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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:「薬剤師3.0」実現のための処方箋(3)


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士狹間 研至 先生

はじめに

ずいぶん前のように感じますが、今年のお正月ごろに誰が今の世界の状態を予想しえたでしょうか。令和になって初めてのお正月、しかも、オリンピックイヤーの幕開けで、どちらかといえば明るい話題が多かったように思います。それが、今や事態は一変しました。今後、一体どのような展開になるのかも定かではなくなってきました。しかし、こういった変動の時期には、今一度基本に立ち帰り、あるべき姿を考えることができます。今回は、期せずして到来している「薬剤師3.0」実現に向けたトレンドについて、ご一緒に考えてみたいと思います。

そもそも薬剤師3.0とは

薬剤師3.0とは、薬をお渡しするまでではなく服用後までフォローし、自分が調剤した薬が、①きちんと飲まれているか(コンプライアンス)、②きちんと効いているか(効果)、③良くない症状が出ていないか(副作用)の3つをチェックするとともに、それらに問題があれば薬学的見地からその解決策を考え、医師にフィードバックをすることで、薬物治療の適正化へとつなげる役割を担える薬剤師のことだと考えています。
ちなみに、昔の町の薬局にいた薬剤師1.0とは、患者さんの困りごとを聞き、その問題解決を適切に考えるのが仕事だったと思います。時には嫁姑問題や子育て問題などの相談にものりながら、元気で生活できるサポートを医薬品、医薬部外品、化粧品、健康食品、衛生材料や医療雑貨などを販売しつつ行っていたと思います。患者さんは困りごとを薬局に持ち込み、解決策を手にして帰ることだったと思います。
一方、現在の「調剤薬局」と呼ばれる薬局で活動する薬剤師2.0とは、インスリンや抗がん剤など用いる薬剤はより複雑かつ高度化していますが、患者さんが持参した処方箋をもとに、病歴や服用歴、アレルギーの有無などをチェックし、処方箋内容に疑義があれば医師に照会し、正確・迅速に調剤し、わかりやすい服薬指導を行って、薬歴を作成するのが仕事で、患者さんは処方箋を持ち込み、薬を持って帰ることになっていると思います。薬剤師2.0のあり方を追求することは、分業率が0.1%から70%を超える時代になるまでは、さまざまなマネジメントが必要で、安全性を確保しながら新しい医療システムを作るためには重要だったと思います。しかし、分業開始から40年以上経過し、少子化と高齢化の同時進行や、がんを含めた生活習慣病の増加など、人口構成、疾病構造も大きく変わっています。また、6年制に移行した薬学教育も15年目に入るなど、薬剤師のあり方が変わるのは、当然のことだと思います。

新型コロナウイルス感染症にまつわる3つのパターン

こういった流れの中で、今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、我が国の医療のみならず経済や社会構造にとって緊急事態ともいえ、従来のオンライン診療や服薬指導に加えて患者さんの状態確認や、処方・服薬指導が、電話などによる診療や服薬指導が時限的・特例的に認められています(令和2年4月10日の事務連絡「新型コロナウイルス感染症の拡大に際しての電話や情報通信機器を用いた診療等の時限的・特例的な取扱いについて」:https://www.mhlw.go.jp/content/000620995.pdf)。薬剤師にとっては、対面が原則の医療用医薬品、要指導薬の服薬指導が、時限的・特例的とはいえ、ビデオ通話システムだけでなく、電話や情報通信機器でも原則可能になるというのは、大きな変化だと思います。今回の件について、1)新型コロナウイルス感染症の患者さん、2)新型コロナウイルス感染症疑いの患者さん、3)新型コロナウイルス感染症が怖いがいつもの薬が必要な患者さんに分けて考えてみたいと思います。

新型コロナウイルス感染症に伴う医療保険制度の対応について(中医協令和2年4月10日会議録より作成)
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新型コロナウイルス感染症に伴う医療保険制度の対応について(中医協令和2年4月10日会議録より作成)
  1. 新型コロナウイルス感染症の患者さん
    急速に呼吸状態が増悪するケースもあり、時々刻々と状況が変化する中で、重症、中等症、軽症と分類をして、適切な医療提供を行っていく必要性があります。重症、中等症は、医師が主導的に治療を行っていくフェーズですので、薬剤師の仕事は従来とあまり変わらないと思います。軽症の患者さんは、宿泊施設などゾーニングが可能な建物で、一定期間経過観察・療養されて症状の増悪がなければ自宅復帰、あれば、医療機関での治療を行うことになっています。この宿泊施設などでは、新型コロナウイルス感染症については担当の医師や看護師がフォローするでしょうが、生活習慣病を中心とした薬剤については、かかりつけ医やかかりつけ薬剤師でフォローしなければならなくなると思います。軽症・経過観察中という患者さんの状態に適した感染対策をしながら、必要に応じて電話などの診療、服薬指導と医薬品のデリバリーを行うことになります。新型コロナウイルス感染症の治療は基本公費負担になるでしょうが、それとは関係の無い疾病の治療については通常の保険診療になり、その対応については、全ての薬剤師が考えておく必要があります。
  2. 新型コロナウイルス感染症疑いの患者さん
    ちょっとした風邪症状で「コロナかどうか心配!」という患者さんへの対応です。こういった訴えで医療機関に相談する患者さんは少なくなく、医療機関の「発熱外来」のようなところに、患者さんが受診し、感染管理に注意した環境で医師が患者さんの問診や診察を行い、医薬品が処方されます。その他に、今回の0410事務連絡において、通常の感冒様症状などが考えられる方については、電話などでの診療が可能なことや、医師が電話などで患者さんの状態を聞いた上で、一般用医薬品の使用を推奨するパターン(電話健康相談的なもの)が明記されています。医師が電話で話を聞いただけの方が、処方箋や「医者に風邪薬を買いなさいと言われた」と来店される可能性があるということです。このような場合には、薬剤師も感染対策を取りながら、患者さんの状態をみて、お話を伺い、必要な薬剤を調剤もしくは販売するだけでなく、今回の改正薬機法でも定められた通り、服用後のフォロー(+アセスメント)と、医師へのフィードバックを行うことが重要になってきます。
  3. 新型コロナウイルス感染症が怖いがいつもの薬が必要な患者さん
    最も頻繁に現場で遭遇するケースだと思います。医師は電話などで「どうですか?変わりないですか?血圧は?便通は?睡眠は?」と聞いた上で、「じゃ、いつもの薬、出しておきますね」ということで処方箋が発行されます。今回の0410事務連絡ではこういった処方箋には「0410対応」と書かれて薬局にはファックスが送信されます。その処方箋情報を元に調剤し、患者さんに薬を授与すること(来店による手渡し、訪問、もしくは郵送など)が許されます。これも、2)と同様、医師は患者さんとお会いできていないので、患者宅への訪問や、感染管理に配慮した薬局待合での服薬指導などを行うとともに、その後のフォロー(+アセスメント)、医師へのフィードバックを行うことの意義は、通常よりも大きくなっていくと思います。また、処方日数が長期にわたるような場合には、分割調剤やかかりつけ薬剤師の仕組みも活用して、安心・安全な薬物治療の実現に向けた活動を行うことが求められています。

おわりに

今回の新型コロナウイルス感染症の拡大で、薬局や薬剤師に求められる役割は、平時と異なり大きくなると思います。改正薬機法や0410通知、2020年度調剤報酬改定などの環境変化を踏まえ、薬剤師が単に薬を渡すだけ、という薬剤師2.0的な世界から、薬局には処方箋だけでなく困りごとが持ち込まれ、薬剤師は薬をベースとした解決策をお渡しするという薬剤師3.0的な世界が広がっていくと思います。逆に、こういった環境変化に対応できなければ、薬局や薬剤師不要論がさらに大きなものになり、業界の進歩がひと世代遅れてしまう可能性すらあります。今の危機的な状況を、前向きな変化へと転換するための正念場に私たちは立たされていることを考え、今、薬局・薬剤師がどう行動するかが重要な時期だと思います。

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