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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:薬剤師にとっての一般用医薬品


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

薬剤師にとって、一般用医薬品とはどういった位置づけでしょうか。病院薬剤師はもとより、処方箋が必要な医療用医薬品を扱うことがほとんどの薬局薬剤師にとって、あまり、ピンと来ない方が多いのではないでしょうか。Over the Counterの頭文字をとってOTC医薬品とも言われる一般用医薬品ですが、「薬剤師3.0」には欠かせない要素になりつつあります。今回は、その背景とポイントを私なりに説明させていただきます。

薬剤師が一般用医薬品になじみがないワケ

薬剤師が一般用医薬品になじみがないのには、大きく分けて3つの理由があると思います。
1つは、薬剤師が、患者さんから症状や病気の相談をされることに慣れていないことです。いわゆる「調剤薬局」での「薬剤師2.0」業務では、医師が発行した処方箋を受け取り、疑義があれば照会し、正確迅速に調剤し、わかりやすい服薬指導とともにお渡しする。その一連の行動を遅滞なく薬歴に記載するという仕事がほとんどです。患者さんの症状を聞くというよりは、アレルギー歴や重複投与、相互作用など、薬というモノを安全に、早くお渡しするにはどうすればよいのかを考えて行動することが大切です。これは重要な仕事ではありますが、医師の指示があって対応するという受動的な要素が強いと思います。一方、一般用医薬品の場合には、痛みやかゆみ、だるさといった症状を訴える患者さんに、色々と質問し、症状をお聞きしながら、自ら考え、適切と考える医薬品を選択し、患者さん(お客様)の同意をいただいて、保険ではなく自費で購入いただかなくてはなりません。これは、完全に能動的なマインドであたらなくてはできないことです。「対物」から「対人」へというのは、聞き飽きた言葉かも知れませんが、ある意味では、薬剤師の仕事が受動的なものから能動的なものに変わっていかなければならない、ということだと思います。
次に、患者さん自身も、自分の症状や病気について、医師に相談することはあっても、薬剤師に相談するというイメージを持っている方は決して多くないと思います。おなかが痛い、風邪を引いた、頭が重いといった症状から、打ち身や切り傷まで、何かあれば「医者に行かなくちゃ!」と思うのが自然な流れになっています。私自身、医師として診察のなかで、日常の外来業務や、年末年始の夜間・休日診療所の盛況な状態を見るにつけ、医師がそういった業務にあたることは、極めて一般的なことになっていると思います。このような状況で、「調剤薬局」と銘打った薬局にいる薬剤師に、自分の身体や病気のことについて相談することは、患者さんにとっても容易ではないのかも知れません。
そして、3つめは、お金の問題です。例えば、風邪の症状があり、医師の診察を受け、処方箋をもらい、薬局でお薬を受け取るのと、薬局で薬剤師に相談して、一般用医薬品を購入するのとでは、医師から薬を処方してもらうほうが安くなるケースが少なくありません。もちろん、この値段とは患者さんが負担する金額のことで、根本的な違いがあります。一般の方にとって、医師の診察を受けると高く、薬剤師に相談して、薬を購入すると安いならまだしも、医師の診察を受けるより、薬剤師に相談して薬を購入するほうが高いなら、困ったら医師の診察を受けに行くことは、ある意味で当然のことと言えるでしょう。
少し、ざっくりとした話ではありますが、概ねこれら3つの理由から、薬剤師が一般用医薬品にはなかなかなじみが持てない理由ではないかと思います。

社会保障制度のあり方が変わる

最近、このような状況が今後もずっと続かないのではと感じています。なぜなら、医療業界では、様々な環境や前提条件が、大きく変わろうとしているからです。
最も大きな流れは、社会保障費の適正化のために、「大きなリスクは共助で、小さなリスクは自助で」という方向が財務省から明確に示されるようになったからです。ここで言う大きなリスクとは、がんや心臓病、脳血管疾患など命に関わる病気のことです。国民皆保険制度という世界に冠たるすばらしい仕組みを、少子化と高齢化が同時に進行する我が国で堅持していくには、リスクの大小にかかわらず、すべてを健康保険でまかなうことは難しくなってきました。その大きな理由として、革新的な新薬が開発され、非常に高額な薬価がつき始めたこともあり、今後の国民皆保険制度の永続性に疑義が生じるようになってきたと言われています。治療を受けるのに、自分のお財布を心配する環境というのは、やはり避けなければなりませんが、健康保険や場合によっては高額療養費制度なども活用し、常識的な自己負担で(共助)、安心して治療に臨んでいただく必要があります。その一方で、腹痛や風邪、ちょっとしたケガや打撲などは、健康保険を使うのではなく、自分のお金で支払うべき(自助)という考え方です。現在、類似もしくは同一成分に一般用医薬品があるにも関わらず、医師の処方箋によって調剤されている薬が年間5,000億円になるそうです。これは、革新的新薬(概ね1,000億円程度)が5つまかなえる計算になります。社会保障制度の意味を考えれば、医師にかかると安く薬がもらえる状況は、今後、変わっていくと思います。
経済原則のもと、患者さんがまずは、薬剤師に相談するという行動が増えていくのではないかと予想しています。実際、アレルギー性鼻炎の抗ヒスタミン薬は、スイッチOTC化され好調に売り上げを伸ばしているそうです。それは、ほとんどの働く世代の方は、3割負担であり、薬をもらうだけが目的であれば、医師にかかり薬局に行った場合の自己負担と、薬局に行ってダイレクトに薬を購入する費用がほぼ同額になってきたからと言われています。今後、社会保障制度が変革するなかで、こういった自己負担と一般用医薬品購入費が逆転しだすと、患者さんの受療行動は、あっという間に変わるのではないかと思います。

服用期間を通じてフォローすることがポイント

これらの環境変化は、最初に述べた3つの理由のうち、後者2つをクリアすることになりますが、最初の理由をクリアするためには、薬機法改正()にも明記されている服用中のフォローを薬剤師が行うことが重要です。最初は医師の処方に基づいて薬を出したとしても、その後のフォローという能動的アクションをすることで、薬剤師のあり方を大きく変えることができます。もちろん、服用中の様子を見るだけではなく、患者さんの状態を知り、薬学的にその病状変化が説明できるかどうかを考え、よりよい薬物治療を行うためのプランを薬剤師という専門家の観点から医師にフィードバックすることが欠かせません。また、一般用医薬品についても、風邪や腹痛、ケガなどに、まずは薬局で対応をしたとして、その後の経過をフォローし、自分が予想した通りの経過が得られなければ、どんなことを考えてその薬を選択したのかということも添えて医師に照会することで、安全性を担保することができます。
10年ほど前から、私も取り組んできたバイタルサインというものは、薬剤師が服用中をフォローする際には、欠かせないものであり、そういった観点からも、是非積極的に活用していただきたいと思います。

記事/インライン画像
表.薬機法等制度改正に関するとりまとめ

平成30年12月25日厚生科学審議会 医薬品医療機器制度部会

おわりに

さらに、最近では医師の働き方改革への取り組みが求められるようになってきました。様々な方法を組み合わせてやっていく必要があると思いますが、私自身の外来を見ても、「これはOTCで対応できるよなぁ」と思う患者さんは相当な割合いらっしゃいます。薬剤師が一般用医薬品に取り組むことは「薬剤師3.0」の要素の一つであると思います。その社会的意義は、単に医療費の適正化にとどまらず、医師の働き方改革を通じ、よりよい医療提供システムを我が国にもたらし、「地域包括ケアシステム」実現の一助につながると考えます。

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