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maruho square リスクマネジメント:褥瘡治療外用薬の基剤は薬効成分と同等の効果をもつ ~基剤特性が細胞外マトリックス複合体形成に関与して治癒を促進~ 


  • 医療法人愛生館 小林記念病院 褥瘡ケアセンター センター長 国立長寿医療研究センター 薬剤部研究員 古田 勝経 先生

はじめに

高齢者に特有の疾患ともいえる褥瘡は、外用薬による治療法が汎用される。治らないという医療者の偏見は根強いが、治せない要因の一つに外用薬の不適切な選択がある。使用される外用薬は軟膏やクリームである。従来、薬剤選択は薬効成分である主薬の効果により処方されるが、その時点で不適切な薬剤選択となることが多い。薬剤師は褥瘡という疾患の特徴を理解したうえで、基剤に着目した薬剤選択をすすめるべきである。
処方された外用薬が期待どおりに効果を現わさない要因は、病態と合致しない主薬の選択か、滲出液量に見合った特性をもつ基剤が選択されていないかのいずれかである。「基剤ファースト」の考え方が薬剤選択の最重要事項である。

基剤の存在感

外用薬は主薬と基剤で構成されており(図1)、基剤は効果に影響しない添加物として扱われてきた。褥瘡治療では創の湿潤状態が適正に保持されることが治癒基盤とされ、滲出液量の多少により基剤特性とのマッチングが影響する。医師に対するアンケート調査では、外用薬の使い分けができないと回答した割合は全体の80%以上にのぼる。その主な理由は主薬の効果で選択するのではなく、基剤特性によって薬剤を選択しなければならないことを上げている。その基剤特性は薬剤師が知っている分野であり、知らないではすまされない。

図1. 軟膏・クリームにおける基剤と主薬の割
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図1. 軟膏・クリームにおける基剤と主薬の割合

基剤特性と機能

基剤特性には水溶性、乳剤性、油脂性があり、乳剤性にはW/O型とO/W型があり、水と油が混合された基剤を親水性基剤としているが、この両者では特性が大きく異なり、W/O型は油脂性に近く、O/W型が親水性となる。製剤学的な観点と臨床上の観点とは乖離が存在するために、使い分けは難しくなる。図2は特性からみた基剤の機能を示したものである。この分類は実際の薬剤選択に役立つものであり、分かりやすい。この機能を用いて創の治癒に適した湿潤状態を維持することが褥瘡の治癒を促す。

図2. 基剤の特性からみた機能
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図2. 基剤の特性からみた機能

基剤の新たな機能
-細胞外マトリックス複合体形成

基剤の機能は、肉芽形成過程では滲出液量が多い場合に水溶性基剤による滲出液の吸収、滲出液量が少ない場合にO/W乳剤性基剤による補水が基本的に必要となる。また上皮形成では油脂性基剤が創面保護としての効果を果たす。このように基剤特性による水分コントロール/インバランス(図3)を行うことで主薬の効果を高める。その基剤の新たな役割として細胞外マトリックスの分子レベルで証明されたことから、基剤は単に添加物ではなく、主薬の効果を引き上げるための基盤として重要な機能をもつことが明らかになった。
それらに加えて基剤の新たな機能が明らかになった。基剤と創面との界面に細胞外マトリックス複合体が形成されることで筋線維芽細胞の増殖が促されて肉芽形成が起こる。平成25年度長寿医療研究開発費「NCGG*方式の統合的な高齢者褥瘡、皮膚潰瘍に関する学問体系の発展とそれらを基盤としたチーム医療体制の提唱に関する研究(23-13)・分担研究報告(薬物療法と創面評価の検討に関する研究)」(https://www.ncgg.go.jp/ncgg-kenkyu/documents/25/23xx-13.pdf)において、創面上の外液(滲出液)と基剤との界面においてバーシカンG1ドメインにSHAPとヒアルロン酸が会合し、肉芽形成されることはすでに明らかとなっており、褥瘡の創面上でも治癒に導く所見がすでに確認されている。補水性基剤の親水軟膏(クリーム)は化学的な特性に基づいて炎症複合体であるwound VG1F(versican G1 fragment) aggregatesを吸着して一体化する一方、吸水性基剤のマクロゴール軟膏は吸水能によってその複合体を外液中(滲出液中)に留めるような特性が証明されている。したがって、創でみられた生物分子が軟膏基剤に依存したクロマトグラフィのように局在を異にすることで機能を発揮することが示されている。最近の研究により細胞内と細胞外の情報伝達を担うことが解明され、さらに細胞外マトリックスと基剤による複合体形成の機序も明らかにされた。

NCGG: National Center for Geriatrics and Gerontology

図3. 褥瘡治療の水分コントロール/インバランス
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図3. 褥瘡治療の水分コントロール/インバランス

古田勝経:褥瘡外用療法のヒミツ-事例で学ぶ極意- 薬局 57(臨時増刊号)2006

基剤は単なる添加物ではない

主薬の効果が生かされるか減弱するかは、基剤の特性が創の状態に合致するかどうかが重要なポイントになる。特に肉芽形成過程では油脂性基剤や水溶性基剤では細胞外マトリックス複合体は形成されず、O/W乳剤性基剤では複合体が形成される(図4)。したがって、主薬のみでの薬剤選択はピットフォールに陥り、より難治化させることになりかねない。そのため基剤ファーストによる薬剤選択が不可欠となる。これにより治癒期間が短縮される可能性がある。この薬剤師の視点による治療理論を古田メソッドという。外用薬を効果的に作用させるには「基剤ファースト」による薬剤選択が不可欠であり、薬剤師は基剤特性に基づいた処方提案をすべきである。

図4. 基剤により異なる細胞外マトリックス複合体形成
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図4. 基剤により異なる細胞外マトリックス複合体形成
Murasawa Y, Furuta K, et al:Ointment vehicles regulate the wound-healing process bymodifying the hyaluronan-rich matrix, Wound Repair Regen 26(6):437-445.2018より作図

おわりに

基剤は添加物との認識は長年変わってこなかった。しかし、褥瘡の外用薬治療を通して薬剤師が初めて基剤の重要性を認め、主薬と同等の効果や機能をもつことを明らかにした。医師や看護師が治らないとしてきた褥瘡治療は、薬剤師の介入で大きく様変わりさせることができる重要な分野である。

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