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maruho square 保険薬局マネジメント:患者持参型トレーシングレポートを活用した保険薬局薬剤師からの処方提案


近年、ポリファーマシーが問題となり、診療報酬上、薬剤師による減薬への対応(服用薬剤調整支援料1、2)が評価されるようになった。クオール株式会社(本社:東京都港区)クオール薬局笠間店ではトレーシングレポート(服薬情報提供書;以下、TR)を介した処方提案の取り組みを行っている。しかし、この方法では面識のない医師の場合限界があったと、同店薬局長の髙橋祐介先生は振り返る。そこで患者持参型TRを導入。「TRは減薬を含め処方変更に繋がるだけでなく、患者さんの生活背景や思いを含めた情報を医師へ繋ぐ手段になり得ることを実感しています」と話す髙橋先生に、患者持参型TR導入の経緯と実際、今後の展望を伺った。

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クオール株式会社クオール薬局笠間店薬局長 髙橋 祐介 先生
  • クオール株式会社 クオール薬局笠間店 薬局長 髙橋 祐介 先生

トレーシングレポートを介した減薬を含む処方提案に取り組む

近年、服用する薬剤数が多いのみならず、それに関連した有害事象の増加、服用過誤や服薬アドヒアランス低下などに繫がるポリファーマシーが問題になっている。
髙橋先生は、服用薬剤調整支援料が新設される以前から、ポリファーマシーの改善をめざし、TRを介した減薬への取り組みを行っていたという。TRは、調剤前に処方医に問い合わせて判断を仰ぐ疑義照会とは異なり、緊急性が低いものの、処方医に伝える必要があると薬剤師が判断した場合に、厚生労働省が提示する『服薬情報等提供料に係わる情報提供書』か、これに準ずる様式で情報提供できるものである。伝える情報は、残薬状況や服薬アドヒアランス、軽度な体調変化、一包化や剤形変更など多岐にわたる。
髙橋先生は、3年ほど前に赴任してきた同店でも、処方箋の主たる応需元の近隣病院に月に1回ほど訪問し、薬剤に関する論文などを中心に紹介を行いながら、一緒に患者さんを看ていくという信頼関係を構築し、TRを導入していったという。
2017年12月~2019年7月までに処方提案を122例に行い、うち66%で減薬を含めた処方変更がなされた。減薬理由として一番多かったのは、「症状改善」であり、「副作用・処方カスケード(服用薬による副作用が出て、それを改善するために別の薬が追加される連鎖)」、「腎機能低下」、「内服困難」などであった。

クオール薬局笠間店(神奈川県横浜市栄区笠間5-31-11)

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クオール薬局笠間店(神奈川県横浜市栄区笠間5-31-11)
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クオール薬局笠間店(神奈川県横浜市栄区笠間5-31-11)

薬剤師からの情報が診療に反映されず患者持参型トレーシングレポートを導入

かかりつけ薬剤師として、たくさんの患者さんを担当していることもあり、遠方の医療機関の処方箋を受けることも増え、髙橋先生は、「面識のない医師に処方提案、まして減薬を文書1つで提案しても良いのだろうかとかなり悩みました。しかし、私をかかりつけ薬剤師として信頼してくださる患者さんが不利益を被らないよう、TRを介した処方提案を少しずつ行うようになりました」と明かす。
ところが、面識のない医師の場合、患者さんから「診察時にTRに書いた話が出なかった」と打ち明けられることもあった。「TRは提出することや処方変更に繋げることが目的ではありません。診察時に医師から患者さんにTRの内容をフィードバックしていただくことが最大の目的だと考えています」と髙橋先生。そこで、医師が紹介状を記載し専門医に繋ぐように、薬剤師も患者持参型TRを導入することにより、薬局の立地環境に影響されず、面識のない医師であっても大切な情報を確実に繋ぎ、診察に反映できるのではないかと考えたそうだ。患者持参型TRは、①患者さんとともに問題点を評価する→②薬剤師がTRを作成し、患者さんと内容を確認した上で交付する(時には、処方箋なしで、後日来局依頼)→③次回診察時に患者さんの意志で、診察時の状況により医師にTRを提出するという流れだ(図1)。
2020年9月4日現在までに15例に患者持参型TRを実施(全てかかりつけ薬剤師として関わっている患者さん)。うち12例(80%)が医師にTRを提出し、その処方変更率は100%であった。残りは、2例が来局せず、1例は患者さんがTRを提出し忘れる(認知症高齢患者)であった(図2)。

図1:持参型トレーシングレポート
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図1:持参型トレーシングレポート
図2:持参型トレーシングレポートのメリット、デメリット
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図2:持参型トレーシングレポートのメリット、デメリット

患者さんの生活背景や思いを含め知り得た情報を患者さんの健康に繋げる

髙橋先生は、患者持参型を含めTRを積極的に活用してみて、医師に認知機能、残薬状況や症状改善による対象薬剤の検討などについて伝えるだけでなく、「TRは、患者さんの“生活背景”や“思い”とともに、薬剤師の評価を融合して記載できる手段で、医師にとって、目の前の患者さんに合った薬物療法を実施するためのアセスメントの1つとなるのではないかと思っています」と話す。
例えば、院内注射を初めて受けた骨粗鬆症患者さんから「注射して2時間ぐらい経った頃から頭痛や食欲低下などで体調がすぐれなくなり、夕食が取れなかった。翌朝には回復したものの、次の注射が怖い」という訴えがあった際には、infusion reactionの可能性を考慮し電話で伝えるという方法もあるが、薬剤の副作用の可能性も考えられるため、患者持参型TRで患者さんの状況とともに「注射するのが怖い」という“思い”を医師に伝えたという。その結果、医師は患者さんの思いを汲み取り、不安を軽減するとともに、患者さんの同意を得て、注射を試みたところ問題なく、今も継続しているそうだ。
このようにTRに患者さんの“生活背景”や“思い”を記載するためには、患者さんが薬剤師を信頼し、“生活背景”や“思い”をありのままに話してくれる関係を構築しなければならない。髙橋先生は、「いろいろな問題があり、有害事象や健康被害など何かしら起こる可能性のあると思われる患者さんには、特に“私が担当です”とは言わずに、毎回、同じ薬剤師が担当し、テレフォンフォローアップなども行いながら、患者さんと信頼関係を構築するようにしています。笠間店では、若い段階から担当制で継続的に患者さんを見ていくことのメリットを肌で感じてもらいたいので、積極的に担当患者さんを自主的に増やしてもらっています。患者さんが薬剤師を信頼してくれることで、本当の意味で、その方の生活が見えてきます。家族や友人の有無や状況、食事の回数や内容の変化などを知り、『その情報を聞き得て何ができるか』まで考え、適切な薬物療法に繋げ、患者さんの健康に還元できるように心がけています。そのために、かかりつけ薬剤師という制度を活用しない手はありません」と強調する。
今後、髙橋先生は、かかりつけ薬剤師機能をさらに発揮するために、患者さんの性格や状況などを見ながら、患者さん自身が積極的に治療に参加する(参加型治療)という行動変容を促すためにも、患者持参型TRに力を入れていきたいと話す。なぜなら、20種類以上の多剤併用療法を受けていた患者さんとともに、患者持参型TRを活用し、患者さんのペースで減薬を少しずつ実現したところ、患者さんが治療に前向きになり、自ら医師と減薬について相談するという事例を経験したからだ。髙橋先生は、「患者持参型TRは、内容にも、医師への提出にも患者さんの意志が大きく関わるため、患者さんの治療への参加意志を高めるのではないかと考えています。患者持参型TRは、これまで面識のない医師に対して導入していましたが、これからは患者参加型医療という視点からも導入を考慮していきたいと思います」と述べられた。

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