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maruho square 地域包括ケア時代の薬局経営:管理職が知っておくべき経営 


  • HYUGA PRIMARY CARE株式会社(きらり薬局) 代表取締役社長/薬剤師 黒木 哲史 先生

はじめに

私が13年前(当時29歳)に福岡県太宰府市にて1店舗目を3人で開局しました。実家は薬局でもなく、事業をしているわけでもなく、普通のサラリーマンの家で育ち、第一薬科大学で薬学教育を受け、調剤薬局、MRを経ての薬局開業でした。私は開業当時、薬剤師としては一応の知識を持っていましたが、経営はまったく初めての体験で大変苦労したのを覚えています。(未だに苦労は絶えませんが。)
経営に失敗するということはその法人が破産(解散)するということを意味します。従業員、ステークホルダー、患者さんに多大な迷惑をかけることになります。何より「医療サービスの継続」ができません。きらり薬局の1店舗目は自己破産案件からのスタートだったこともあり、私は資本主義のシビアな現実を目の当たりにして経営してきました。「経営」がそれだけ重要なことであるにも関わらず、「経営」に触れる機会が少ない薬局従事者はまだまだ多いように感じています。そんな薬剤師の方々に、私の経営経験と薬局経営の要締をお伝えできればと思います。

HYUGA PRIMARY CARE株式会社(きらり薬局)の自己紹介

店舗
福岡県、佐賀県、千葉県、東京都、神奈川県に調剤薬局33店舗、ケアプランセンター5事業所
職員数
約400名(薬剤師200名、ケアマネジャー15名)
その他事業内容
ボランタリー事業(他法人の調剤薬局在宅支援事業)400店舗加盟

経営を持続するという難しさ

私もサラリーマン時代には給与が普通に振り込まれ、店舗運営を日常通り行っていくことが当たり前という感覚でした。しかし、いざ経営を実際に行ってみると、実はとても大変で崇高なことだと気付かされます。当たり前のことですが、社会には多くの同業他社が存在し常に競争をしています。薬局もサービスやコストの競争にさらされ、そこで勝ち抜きながら、継続的に患者さんに来局してもらい法人は成り立っています。
競争に負けた薬局が自己破産すると会社を清算することになり、社長と奥さんは自己破産。仕事を探す従業員、薬剤師を実際に何人も見てきています。直近では新型コロナウイルスによる受診抑制も甚大な影響を与えています。そのような時代だからこそ「管理職が経営を知る」というのは重要なことであると考えています。

管理職に必要な薬局経営の会計知識と重要業績評価指標(KPI)

会計知識というのは高校、薬系大学のカリキュラムに入っていません。社会人になり自主的に学ばなければいけません。一般的に言われているのは自社の財務3表〔損益計算書(PL)、貸借対照表(BS)、キャッシュフロー計算書(CF)〕の把握と理解が必要ということです。
それに加えて管理職がKPIを決めて、同業他社と比べ自社がどれくらい劣っているか? どこが優れているか?を把握することは絶対条件です。そして具体的な施策を決定し、速やかに実行しKPIを改善する。基本的にはこれの繰返しです。

KPIの例

KPIとして、「在庫」「原価率」「労働分配率」などが挙げられます。これらの意味を理解し、打つ手を考えなければいけません。「在庫」は何故、少ないほうがいいのか?「原価率」は営業利益にどう影響があるのか? 「労働分配率」は適正か? これらが最終的には財務3表(PL/BS/CF)に全て紐づいてきます。
まずは2、3個のKPIを設定し月次で確認することをお勧めします。KPIをどの指標にするかは経営者の意思が見てとれると思います。
店舗経営(KPIや財務諸表)だけ改善しようとすると、調剤薬局のような労働集約型*)事業の場合は、ほとんどのケースで従業員の方には説明の手間が増えたり、現在よりも少ない人員で業務を回さないといけなくなったりと、患者さんへのサービス低下などが起こります。また、KPIが改善しても、従業員の方にすぐに目に見えるプラスの変化があるわけではありません。(期末の賞与が少し増えるくらいでしょうか)なので意見が対立することが日常茶飯事です。

  • *)労働集約型:労働力に対する依存度が高い産業(例:接客対応中心のサービス業など)

私の考える「管理職の定義」

対立の仲介人になるのが管理職です。現場の業務量と患者サービスの質と経営側の意見(店舗のPLなど)の「落とし所」をどこにするのか? というのが一番重要になってきます。その落とし所を考え、会社に助言し、全体で意思決定し、それを実行する最前線の現場責任者と考えています(図1)。

図1:経営、患者サービス、従業員の視点
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図1:経営、患者サービス、従業員の視点

重視しているKPI

弊社が重視している3つのポイントとして、①粗利(売上総利益)、粗利益率、②労働分配率、③営業利益額、営業利益率があります。この3つの視点を押さえておけば大コケすることはないと考えます。

1)粗利(売上総利益)

粗利は保険調剤薬局の場合は概ね、①技術料、②居宅療養管理指導料、③薬価差益の合計になります。粗利の改善は一般的に処方箋枚数を増やす。医薬品の仕入れ率を改善する。加算を算定する。
などが挙げられます。

2)労働分配率

労働分配率は粗利を労務費(人件費)で割ったもので、粗利に対して人件費がどれくらいかかっているのかを示す指標です(図2)。労働分配率=人件費÷粗利という数式が成り立ちます。分子の「人件費」の内訳は従業員の給与、従業員の賞与、社会保険料、福利厚生費、交通費、退職金の引当など、全てが含まれます。一般的には40%~60%くらいといわれています。65%以上を超えると経営的に成り立たないケースが多く見受けられます。適正人員を確認するために、非常に重要な指標です。

図2:労働分配率
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図2:労働分配率

一概に低ければいいというわけではありませんし、診療科目などや外来人数と在宅人数の比率でも大きく変わります。条件が違う店舗同士を比較するよりは、過去と現在で自店舗の労働分配率を比較するのが現実的だと考えます。

3)営業利益額、営業利益率

営業利益額とは損益計算書上に表される利益の一つで、店舗が本業で稼いだ利益のことをいいます。粗利(売上高-原価)から販売費および一般管理費を差し引いて計算します。厚生労働省が店舗規模別のデータを公表しています()。

表:医療経済実態調査
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表:医療経済実態調査
第21回医療経済実態調査(医療機関等調査)報告(2017年実施)

営業利益率は、1店舗で3.8%、6~19店舗で8.3%となっています。営業利益はマイナスが続けば事業自体の継続は困難になります。少なくとも5%以上を確保することが大事ではないでしょうか?

情報を知るスピードも大事

私のところには毎月10営業日くらいには前月の各店舗別のPLが出てきます。ある薬局で3ヶ月以上前のPLしかないという薬局さんがありました。早く税理士さんに提出してもらうように助言しました。3ヶ月前のデータでは間違いなく対策が遅くなり、状況も変わっています。せめて前月のものが当月中に確認できるようにしたいものです。

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