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服薬指導に役立つ皮膚外用剤の基礎知識 No.5:混合処方の実際・主薬の皮膚透過性・基剤中に溶解している主薬の割合・混合後の皮膚透過性・皮膚外用剤の希釈


皮膚外用剤による外用療法では、患者さんへの十分な説明による服薬アドヒアランスの向上と維持が重要となります。臨床現場では、服薬アドヒアランスの向上を目的に単剤の皮膚外用剤同士の併用に代えて、皮膚外用剤の混合処方を行うことが少なくありません。近年、混合処方の問題点を解消し、複数の主薬を配合し製品化した配合剤も登場しています。
今回は、皮膚外用剤の混合の際に留意すべき点と配合剤の有用性について考えます。

皮膚科領域では皮膚外用剤を併用することが多く、併用する薬剤の増加に伴い服薬アドヒアランスが低下することがあります。臨床現場では服薬アドヒアランス向上のため、併用する皮膚外用剤の混合処方がよくみられます。

混合処方の実際

皮膚科医43名および小児科医18名を対象としたアンケート調査によると、約88.5%の医師が混合処方による混合薬を使用していました1)。混合薬を使用する理由は効果面、コンプライアンスの向上がそれぞれ33.1%、32.2%と高率を占めていました(図11)。これらの背景を考慮して、混合した皮膚外用剤を使用する場合、患者さんに対し服薬アドヒアランスを確認し、効果および副作用に関して十分な経過観察をしていくことが重要です。
皮膚外用剤は、混合することを目的として開発されてはいません。臨床試験結果に基づき適応疾患、用法・用量、主薬の性状を考慮した基剤・剤形および濃度が設定されており、本来は単剤で使用するべき薬剤です。皮膚外用剤の混合により、基剤・剤形の特性が変化すると主薬の皮膚透過性が変化し、治療効果や副作用に影響する可能性があります。

図1 混合薬を使用する理由
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図1 混合薬を使用する理由

主薬の皮膚透過性

ヘアレスマウスを用いた主薬の皮膚透過性を比較した報告において、ステロイドのプレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルの皮膚透過速度はクリームが軟膏に比べ7.8倍速く2)、皮膚透過量に換算してもクリームが軟膏に比べて優れていました(図2)。これはクリームが基剤中に水と油を含むことから、水溶性薬物でも脂溶性薬物でも溶解性に優れ、軟膏に比べ基剤中に主薬がよく溶けていることが大きな要因です。

図2 ステロイド皮膚透過量の軟膏とクリームの違い(ヘアレスマウス)
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図2 ステロイド皮膚透過量の軟膏とクリームの違い(ヘアレスマウス)

基剤中に溶解している主薬の割合

軟膏とクリームの違いとして、基剤への主薬の溶解性があります。一般に、クリームは主薬が基剤中に溶けているのに対し、軟膏は、大部分が結晶として存在しています。主なステロイド外用剤の軟膏における、主薬のステロイドの表示含量に対する基剤中に溶解している割合を示します3)4))。基剤中に溶解している主薬の割合が比較的高い酪酸プロピオン酸ヒドロコルチゾン軟膏0.1%(先発品)は、添付文書上に溶解型軟膏であることが記載されており、「液滴分散型軟膏」として調製されています。

表 主なステロイド外用剤(軟膏:先発品)の表示含量に対する基剤中に溶解している割合
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表 主なステロイド外用剤(軟膏:先発品)の表示含量に対する基剤中に溶解している割合

混合後の皮膚透過性

主薬の皮膚透過性の軟膏とクリームの違いや主薬が基剤中に溶解している割合をふまえて、混合後の主薬の皮膚透過性について紹介します。
油脂性基剤のステロイド軟膏と乳剤性基剤の保湿剤との1:1の混合後のステロイドの皮膚透過性をヘアレスマウスで検討しています2)5)。プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル軟膏0.3%と尿素製剤、あるいはヘパリン類似物質含有製剤との混合により、プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステルの濃度は1/2になるものの、ステロイドの皮膚透過比は約4.5倍および約2.5倍に増加します(図3)。ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏0.05%とこれらの保湿剤との混合でも、混合後のステロイドの皮膚透過比は、約2倍と約1.5倍に増加します(図4)。プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル軟膏では主薬が基剤中に1/130しか溶けておらず、基剤中の溶解性が1/16のベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏より基剤中に結晶で存在している割合が高く、クリームとの混合後の主薬の皮膚透過性により大きく影響することが考えられます。
このような皮膚透過性の変化は、混合による基剤の特性の変化が一因となっています。特に、乳剤性基剤のクリームとの混合では、乳化の破壊や乳化の型(O/W、W/O)によっても皮膚透過性が変化するため、効果および副作用に関して十分な経過観察が必要です。

図3 プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル軟膏単独と保湿剤(W/O型)の等量混合後のステロイド皮膚透過比
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図3 プレドニゾロン吉草酸エステル酢酸エステル軟膏単独と保湿剤(W/O型)の等量混合後のステロイド皮膚透過比
図4 ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏単独と保湿剤(W/O型)の等量混合後のステロイド皮膚透過比
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図4 ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏単独と保湿剤(W/O型)の等量混合後のステロイド皮膚透過比

皮膚外用剤の希釈

患者さんの病態や副作用を考慮して、皮膚外用剤を希釈することがあります。
皮膚外用剤を希釈した場合の効果について検討した報告があります。

(1)ステロイド外用剤の希釈

ステロイド外用剤の臨床効果の指標として、血管収縮試験が汎用されています。ステロイド外用剤を1,024倍まで希釈した際の効果についてヒトにおける血管収縮試験が報告されています6)。ステロイド外用剤を単純塗布4時間後に除去し、除去4時間後の血管収縮反応陽性率をみています。軟膏では、希釈して単純塗布した場合、4~16倍程度の希釈では効果に差は認められていません(図5)。ベタメタゾン酪酸エステルプロピオン酸エステル軟膏を16倍希釈しても効果が減弱しない理由として、基剤中に溶解している薬物が1/16である結果と一致していることが考えられます。一方、ステロイド外用剤のクリームでは、希釈して単純塗布した場合、希釈により効果が減少しています(図6)。これはクリームにおいて主薬の大部分が基剤中に溶解しており、希釈により基剤中に溶解している主薬の濃度が低下したためと考えられます。

図5 ステロイド外用剤(軟膏)の希釈による血管収縮効果への影響
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図5 ステロイド外用剤(軟膏)の希釈による血管収縮効果への影響
図6 ステロイド外用剤(クリーム)の希釈による血管収縮効果への影響
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図6 ステロイド外用剤(クリーム)の希釈による血管収縮効果への影響

(2)保湿剤の希釈

皮膚外用剤の混合では、ステロイド軟膏と保湿剤のクリームを混合する処方をよく認めます。
健康成人14名の前腕屈側部を対象部位としてヒト乾燥皮膚モデルで、保湿剤のヘパリン類似物質含有クリーム(W/O型)をステロイド軟膏基剤である白色ワセリンで希釈したときの保湿効果を電気伝導度(角層水分量を反映する指標)により評価しています7)。ヘパリン類似物質含有クリーム(W/O型)単独の白色ワセリンによる2倍希釈では、希釈しなかった場合に比べ、電気伝導度増加量は塗布後1日、2日、3日、7日、最終14日後までの全ての測定日において有意な低下が認められました(Tukey型多重検定、p<0.05)。4倍希釈では、全ての測定日において、白色ワセリン単独との間に電気伝導度増加量に有意な差は認められませんでした(図7)。
このように、保湿剤の希釈による保湿効果の低下に注意すべきであるといえます。

図7 保湿剤(ヘパリン類似物質含有クリーム(W/O型))の希釈における保湿効果への影響
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図7 保湿剤(ヘパリン類似物質含有クリーム(W/O型))の希釈における保湿効果への影響
出典:
  1. 名嘉眞武國:MB Derma,2021;314:111-118
  2. 大谷道輝ら:病院薬学,1997;23(1):11-18
  3. 大谷道輝ら:日皮会誌,2011;121(11):2257-2264
  4. 大谷道輝:日本香粧品学会誌,2014;38(2):96-102
  5. 大谷道輝:医療薬学,2003;29(1):1-10
  6. 川島眞:臨床医薬,1990;6(8):1671-1681
  7. 眞部遥香ら:薬学雑誌,2017;137(6):763-766
服薬指導に役立つ皮膚外用剤の基礎知識 No.5
  1. 混合処方の実際・主薬の皮膚透過性・基剤中に溶解している主薬の割合・混合後の皮膚透過性・皮膚外用剤の希釈
  2. 配合剤の有用性
  3. 【コラム】混合処方における調剤時の確認ポイント

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