メインコンテンツに移動

maruho square リスクマネジメント:薬剤師が臨床現場で患者さんに用いる用語の認知・理解率調査


  • 医療法人沖縄徳洲会 千葉徳洲会病院 薬剤部 薬剤師 兼古 絵里菜 先生

はじめに

医療者が患者さんに説明する際に使用する言葉は必ずしも認知されているわけではなく、認知されていても正しく理解されていない用語があることが報告されています1)。しかし薬剤師が用いる用語に特化して認知率や理解率を調査した報告に関してはほぼありません。
もし、臨床現場において薬剤師が服薬指導を行う際に使用する用語が正しく認知・理解されていなければ、用語の誤った理解による過剰服用や過小服用が発生している可能性があると考えられます。そのため、患者さんに正しく認知・理解される服薬指導を行う第一歩として、今回薬剤師がよく使用する用語について、患者さんの認知率・理解率などを調査したので、その結果を報告します。

調査方法

今回は、調査に同意した外来患者さんを対象としたアンケート調査を行いました。薬剤師がよく使用する10語(頓服、食間服用、後発医薬品、一包化、PTPシート、OD錠、インスリン、抗生剤、相互作用、お薬手帳)に対し、問1ではその言葉を見たり聞いたりしたことがあるか(認知率)、問2ではその言葉の正しい意味を知っているか(理解率)、問3では間違えられやすい例を3つ上げ、そのように勘違いしていたことがあったか(誤解率)を調査しました。(質問の形式は国立国語研究所の「病院の言葉を分かりやすくする提案」を参考にしました()。調査の結果は認知率(図1)、理解率(図2)のようになりました。誤解率は抜粋して後に述べていきます。

表:アンケート例
記事/インライン画像
表:アンケート例
図1:その言葉を見たり聞いたりしたことがありますか?
記事/インライン画像
図1:その言葉を見たり聞いたりしたことがありますか?
図2:その言葉の正しい意味を知っていましたか?
記事/インライン画像
図2:その言葉の正しい意味を知っていましたか?

調査結果を受けて

認知率と理解率を並べると、「頓服」や「インスリン」のように認知はされていても、理解はされていない用語があることが分かります。加えて「頓服」を「鎮痛剤(痛み止め)のことだと思っていた」と答えた方は42.9%でした(図3-1)。これらの結果から「頓服のお薬が出ていますね」と患者さんに説明をしても「頓服って聞いたことあるけどなんだろう」と思ってしまう患者さんや、「痛み止めが出ているのか」と思ってしまう患者さんが少なくないことが分かりました。これでは、症状がある時ではなく毎食後など決まった時間に飲んでしまう、症状がある時に服用することができない、吐き気止めや下痢止めなどが処方されていても痛くないから飲まない、といったアドヒアランスの低下が起こる可能性があります。また「インスリン」を「インスリンを始めると一生続けなければならない」と答えた方が51.8%でした(図3-2)。初めてインスリンを処方された際、そのように思っていると治療に対するモチベーションの低下が起こり、手技獲得までの時間延長や自己注射のアドヒアランス低下につながることも考えられます。理解率が低い用語は、明確な説明を加え、正しい知識を普及していくことが求められます。

図3-1:頓用誤解率
記事/インライン画像
図3-1. 頓用誤解率
図3-2:インスリン誤解率
記事/インライン画像
図3-2. インスリン誤解率

また、認知率が50%に到達しない用語が10単語中4語(一包化、PTPシート、OD錠、相互作用)という結果になりました。アドヒアランスの悪い患者さんに「お薬を一包化しましょうか」と声掛けしても、約7割方は何のことか分からない、ということになります。せっかくのアドヒアランスを上げる提案も患者さんに伝わっていなければ意味がないものになってしまいます。このような用語は服薬指導時に用語を言い換えて説明するなどして、より分かりやすい説明を行うとともに、患者さんの理解度の確認を行う必要があると考えられます。
では、患者さんにとって分かりやすい説明、分かりやすい言い換えとは何なのでしょうか。おそらく10人薬剤師がいれば10通りの答えが返ってくると予想できます。薬剤師側に、このような用語をどんなふうに説明しているのか、どんなふうに言い換えているのかということを調査し、その中から患者さんにどの説明や言い換えなら分かりやすいのかを調査することで、患者さんに正しく認知・理解される服薬指導により近づくことができるのではないかと考えています。また、例数を増やした調査を行い、年齢別や常用薬の有無などの条件別での調査も考えています。

おわりに

これらの結果から薬剤師の先生方に知っていただきたいことは、私達にとっては当たり前の用語でも患者さんにとってはそうではないということです。至極当たりまえのことを言っていますが、私達の言葉の選び方で患者さんのアドヒアランスは変わってくるということを改めて感じていただければ幸いです。

  1. 国立国語研究所「病院の言葉」委員会編著『病院の言葉を分かりやすく―工夫の提案― 』

お問い合わせ

お問い合わせの内容ごとに
専用の窓口を設けております。

各種お問い合わせ

Dermado デルマド 皮膚科学領域のお役立ち会員サイト

医学賞 マルホ研究賞 | Master of Dermatology(Maruho)

マルホLink

Web会員サービス

ページトップへ