疼痛の治療
疼痛に対する薬物治療1-7)
リドカイン
侵害受容性疼痛または神経障害性疼痛に対して、リドカインなどの局所麻酔薬が有効となることがあります。リドカインは様々な剤形を有し、表面麻酔、浸潤麻酔、伝達麻酔、硬膜外麻酔として幅広く使用されていますが、神経ブロックに用いることも認められています。
NSAIDs
NSAIDsは侵害受容性疼痛に対する第一選択薬として用いられ、その三大薬理作用は、鎮痛、解熱、抗炎症です。
NSAIDsはシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害することで、主にプロスタグランジン(PG)の合成を阻害し、痛みを抑制します。
PGは、ブラジキニンなどの発痛閾値を下げて痛みを増強したり、神経末端および脊髄後角を介した痛みの伝達に関与すると考えられています。
アセトアミノフェン
作用機序は必ずしも明らかではありませんが、中枢性COX阻害に加え、カンナビノイド受容体やセロトニンを介した下行性抑制系の賦活化が考えられています。頭痛、腰痛症、筋肉痛、打撲痛、月経痛、がんによる疼痛、歯痛、歯科治療後の疼痛などに適応を有し、侵害受容性疼痛の第一選択薬として用いられています。なお、神経障害性疼痛に対しての有効性を示す臨床成績はなく、使用は推奨されていません。
神経障害性疼痛緩和薬
代表的な薬剤であるプレガバリンは、主にシナプス前膜の電位依存性Ca2+チャネルのα2δサブユニットに結合して、それを介した神経細胞興奮を抑制します。プレガバリンは、神経障害性疼痛に対する第一選択薬として推奨されているほか、痛覚変調性疼痛に含まれる線維筋痛症に対する適応も有しています。
抗うつ薬
三環系抗うつ薬のアミトリプチリン、5-HT2A受容体拮抗・再取り込み阻害薬のデュロキセチンが、神経障害性疼痛に対する第一選択薬として用いられています。これらは、シナプス間隙のセロトニンやノルアドレナリンのシナプス前ニューロンへの再取り込みを阻害することで、シナプス間隙のモノアミン濃度を上昇させて下行性疼痛抑制系を賦活化すると考えられています。
オピオイド
オピオイド受容体(μ、δ、κ受容体)に結合して鎮痛効果を発揮します。術中・術後・外傷時、分娩時などの急性疼痛や、がん性疼痛、神経損傷による慢性疼痛に対して使用されます。特にがん疼痛治療において中心的な役割を果たし、「世界保健機構(WHO)方式がん疼痛緩和治療法」では、軽度~中程度、中程度~強度の痛みに対して、オピオイドを使用したうえで、他の薬物療法や治療法の決定を行うことが原則とされています。
疼痛の主な治療薬
上述の薬剤を侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛に対する薬物治療に分類し、下表にまとめました。
侵害受容性疼痛に対する治療薬剤 | 神経障害性疼痛に対する治療薬剤 |
---|---|
NSAIDs アセトアミノフェン |
プレガバリン 抗うつ薬 |
リドカイン、オピオイド |
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- 石井義輝:日本フットケア学会誌. 15(3), 105-111, 2017
- 島田和幸, 川合眞一, 伊豆津宏二, 今井靖 編:今日の治療薬 2022. 南山堂, pp290-291, 2022
- 日本ペインクリニック学会HP:NSAIDsとアセトアミノフェン https://www.jspc.gr.jp/igakusei/igakusei_keynsaids.html (2022年8月閲覧)
- Wiffen PJ, et al:Cochrane Database Syst Rev. 12, CD012227, 2016
- Attal N, et al:Eur J Neurol. 17, 1113-1123, 2010
- 慢性疼痛治療ガイドライン作成ワーキンググループ 編集・発行:慢性疼痛治療ガイドライン. 真興貿易(株)医書出版部, p40, 2018