて急峻な変化に対応することを迫られるようになりました。薬剤師2.0から薬剤師3.0へという転換が、劇的・革命的に起こりはじめている今、薬剤師も腹を括って対応することが求められているといえるでしょう。

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