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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:「薬剤師3.0」実現のための処方箋(4)


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

習慣とは、怖いものだと思います。辞書で調べると、「ある事を繰り返し行うようになった結果、その事が当たり前のことになる」といった意味ですが、確かに自分自身の行動を思い返してみても、その通りだと思います。それまであまり馴染みがなかった行動も、繰り返して行っているといつのまにか習慣になっていることがよくあります。この習慣がやっかいであり、便利であるところは、一度身についた習慣を変えることは容易ではないということです。しかし、不可能ではありません。一昔前、電車に乗ると雑誌や新聞を読む習慣の方も多かったと思いますが、今ではほとんどの方がスマホを触っています。ああいった事が起こるのは、一体、どのようなメカニズムがあるのでしょうか。今回は、薬剤師のあり方が2.0から3.0に変わる際の「習慣」について考えてみたいと思います。

薬局が変わらないのは薬剤師の習慣が理由!?

今までの薬剤師とはどんな習慣を身につけていたでしょうか。それぞれの業務を思い返していただければ、あれかな、これかな、と思い当たる節もあるかと思います。患者さんがお店に入ってくるのをドアの開く音や足音などで感知して、「こんにちは」と声をかける習慣。にこやかに対応しながら、患者さんが持ってこられた処方箋の内容を一瞥しながら、過去の薬歴と照らし合わせて、変化がないかスクリーニングする習慣。重複や禁忌などに気がつけば、処方医への連絡の取り方や電話の話し方などをシミュレーションしながら疑義照会のための電話へと手を伸ばす習慣・・・。いろいろな場面が、目に浮かぶと思います。この習慣の最後は、一連の外来患者さんの波が終わった後に、今日の会話や出来事を思い出しながら、それらを薬歴としてきちんと記録に残すことになるでしょうか。
この業務に慣れてこられた薬剤師が、対人業務や服用後のフォローなどに加え、セルフメディケーションだ、健康情報だと言われても、今までの習慣を変えるのは容易ではありません。薬剤師の習慣が変わらなければ、薬局で提供できるサービスも大きく変えることはできません。2015年に「患者のための薬局ビジョン」が発表されて以後も、薬局のあり方が大きく変わらないのは、薬剤師の習慣を変えることが難しかったからではないかと思います。

新型コロナウイルス感染症がもたらしたもの

薬剤師が変わるための理由は、今までもたくさん示されてきました。先ほど述べた「患者のための薬局ビジョン」が厚生労働省から示された以後も、0402通知(薬生総発0402第1号 平成31年4月2日「調剤業務のあり方について」)、改正薬機法といった制度や法律の改正、2年ごとの調剤報酬改定など、薬剤師のあり方は対物から対人へ、薬局は立地依存から機能依存へ移行するべきだというメッセージは数多く、また、ある程度の期間にわたり発信されてきました。ただ、前項で申し上げたような「習慣」を変えるまでには至らずにきているため、薬局や薬剤師のあり方は結果的に変化がないように見えてきたと思います。
ただ、2020年初めから日本でも急速に感染が拡大した新型コロナウイルス感染症によって、この習慣を変えることが迫られてきました。理由は、薬剤師側にあるのではなく、患者さん側にあります。感染拡大防止に向けた時限的、特例的措置として、0410事務連絡(事務連絡 令和2年4月10日「新型コロナウイルス感染症に係る診療報酬上の臨時的な取扱いについて(その10)」)が発出され、患者さんが特別なオンライン診療のシステムを用いずとも、電話などによる診療を受けることが可能になったことです。
この事によって、患者さんは医療機関に行かなくても処方箋の交付を受けることが可能になりました。医療機関に行くわけではないので処方箋はファックスで患者さんの指定する薬局に送られる仕組みになっています。また、長期処方の症例も増えていることもあり、患者さんが処方箋を持って医療機関の近くの薬局に訪れるケースが減ってきました。そうなると、薬剤師が今まで行ってきた習慣は、根底から大きく変わらざるを得なくなります。

薬剤師にとっての新しい習慣とは

薬剤師はどのように動くことを求められているのでしょうか。まず、医療機関からファックスで送られてきた処方箋情報をもとに調剤をすることが時限的、特例的とは言え認められたので、薬剤師の行動の第一歩はファックスの着信音に気づくところから始まるのかも知れません。今までは、待ち時間をできるだけ短くすることの優先順位が高く、そのために業務の効率的な運用を行う習慣が身についていたかも知れませんが、今までよりは時間的余裕ができ、患者さんへの問診や医師への疑義照会にかける肉体的、精神的、知的労働の割合が増えることになります。
そこでの薬剤師の新しい習慣とはどのようなものになるのでしょうか()。
たとえば、服用後の患者さんの状態を把握するために、電話やメール、SNSでフォローし、投薬後のスケジュール管理を行う習慣。必要に応じて、患者さんに来店を促したり訪問したりして、コンプライアンスやバイタルサインをチェックして薬物治療の効果や妥当性を薬学的に評価する習慣。これらの情報をもとに、外来、在宅にかかわらず、医師や看護師、患者さんの家族や介護スタッフと薬学の専門家としての立場で接する習慣。さらには、医療機関に行きたくない患者さんが相談に訪れた時に、OTC薬や機能性食品なども用いて、プライマリケアを提供する習慣。

表:薬剤師の新しい習慣
記事/インライン画像
表:薬剤師の新しい習慣

また、その後も継続的にフォローして、もし体調の改善がない場合には、それらの経過を踏まえて医師に受診勧奨する習慣。患者さん本人だけでなく、その家族の体調管理にもさりげなく目を配り、未病から疾病治療、介護まで幅広く健康情報拠点のメンバーとして活動する習慣など、幅広い新しい習慣が生まれてくるのではないかと思います。

習慣づけに必要な時間は…?

そんな簡単に行くかな、と思われる方も多いかも知れません。ただ、習慣というのは、だいたい3ヶ月、90日ぐらいあれば新しいものに馴染んでしまうと感じています。最初から全員が移行するものでもありませんし、従来の習慣を外れるには、程度の差はあれ違和感があるのが普通です。時間が経過すると、new normalとも言うべき新しい習慣に慣れてしまいます。制度的に言うと、時限的・特例的措置としての0410事務連絡対応は、3ヶ月を越えてまだまだ続きそうです。だとすると、患者さんも新しい受診行動様式が習慣化し、自宅→医療機関→(門前)薬局→自宅というルートをたどることは少なくなっていくでしょう。これに従って、薬剤師も行動習慣を変えるほかなくなり、いずれ薬剤師自身もこの新しい習慣に慣れていくと思います。そこでの薬剤師の習慣は、やはり、服用後のフォローをして薬学的に患者さんの状態を評価し、薬物治療の質的向上のために医師にフィードバックを行うということにシフトしていくのではないでしょうか。まさに、薬を渡すまで(=対物)から患者さんの状態を良くするまで(=対人)へのシフトが起こることにつながると思います。

おわりに

冒頭に触れた、電車の中での行動習慣がなぜ変わったかと言えば、新しい習慣が手軽で便利で、金額的にもメリットがあったでしょうし、読書だけでなく、音楽を聴いたりゲームをしたりという紙媒体としての本では得られない体験を提供してくれるところにあったのではないかと思います。薬剤師にとって、2.0から3.0、つまり対物から対人という新しい習慣は、薬剤師と患者さん、薬剤師と医師・看護師の人間関係を一変させ、新しい体験を薬剤師にもたらしてくれます。そうなると、今更、電車で紙の本や雑誌に戻ることが容易ではなくなっているように、薬剤師のあり方も従来のような薬を渡すまでの業務にとどまっていることも容易ではなくなると思います。

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