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maruho square リスクマネジメント:FTU(Finger Tip Unit)使用状況から見える使用率の実態


  • 株式会社共栄堂 さつき調剤薬局 黒澤 千明 先生

はじめに

「FTU(Finger Tip Unit)」という単位は、医師と患者さんが共にわかりやすい共通の指標として1989年にFinlayらによって提唱されました。日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎(Atopic Dermatitis;AD)診療ガイドライン2016年度版には「FTUを目安としてよいと考えられる」と記載されています。近年では薬剤師国家試験に出題され、大学の授業や実務実習で聞いたり学んだりする機会が増えています。その結果、薬学生の認知度も高くなってきていると感じてきました。しかし、実際に薬局で勤務してみると実はFTUはあまり使われていないのではないかと感じました。

FTUを使った指導は実践されているのか?

そこで社内の状況を調べてみました。(当社では新人研修の一環として学会発表に挑戦しており、第51回日本薬剤師会学術大会で発表しました。)
2018年4月21日~5月2日までの間、薬剤師264名を対象に「FTUを知っているか」「FTUを知ったきっかけ」「ステロイド外用剤の処方で1回あたり使用量がない場合どのように情報提供を行っているか」「病院・薬局での勤務年数」などを質問項目としたアンケートを行いました(回答率75%)。その結果、FTUの認知度は全体で約80%あるものの、ステロイド外用剤の指導における使用率は30%程度でした(図1)。

図1:処方箋に記載のない場合の指導方法
記事/インライン画像
図1:処方箋に記載のない場合の指導方法

経験年数で区切って使用率を比較したところ、7年目までの薬剤師(ほぼ6年制卒業者)では42%であり、8年目以降では24%と差が見られました(図2)。つまり、必ずしもFTUを使用して塗布量の指導が行われていないこと、経験年数により実践率が違うことが分かりました。実際、FTUを知ったきっかけが大学の授業・国試・実習である割合を同様に経験年数で比較すると、7年目までは33%で、8年目以降では2%と差が見られました(図3)。以上のことから、薬剤師によりステロイド外用剤の塗布量の指導が異なる可能性があることが分かりました。

図2:FTU使用率
記事/インライン画像
図2:FTU使用率
図3:FTUを知ったきっかけ
記事/インライン画像
図3:FTUを知ったきっかけ

私たち薬剤師が知っておくべきこと

学会発表時のデータを紹介した上でFTU使用についての考え方を聞いた最近の簡単な社内調査でも、「FTUは知ってはいるが、実際の服薬指導には使用していない。」ことが意見として挙げられました。一方、「塗り方の目安として患者さんがわかりやすいと思う」、「今まであまりFTUを使用していなかったが適正使用のために有効な方法だと思う」など、使用に前向きな意見も聞かれ、当社の多くの薬剤師がこれまであまり使っていなかったFTUを今後はより積極的に使用していく考えでした。
AD診療ガイドラインをしっかりと読んでいる薬剤師ほどFTUを基にした指導をより行なっており、患者さんの使用量をより確認しているという報告があります(Drug Discoveries & Therapeutics. 2019; 13(3):128-132.)。AD診療ガイドライン2016年版の3.薬物治療(1)抗炎症外用薬を参照すると、「第2指の先端から第1関節部まで口径5mmのチューブから押し出された量(約0.5g)が英国成人の手掌で2枚分すなわち成人の体表面積のおよそ2%に対する適量であることが示されている(finger tip unit)。日本人の体型、日本で使用可能なステロイド外用薬のチューブの大きさを勘案しても、このfinger tip unitを目安としてよいと考えられる」と記載されています。そして、乳幼児・小児では外用薬のランクを1ランク低め、顔面など吸収率が高い部位にはミディアム以下とランクを下げるのであって、塗布量まで減らすことのないようにすること、ステロイドへの不安感から使用量を減らさないように指導すべきことが読み取れます。

患者さんとより良い関係を築くために

同僚の薬剤師から、母親である知人と次のようなやりとりがあったと経験談を聞きました。普段は子供に母親が軟膏を塗っているけれど、仕事で居ない場合祖母が塗っている。その時に「たっぷり」「薄く」など使用してほしい量を伝えたくても実際にどのくらいの量を塗布していいのか自分でも分からず、どのように頼んだら良いか分からないという話でした。そこで、FTUを伝えたところ非常に喜ばれたそうです。このケースでは、薬を受け取った際に塗布量が明確に伝わっていなかったことが考えられます。そして、信頼関係が築かれている中で母親の話をよく聞き、必要な情報が塗布量にあることを確認した上でFTUによる情報提供がなされました。ステロイド軟膏に限りませんが、例えFTUを使用しても機械的に説明するだけでは患者さんに伝わるとは限りません。初めて使う場合は塗布量を明確に伝えることが大切です。そして、2回目以降も患者さんが塗布量についてどのような認識を持っているのか、実際どの程度の量を塗布しているのか、不安感から不十分な塗布量となっていないのかなど、常に患者さんの話に耳を傾けて塗布量に関するチェックをすることでFTUを有効に使用でき薬剤師が有効な薬物治療を支えることにつながるでしょう。
もちろん薬剤師が主体的に使用量を判断するわけではありません。専門医などの具体的指示がある場合はその量での指導が必要であり、処方元とのより密なコミュニケーションを取ることが必要です。ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎の治療以外にも虫刺されなどの皮膚症状でも処方される機会があり、掌2枚分より小さい患部の場合にはどのようにFTUを使用して、あるいはもっと良い方法で患者さんにわかりやすく指導するかも考えていかなければなりません。自分の中でなじみのある指導方法があるかもしれませんが、この記事をきっかけに「FTUを使用して服薬指導してみよう」と思っていただけると幸いです。

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