静脈留置針穿刺時を含めた透析時の疼痛緩和のコツ:第1回 芳香性炭酸ガスを用いた疼痛緩和のコツ
静脈留置針穿刺時を含めた透析時の疼痛緩和のコツ
透析患者さんへの穿刺を行っている医療従事者の方にインタビューを実施し、各施設で透析患者さんの疼痛緩和のために行っている工夫やコツを紹介します。
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記事/インライン画像
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患者さん一人ひとりの痛みに合わせた緩和方法を行い、
精神面にも配慮していくことが重要です。日野クリニック(東京都日野市)
看護部 加藤 美穂 氏日野クリニックは東京都のほぼ中央部に位置する日野市にある透析専門病院です。
本クリニックでも透析中の疼痛に対するケアが大きな課題となっています。
そこで看護師の加藤美穂氏に、芳香性炭酸ガス浴などによる疼痛緩和への取り組みやその効果など、疼痛ケアのコツについてお伺いしました。
快適な透析ライフを送っていただくために、通院の利便性や他の医療機関との連携も重視
クリニックの特徴を教えてください。
当クリニックは平成7年の開業以来、日野市近郊における透析導入後の透析患者さんの受け皿として透析診療を行っています。当クリニックの患者さんは、近隣にお住まいの年配の方が多いですが、17~23時まで夜間透析を行っているため、仕事帰りの患者さんも多く来られます。JR中央線日野駅から徒歩1分とアクセスが良く、送迎サービスも行っているので、通院しやすい環境だと思います。さらに、グループクリニックである豊田クリニック(日野市)とも連携していますので、昼は豊田クリニック、夜は日野クリニックと、患者さんのご都合に合わせて通い分けていただくことも可能です。また、日野市立病院をはじめとする基幹病院とも密に連絡を取り合いながら診療を行っています。
穿刺に伴う痛みに対してはリドカインテープや冷却を、血管痛に対してはシャント肢挙上や温罨法(おんあんぽう)、血圧管理で対応
透析中のシャント肢痛を訴える患者さんはどの程度おられますか?
透析中、痛みや何らかの違和感を訴える患者さんは5人に1人の割合です。シャント肢痛の主なものは、穿刺に伴う痛みと血管痛によるもので、後者の方が多いようです。穿刺に伴う痛みは穿刺時の一時的なものですが、血管痛は約4時間にわたる透析中ずっと痛みを訴える患者さんもおられます。血管痛はシャントや穿刺部位、血圧変動などの様々な要因が絡んでいるため、痛みの程度に個人差があります。
これらの痛みを緩和するために、どのようなことを行っていますか?
穿刺に伴う痛みには、リドカインテープなどの貼付や冷湿布などによる穿刺部位の冷却を行っています。一方、血管痛に対しては、温めたタオルで血管を温める温罨法やシャント肢の挙上を行っています。温罨法では、患者さんから要望があればすぐに渡せるように、40℃前後に温度設定した保温庫に濡れタオルを入れて用意しています。さらに、血管痛を強く訴える患者さんには、透析施行中に継続して温罨法が行えるようスタッフが側につき、通常より多く(2、3回程度)タオルを交換するようにしています。
その他、人工透析では特に後半に除水に伴って血圧が低下することがあり、これが血管痛の原因になることもあります。そのため、透析中は30分~1時間おき、注意を要する場合には15分おきに血圧をチェックしています。
強い痛みを訴えるスチール症候群の患者さんに芳香性炭酸ガス浴が奏効、ストレス緩和効果も
シャント肢痛に対する芳香性炭酸ガス浴の効果について報告1)されていますが、この方法を導入したきっかけは?
以前担当した患者さんで、透析が最後まで行えないほど強い痛みを訴える方がおられました。鎮痛剤や血管拡張薬、シャント肢挙上、温罨法などあらゆる方法を試したのですが効果が得られず、さらにスチール症候群(内シャントに伴う合併症の1つで、透析により末梢循環障害が生じ、手指の冷感、しびれ、痛みなどの症状を呈する)も発症していたため、虚血による末梢循環障害が原因ではないかと考えました。そこで、当時主流だった抗菌炭酸足温剤に着目したのですが、抗菌炭酸足温剤は保険適応外でコストが高いため、市販されている炭酸ガス入りの固形入浴剤を用いて芳香性炭酸ガス浴を行いました。
芳香性炭酸ガス浴の方法
- ① 炭酸ガス入りの固形入浴剤を炭酸ガス濃度2,000ppmとなるよう、カッターでカットし、38~40℃のお湯1Lに入れ、完全に溶解する。
- ② ①にシャント肢の手関節から先をお湯に浸す。容器にはビニールシートをかぶせる。
- ③ 足し湯で38~40℃の温度に調整しながら約20分浸す。
芳香性炭酸ガス浴の具体的な方法は?
透析開始30分前にカッターで適量にカットした炭酸ガス入りの固形入浴剤を、38~40℃のお湯1Lに溶解し、そこにシャント肢の手関節から先を約20分間浸してもらいました。
固形入浴剤の分量は、抗菌炭酸足温剤による炭酸ガス濃度が1,000ppm以上とされていることから、ガス濃度が2,000ppmとなる大きさにカットしました。また設定温度を38~40℃としたのは、炭酸ガスが一番効果を示す最適温度と考えられているためです。逆にこれ以上温度を上げると血液の粘張度が増し、効果が低下すると考えられています。温度が下がりにくくなるように容器にビニールシートをかぶせ、さらに38~40℃を維持するよう足し湯で温度調整しました。
芳香性炭酸ガス浴によりどのような効果が得られましたか?
芳香性炭酸ガス浴施行前はシャント肢の肘部から上腕にかけての疼痛に加え、手関節から手指にかけての著明な冷感、しびれ、チアノーゼが認められていましたが、施行後は肌の血色も良くなるなど改善が認められました(図1)。
患者さんの満足感も高く、自宅でも疼痛やチアノーゼが出た場合などに芳香性炭酸ガス浴を行ってもらいました。また、芳香性のある入浴剤を用いたことで、透析前の緊張感がほぐれたり、好きな香りを選べるという楽しみもあったため、香りによる精神的なリラクゼーション効果が得られ、疼痛緩和に少なからず寄与したのではないかと考えられました。
疼痛には不安や恐怖心も影響すると考えられますので、我々看護師をはじめとしたスタッフには身体的苦痛だけでなく、精神的苦痛にも配慮していくことが求められていると思います。
前 | 後 | |
---|---|---|
冷感 | 5 | 0~1 |
しびれ | 5 | 0 |
チアノーゼ | 5 | 1 |
シャント肢上腕部痛 | 5 | 0~1 |
判定方法
芳香性炭酸ガス浴の前後に今の痛みを最もよく表すフェイス0~5までのイラストを患者にさしてもらう。
- 全く痛みがなくとても幸せ
- ちょっとだけ痛い
- それよりもう少し痛い
- もっと痛い
- かなり痛い
- 必ず泣くほどではないが、想像できる最も強い痛み
日々の良好なコミュニケーションの積み重ねで患者さんとの信頼関係を構築
患者さんと接する上で何か心がけていることはありますか?
当クリニックに通院される患者さんは、週に3日の通院を長年続けている方が多く、スタッフとも気心が知れています。ただ、その関係が嵩じると馴れ合いがでてきますので、適度な距離感を保ちつつ、常に真摯な態度で接するよう心がけています。また、患者さんが来院されたときにはしっかり顔を見て明るい声で挨拶し、会話の際にも言葉遣いが乱れないよう気をつけています。さらに、食事などの生活指導を行うことも看護スタッフの重要な職務ですが、患者さんの長年の生活習慣を否定することは避け、患者さんそれぞれの状況をみながら指導するようにしています。
このような日々のコミュニケーションを通して信頼関係を築いていくことが、患者さんに痛みを訴えやすい雰囲気や、気持ちを受け止めてもらえているという安心感を与えると考えています。リラックスした環境で透析治療を受けてもらうことも、疼痛の軽減につながるのではないかと思います。
今後の展望は?
クリニック全体の取り組みとして、さらなる穿刺技術の向上を目指しています。穿刺がうまくいかないと透析中も穿刺部痛がずっと尾を引くことになります。また、細い血管へ穿刺した場合、穿刺針が血管壁に当たりやすくなり、血管痛を招く原因にもなります。透析時の疼痛を軽減するためにも、看護スタッフ一人ひとりが熟練した穿刺技術を身につけることが重要ですので、日々努力していきたいと思います。
- 松田美穂ら:善仁会研究年報, 25, 47-49, 2004
- Whaley L Wong: Nursing Care of Infants and Children. ed 3, 1070, 1987
- Clinic Data
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医療法人社団東仁会 日野クリニック
〒191-0011
東京都日野市日野本町3-11-1 日河ビル3F
TEL:042-584-6621
- 静脈留置針穿刺時を含めた透析時の疼痛緩和のコツ
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- 第1回 芳香性炭酸ガスを用いた疼痛緩和のコツ
- 第2回 保冷剤を用いた疼痛緩和のコツ