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maruho square 保険薬局マネジメント:介入研究でエビデンスの得られた保険薬局薬剤師向け教育プログラムや資料の普及をめざす


欧米では1990年代から糖尿病や高血圧など慢性疾患患者に対する保険薬局薬剤師(以下、薬局薬剤師)の対人業務に関して様々な臨床研究が実施され、エビデンスが得られるようになった。2000年にWHO(世界保健機関)とFIP(国際薬剤師・薬学連合)が『Developing Pharmacy Practice-A Focus on Patient Care』を提言し、薬局薬剤師の業務は対物から対人へと加速した。日本では2011年から岡田先生らが糖尿病や高血圧患者に対する薬局薬剤師の生活習慣改善支援に関して初めてとなるクラスターランダム化比較試験(RCT)-COMPASSプロジェクトを実施。薬局薬剤師の有用性を示すエビデンスを発信するとともに、薬局薬剤師向けの教育プログラムや資料の普及にも努めている。岡田先生から同プロジェクトを始めた経緯と実際、今後の展望を伺った。

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京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 健康情報学 特定講師 岡田 浩 先生
  • 京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻 健康情報学 特定講師 岡田 浩 先生

薬局薬剤師の声かけや資料提供が、患者さんの行動変容、治療効果に繋がる

2005年、小中学校の教員から、40歳で薬局薬剤師に転身した岡田先生。コーチングやモチベーショナルインタビュー、認知行動療法などの書籍を読んでは、そのスキルを薬局で試しながら、使えるスキル、使うための工夫を明確にしていったという。
例えば、糖尿病の患者さんに「血糖値が高いので、運動してください。お酒の量を減らしてください。」と指導をしても、「血糖値が高いままだと、足を切断するようなことになりますよ」と説明しても、生活習慣は改善しない。健康行動科学の行動変容モデルでいう“無関心期(治療にも薬剤師の説明にもメリットを感じていない)”の患者さんに対して正論を振りかざせば、怒られたり嫌われたりとトラブルになる。
岡田先生は「無関心期の患者さんには、行動を変えようと自らが思うまで、関係性を維持しておきます」と話したうえで、「医師から体重を減らせと言われた」、「何種類も薬を飲んでいるが、大丈夫だろうか」などの不安から、患者さんが何か行動できることはないかと思い始めたタイミングで、「何をやってみたいですか」と聞く。「運動しましょう」などの提案では行動変容は起きない。頑張れそうな一歩を一緒に探し、続けられるように応援することの重要性を強調した。
具体的には、血糖値を上げる原因として、患者さんが「いちご大福にはまっているから」と話せば、「それをやめましょう」ではなく、「いちご大福いくつ食べていますか」「どんな時に食べますか」と聞いていく。すると、自ら「やめてみようかな」と話すようになることもある。その後、いちご大福をやめて血糖値が下がれば、一緒に喜ぶ。
「血糖値が上がる原因が分からない」と話す患者さんには自己血糖測定器による測定を促したこともある。それにより、「寝る前にウイスキーを飲んだら血糖値が高い」「昼食時に力うどんを食べていたが、昼間だけ血糖値が高くなる」と患者さん自身が原因に気づき、自発的に生活習慣を改善するようになったという。

京都大学大学院医学研究科(京都市左京区吉田近衛町)
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京都大学大学院医学研究科(京都市左京区吉田近衛町)

ただし、患者さんに窓口で、「食事も運動も薬も」と長く話せば、薬局業務に支障が出るだけでなく、実は行動変容も阻害してしまう。何でもやろうとすると、結局何もできない。行動変容は、ある行動にフォーカスすること、情報量をコントロールすることが重要である。そのためにやるべきことを1つに絞り、配布資料を活用した。「患者さんは一見、いろいろな質問をしているようにみえますが、だいたいパターンがあり、類型化できます。」と岡田先生。A4版1枚1テーマで、絵や図を用いて、糖尿病14種類、高血圧13種類の資料を作成。「毎日30分も散歩しているのに少しも痩せない」と言いながら薬局であめを買っていく患者さんには、あめのカロリーと散歩での消費カロリー時間を示した資料(図1)を渡し、「6個食べると、だいたい30分の散歩と同じカロリーだよ」と話したり、寝る前に梅干し入りの焼酎を飲んでいる患者さんには、塩分と血圧の関係を示した資料(図2)を渡し、「塩分1g減らせば血圧が1mmHg下がるので、梅干し1個やめれば血圧が2mmHg下がるよ」と伝えたりしていた。

図1:間食と散歩時間
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図1:間食と散歩時間
図2:食品と塩分量
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図2:食品と塩分量

岡田先生は「薬剤師はまず情報を取ろうとしますが、人は取られることを警戒するので、先に何かを渡すことが大切です。スーパーの試食コーナーでウインナーを貰えば買わないと悪い気がするのと同じように、薬剤師から紙1枚でも貰えば、検査値を言いたくない人でも検査値を教えてくれることがあります。これを“互報性”と言い、作成した資料以外にもメーカーのパンフレットなどを患者さんに積極的に配布しました」と話す。
また、勤務先薬局に保管されている薬歴に記載されているHbA1cを薬局薬剤師の介入有無で比較したところ、約1割の患者さんに薬の減数・減量無しでHbA1c値の改善が認められていた。そこで、2007年頃からその成果を学会や論文などで積極的に発表し始めた。

他職種や患者さんに薬局薬剤師の有用性を示すためにRCTを実施
~COMPASSプロジェクト

岡田先生は、患者さんや他職種、薬局薬剤師自身の納得を得るために客観的なデータを示すRCT実施に向け、2008年9月に京都医療センター臨床研究センター予防医学研究室の研究員となった。
まず科学的再現性を担保するために、薬局のカウンターで、どの薬剤師が行っても同じ水準で、患者さんに行動変容を促すことが可能となる介入方法を薬局薬剤師が習得するための教育プログラムを開発した。その後、2011年から血糖コントロール不良の2型糖尿病患者を通常通りの服薬指導群と教育プログラムに基づいた3分程度の説明を行う介入群に分け、6カ月後のHbA1cの変化を1次アウトカムとしたクラスターRCT『COMPASSプロジェクト』をスタートさせた。同プロジェクトに参加する薬局薬剤師は、前述した教育プログラム「薬局版動機付け面接や情報提供用資料の使い方(1回に渡す資料は必ず1枚で、その内容についてだけを話す)」などを学ぶことを必須とした。50薬局で実施された結果、3分程度の短い介入でも、薬局薬剤師が声かけや配布資料による情報提供などをすることにより、6カ月後のHbA1cは両群間で0.4%差がみられ改善した(図3)。
続いて、同様の手法を用いて、2014~2015年に高血圧患者の血圧改善効果を検証する『COMPASS-BP』を、2015年に自己血糖測定器を用いた糖尿病患者の血糖改善効果を検証する『COMPASS-SMBG』を実施。いずれにおいても、薬局薬剤師による積極的な介入の有用性が実証された。

図3:ベースラインから6カ月後のHbA1cの変化
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図3:ベースラインから6カ月後のHbA1cの変化

エビデンスのある介入方法を広め患者さんの健康への貢献をめざす

現在、薬局を感染源としないためのCOVID-19対策プロジェクトや緊急避妊薬に関するプロジェクトなど、10近いプロジェクトを進行させている。岡田先生は「薬局薬剤師の業務は社会に評価されるべきであり、それを示すことも仕事だと思います。そもそも臨床研究を始めたきっかけは、自らが薬局薬剤師として経験した楽しさや、誇らしさを広く全国の仲間にも味わって欲しいという気持ちでした。臨床研究に関するアイディアやモチベーションがある薬剤師がおられれば、ぜひ応援させてほしい」とも話す。実際、COMPASSプロジェクトで使用するために開発された教育プログラムは『3☆ファーマシスト研修』として全国で開催されている。今後も、岡田先生は、臨床研究を進めるとともに、教育プログラムや資料の開発に努め、薬局薬剤師のやりがいや患者さんの健康への貢献をめざしていくと話した。

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