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maruho square 地域包括ケアと薬剤師:「薬剤師3.0」実現のための処方箋(6)


  • ファルメディコ株式会社 代表取締役社長/医師・医学博士 狹間 研至 先生

はじめに

薬剤師に限らず、医療専門職のあり方は時代とともに変わってきました。医師は、治療一辺倒の時代から、Quality of Lifeや予防、さらには、緩和ケアから Quality of Deathを考えるなど疾病に対する立ち位置が大きく変わってきました。看護師も、看護婦と称していた時代は、もうずいぶん昔のことになり、診療のお世話をするという立ち位置から、看護学に立脚した系統的看護を自律的に行うことが普通になってきました。看護師教育も、4年制の大学教育課程を有するところが 多くなってきたこともあり、今後、ますます医療における活動の場は、広がっていくと予想されます。薬剤師は、4年制教育から6年制教育に移行して、10年以上が経過しています。また、薬剤師法や医薬品医療機器等法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)の改正によって、薬剤師の果たすべき役割や義務なども変わりつつあります。薬剤師が従来の2.0型から、来るべき地域包括ケアシステム時代に求められる3.0型に変わるために、ヒントとなる考え方を整理してお示ししたいと思います。

患者さんとの接点までの機序が変わる

いわゆる「調剤薬局」において、患者さんとの接点は、今まで、薬局に患者さん自身が処方箋を持ってこられることで作られてきました。患者さんがその薬局にお越しになるのは、お目当ての医療機関で受診を済ませた後、近くにあったり、立ち寄りやすかったりという立地的な要件が理由の多くを占めていたのではないでしょうか。この患者さんの流れがあることで、薬剤師の業務特性やマインドは、基本的に受動的なものになってしまったように感じます。
患者さんは、医療機関に受診した後、自然な流れで立ち寄られます。そこで、医師が発行した処方箋を受け取り、問診情報などに基づいて疑義が生じれば、速やかに医師に照会し確認がとれれば、迅速に調剤を行います。薬をお渡しし、業務が終わるという仕事を毎日していると、業務時間内の行動パターンは極めて受動的になるのも無理はないかもしれません。
一方、これからの地域医療では、在宅の患者さんにこちらから薬を届けることも業務の中で増えていくでしょう。この場合、患者さんは、医師の診察が終了した後、薬局に出向かずに、薬剤師が訪問したり、薬を配達したりすることを望まれます。いわば立地的な条件から「薬局選び」の基準が変わっていくわけです。薬剤師が単に薬を準備して届けるということだけでは、敢えて私たちの薬局を選んでいただく理由を示すことはできません。いわば、自薬局や薬剤師としての「売り」を、能動的に作り、適切にアピールしていく観点が必要になります。受動的に患者さんを迎え、受動的に患者さんのニーズに応えるというマインドから、積極的に患者さんに選んでいただき、患者さんの気づいていない困りごとを専門家ならではのアプローチで解決していくスタンスが必要になっていくと思います。

薬剤師の業務の範囲が変わる

冒頭でも触れましたが、2020年9月の薬剤師法改正によって、薬剤師の必要に応じた服用後のフォローが義務化され、アセスメント内容を医師にフィードバックすることは努力義務化されました。これは2015年10月に厚生労働省から示された「患者のための薬局ビジョン」にある「対物業務から対人業務へ」ということが、具体化されたと考えることもできるでしょう。
対物というのは、薬という「物」が中心になり、薬を患者さんにお渡しするまでが焦点になる業務です。一方、対人というのは患者さんという「人」が中心になり、薬をお渡しした患者さんが、医師の処方通りに正しく使用し、想定される副作用をおこさず、期待する作用を発揮できているかを確認するところまでを焦点とする業務になります。
従来の「調剤薬局」で行ってきた、いかに患者さんに早く・正しく・分かりやすく薬をお渡しするという業務に特化した店舗作りやスタッフ教育、業務マネジメントではなく、本連載でご提示している薬局や薬剤師の3.0という形態では、患者さんの症状改善や疾病治療を医薬品の適正使用、医療安全の確保を通じてどのように達成していくのかという業務を考えた店舗作りやスタッフ教育、業務マネジメントが必要になっていくでしょう。そして、これらのことは、前項で述べた、患者さんに能動的にアピールしていく自薬局や薬剤師の「売り」を作り上げていくことに直結していきますので、薬局の運営や薬剤師のライフプランを考える上からも重要になります。しかし、現状では、調剤業務の重心が対物業務にあることや、対物業務を整理しなければ対人業務に取り組む時間・気力・体力を薬剤師に確保することが難しかったことから、なかなか進んできませんでした。
しかし、2015年以後の業界の変化の中で、調剤報酬も少しずつではありますが、対人業務にシフトし、さらには、2019年4月の厚生労働省通知「調剤業務のあり方」(いわゆる0402通知)によって、対物業務の整理を行いやすい環境になってきました。この通知では、薬剤師が服用後のフォローや医師へのフィードバックを行う体制を整備することを薬局開設者に義務づけています。また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって外来患者数が減少し、外来患者さんの対物業務を専業とする「調剤薬局」というビジネススタイルの見通しは不透明になってきました。そういった環境を見れば、薬局や薬剤師を3.0に移行する時期は到来していると思います。

保険調剤以外の売上も視野に入れる

私が2.0と呼んできた「調剤薬局」では、売上の99%は保険調剤が占めています。しかし、今後の調剤報酬の展望や、前述した新型コロナウイルス感染症による患者さんの受療行動の変化、立地という概念をゼロから覆すオンライン診療やオンライン服薬指導の拡大によって、立地依存型の対物業務薬局で、調剤報酬をコツコツと積み上げていくことは難しくなってきていると思います。加えて、人口動態や疾病構造の変化がある中で、国民皆保険制度を堅持するためには、自己負担の増加や健康保険制度の適用範囲の縮小をどこかで検討せざるを得ない可能性があります。従来の「調剤薬局」は、やはり、保険調剤のみに依存した薬局や薬剤師のあり方を変えていかなければならないと思います。
では、保険調剤以外に何を考えるのか。1つは、在宅療養支援への取り組みを進め、拡大することです。「住み慣れた場所で最期まで」という「地域包括ケアシステ ム」の概念を具現化するには、在宅で療養され、そこで看取りまでのサポートを必要とする患者さんが安心して過ごせる医療提供体制の充実が不可欠です。高齢で介護を必要としながら在宅で療養される患者さんへの関わりは、「居宅療養管理指導」という介護保険制度の枠組みで行われています。「薬局が介護保険!?」という違和感も、この10年ぐらいでずいぶん薄れてきました。取り組みやすい環境は整ってきたと思いますので、是非、進めていっていただきたい分野です。
そして、もう1つは、保険外の売上、すなわち、OTC薬や機能性食品、医療衛生材料など、健康保険や介護保険を用いないサービスや商品の提供を行う取り組みを始めることです。前述のごとく、自己負担の増加や健康保険の適用範囲の縮小が少しずつ進んでいくとすれば(前者はすでに始まっています)、セルフメディケーションやセルフケアへのニーズは金銭的な理由からも上がっていくでしょう。セルフメディケーションの結果として、OTC薬などを薬剤師が販売する機会は増えていくと思います。調剤が立地依存で進んできたように、OTC薬などは価格を含めた利便性依存で進んできた感じがしますが、これを打破しなければ、セルフメディケーションは、価格や品揃え、立地に強いドラッグストアやネット販売ということになってしまいます。しかし、医療用・一般用を問わず、服用後のフォローは薬剤師の業務になっています。もし期待された効果がない場合には、他の重篤な疾患の有無のチェックを含めて、受診勧奨を行うことができます。このように、薬剤師が患者さんとの接点を広げていくことで、利便性依存でないOTC薬販売が可能になり、今は微々たるものであったとしても、中期的には薬局が持つべき売上の1つとなっていくと考えています。

おわりに

薬をお渡しするまでが勝負ということであれば、資金力や組織力に優れ、機械化やICT化も積極的に進められる大手企業に中小薬局はかなわないということにもなりかねません。しかし、今回お話ししたようなポイントを意識して、次世代の薬剤師像をイメージし、3.0型の薬局や薬剤師のあり方を具現化していくことで、道は開けてくるのではないでしょうか。

次世代の薬剤師:薬剤師3.0
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